15.吸血鬼さん、最善手を選び続ける。
「なるほど。ユスハだけは助けて欲しい、と」
「そうだ。頼む。お願いします……」
サザンの必死な姿が俺に訴えかけて来る。ユスハが何よりも大事な存在で、そして救いであるのだということを。
そうと分かったら――メチャクチャにするしか無い。
大事な存在も救いも同時にボロボロにして、そして見られる絶望と慟哭を逃すなど俺には出来ないのだ。
「悪かった。本当に悪かったと思っている。だから……」
サザンは何度も何度も『許して欲しい』と言うが、それは無理な相談である。
俺が『やめてくれ』と言った時に、勇者たちはその所業をやめることは無かった。良心の呵責に悩まされる様子も無く、むしろ俺の苦しむ反応を見て楽しんですらいた。
やりたい放題やって快くまで楽しんでいながら、自分がやられる番になったら『許して欲しい』とは都合が良すぎる。
だが……ユスハの所在を聞く為にも、一旦はこちらが折れたような態度も見せる必要はあるな。
記憶を吸って居場所を確かめることも出来るが、それをしてしまうとサザンのユスハに関する記憶が根こそぎ消えてしまう。
楽しむ時に記憶は保持していて貰わないと困るのだから、その手は取れない。
「……愛ゆえになせる自己犠牲といったところかな?」
「そ、そうだ。お前も人間なら私の気持ちが分かるだろう?」
「確かに……」
「……分かってくれたか」
俺が少し感化を受けたような演技をしたところ、サザンは容易に食いついて来た。
良い傾向であり、ここが大事な分岐点になる。変に怪しまれないように、あくまで僅かに心を動かされている感じで行く。
「まぁ俺も鬼では無いのでね。ただ、簡単に許してしまっては俺の留飲も下がらない。だから、最低限君は殺す」
「……先ほども言ったが、それは構わない」
「納得して貰えているようでなにより。……しかし、こうも愛を見せつけられてしまったら、俺にも少しだけ同情心が湧いてしまう。最後に一目ユスハに会わせてあげようと思わないでもない。……どこにユスハがいるか教えて貰っても構わないかな? 連れて来てあげよう」
「……それは」
「会いたくないのかな?」
「会いたいさ。もちろん会いたいが……お前がユスハに酷いことをしないという保障も無い。……酷いことはしないと約束してくれるのなら別だが」
サザンは不安げな表情で言った。どうやら、万が一を考えると心配で堪らないようだ。
保障を口にしたところで、俺の機嫌気分一つで全て無意味になる。それぐらい分かりそうなものだが、藁にも縋りたいのかも知れないな。
まぁ良い、それなら藁を目の前にぶら下げてやるだけだ。サザンの懸念を取り除く言葉を掛けてやるのだ。
「分かった命は取らないと約束しよう」
「本当か……?」
「もちろん。大体にしてティティ――あぁいやミーアを見れば分かるだろう。彼女は生きている。殺していないし死んでもいない。怪我をしている様子も無いだろう? むしろ記憶を失った彼女を保護したようなものだ」
「……記憶を失った?」
「何があったのか分からないが、俺が見つけた時には既に。……復讐をしようと思ってはいたものの、記憶が無いとなると酷いことも出来ないものでね。ああして服を買って与えてメイドみたいなことをさせて、なんとなく新しい名前を付けてみて、そんな小さな仕返しで満足してしまっているよ。そのうちに自由にさせようかと思っている」
「そう……なのか?」
「状況に応じて俺だって色々考えるさ。絶対に酷いことをするわけではない。だからユスハについても信じてくれていい」
俺がサザンの耳元で囁いた言葉は全て真っ赤なウソであり、よくよく冷静に考えればおかしい点は幾つもある。
だが、サザンは気づくことが無かった。
安心や安堵したい思いや、愛しい人に会いたい気持ちが入り混じり思考を鈍らせているのだ。
「そうか……なら良かった。最後に一目会いたい」
「じゃあ居場所を教えてくれるかな?」
「……ユスハもルヴィグの街にいる。私は街外れの赤い屋根の家を拠点にしているのだが、そこにユスハもいる。……ただ、少し見た目が変わっているから驚くかも知れないが」
「見た目が変わっている……?」
「あ、あぁそうだ。お前が先ほど私に質問して来た勇者のレベルが減少する件についてなんだが、実は解決する方法を私は見つけている」
それは俺が危惧していたことであり、ティティの次にサザンを狙った理由そのものでもある。
俺の”もしかすると”は的中していたらしい。
サザンは何かしらの解除の方法に辿り着いていたらしく、そしてユスハの見た目が変わっているというのもそれと関係があるようだ。
「詳しく聞きたいのだが……」
「……”疑似転生”、というものがある。今までとは違う生物になることで、自らに関わる一切の現象から解脱することが出来るんだ。ただ、この方法は魔王の力が必要だ。だから私は魔王の領土へ踏み入り協力を要請した」
魔王の領土で何かをする気なのは知っていたが、敵対していたハズの魔王に協力を仰ぐのは想像していなかったな。
予想外の手段であり、思わず俺も目を丸くした。
「だが、差し出した貢物が足りないせいで、魔王は疑似転生の手伝いは一人だけだと言った。私はそれを聞いて、自分よりもユスハをなんとかしてやりたくて……探して探して、そしてつい先月にユスハを見つけ、魔王の下で疑似転生を行った。だから見た目が変わっているんだ。今のユスハはダークエルフになっている。……あくまで”疑似”だから記憶も持ち越されている」
ダークエルフの容姿は褐色肌の銀髪だ。ユスハは白い肌にツヤのある黒髪が特徴的な女であったので、大変身と言える。
だが、どんな見た目になろうが記憶が残っておりユスハ本人であると言うのならば、個人的には何らの問題も無い。
やるべきことは明確だ。サザンとユスハの両片思いは決して実らないと諭し、その体が汚されて行くところを見せつけて心を破壊するのみだ。
しかし……それにしても、ティティの次に早急にサザンを狙った俺の判断はやはり正解だったな。
今はまだサザンもユスハの事しか考えられないようだが、一段落つけば余裕が出来て他の勇者たちを探し出し、そして疑似転生について教え始めたであろうことは容易に想像出来る。
貢物とやらを十分に集められれば、他の勇者も【吸血鬼】の効果から逃れてしまうという未来もあったのだ。
それを防げたのだから僥倖以外の何物でもない。
※
さて、早速ユスハを捕獲しに行こうとした俺だが……その前に一旦ティティにご奉仕をさせることにした。
サザンとユスハへの同時復讐の期待感に加え、【吸血鬼】の効果から逃れる術の情報も獲得出来たことで、俺の気持ちは今までにないくらいに昂り始めていたからだ。
自分自身の目が血走り鼻息が荒くなり始めているのも分かり、ひとまずはそれを鎮める為のご奉仕である。
俺は小屋の外でかなり激しく欲望を発散し、どうにか落ち着くことが出来るようになった。
「旦那……さま……ぁぁ」
ティティはぐったりと疲れた様子になりつつも、俺が戻るまでの間サザンの見張りを頼むと「かしこまりました」と頷く。
よし、それでは行くとするか。
続きが気になる、面白いと少しでも感じて貰えましたらブックマークして頂けると励みになります。ここから下にスクロールしたところにある☆☆☆☆☆の応援ポイントも頂けると嬉しいです!




