13.吸血鬼さん、小屋を探す。
ティティの時にも思ったが、神が俺に味方しているような気さえしてくる。こんなにもアッサリとサザンが見つかるとは夢にも思っていなかった。
魔王の領土を探し回ることになると考えていたところに、なんという偶然か。
「ミーア、私のことが分からないのかい?」
「ナンパでしょうか? 気持ち悪い」
「一体何が君に……というか隣のこの男性は?」
サザンは警戒心剥き出しなティティに困惑しながらも、ようやく俺の存在に気づいたようだ。だが、どうにも俺の顔を覚えていないらしい。
俺を虐める時のサザンの役割は楽しい遊び方の考案であり、ある意味でこいつのせいで俺は色々な弄び方をされたと言っても良い。
そこまでやっておきながら、全く記憶に無いと来たものである。
これならば、俺の顔を見て即座に思い出した以前のティティの方がまだ良心的とも言える。罪の意識も幾らかあったようだしな。
さてさて、この性質の悪い咎人をどう弄んでやろうか? そうだな……変に捻るよりもここはティティの時と同様基本に忠実に行こうか。
絶望を直接味合わせて楽しむのである。もっとも、最後だけはティティの時と違い命で罪を償わせるつもりだが。
女であれば手駒に加えても良いが、男は要らない。
例え有用なスキル持ちであったとしても、支配と征服の実感という最終段階の復讐となるご奉仕をさせられないからだ。
そういう趣味があるのならば別だろうが、俺はそうした趣向など持ち合わせていない。情欲は牝に対してのみ抱けるのだ。
弄ぶことを楽しみ最後には壊して殺す――男の勇者に対してはそれが一番の復讐である。
「あなたは誰ですか? ミーアの何なんですか? というかミーアのこの格好は……」
「ミーア? この子はティティですよ」
俺はすっとぼけて見せながら、小声でティティに「この男を気絶させるように」と指示を出した。すると、ティティはこくりと頷いて瞬く間にサザンの首の後ろに手刀を食らわせる。
「うっ……ミーア……な、なぜ私を……ユスハも待って……い……る……のに」
もとより戦闘向きでは無いサザンは、ティティの動きを捉えることはおろか防ぐ事すら出来ず、そのまま無防備に一撃を受けて倒れ込み意識を失う。
俺はサザンを担ぐと、ティティと共に誰にも見られないように屋根伝いに跳びながら街の外へと向かうことにした。
特別な問題は何も起きず、流れるような実に良い感じだ。
ただ……気絶する前にサザンは少しだけ気になることを言っていた。ユスハの名前を出して、”待っているのに”と言ったのだ。
まさかとは思うが、ユスハもこの街にいるのか?
酒場の主人の話では、サザンは自身を信じてくれた若者を連れて魔王の領土へ踏み入った、とかだったと思うのだが。
いや、その話は半年も前のものであり、半年と言う期間は状況が変わるのには十分過ぎるか。
まぁ詳しくはサザン本人に語って貰うとしよう。
仮に口を割らなかったとしても、どちらにしろ最後に”記憶を吸う”で記憶そのものを引っこ抜くつもりなので、それで確認を取れば良い。
※
サザンで楽しむ為の場として、俺はティティと手分けをして近隣の森にある無人小屋を探すことにした。
どこの森にも使われていない小屋が一つはあるものであり、俺とティティの視力や脚力を持ってすれば、それをものの数分で見つけることが可能だ。
ルヴィグの街に来るまでの道中では探さずに野営をしていたが、それは外でご奉仕を受ける為にあえてそうしていたに過ぎない。
「見つけました」
探索を開始すると早速ティティが発見したらしく、峡谷にぽつんとある小屋を指した。随分と古びており、数年所か数十年は誰も立ち寄っていなさそうな感じである。
中に入って見ると、見た目の印象通りにボロボロだった。床は抜けており、壁も所々が剥がされ天井には穴が幾つも空いている。
腐朽が見た目以上に酷いようで、極端に腐っている木材も多く目につき、異臭を放つそれらにはうじゃうじゃと蛆虫が群がっており不気味だ。
絶対に住みたく無いような小屋だが……だがまぁ、復讐をするのならばこうした雰囲気は絶好ではある。
「それじゃあ吊るそうか」
「はい」
ぐったりと意識を失ったままのサザンを縄でキツく縛り、まだそこまで腐ってはいない梁を軸にしてティティと一緒に吊るす作業を行った。
さぁ……準備はこれで整った。
そろそろサザンにも起きて貰うとしようか。




