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09.吸血鬼さん、若者に餞別を与える。

 サザンを見つけ次第に復讐を開始しつつ、ティティのレベルを上げる――それがひとまずの行動予定であり、大まかな方針は定まった。


 だが、今後の指針がそうして決まった一方で、解決しきれていない問題が一つ残っていた。俺が村を出ることでガタガタになるであろう交易流通だ。


 そのうちに良い案が思い浮かぶだろうとしていたが……これが中々どうして出て来ない。


 手慣れた者を交渉で外部から連れて来るという手もあるが、そういった人達は総じて料金が高く、それを払うのは実際に荷を頼む村の人達である。


 そうなると、ようやく蓄財が出来るようになったアトルの村の人達はまた貧乏になってしまう。


 それは俺の望む結果では無い。この村には平穏平和に栄えていて欲しいのだ。


 となると……消去法になるが、俺のように戦いも出来る荷運び人を育てるしか無さそうである。

 戦いに向くスキルを持つ村の若者を強制的にレベルアップさせて、馬車の動かし方を教えるのだ。


 レベルを上げる方法は幾つかあるが、今回はそこまで時間が取れないこともあり、裏技的な方法で一気に上げさせるとしようか。


 使うものはやはり俺のスキル【吸血鬼】だ。


 使い方の一つに”逆流”というものもあり、使用することで吸い出しの逆を行うことが出来る。つまり、他者に俺の何かを与えることが可能で、もちろん経験値もその対象である。


 随分と便利には見える使い方だが……本音を言えば、これはティティのレベル上げ以外には使いたくは無い。


 他者に経験値を与える使い方が出来るスキルというのは、ハッキリ言って珍し過ぎる。本来この手の効果が発現するのは、【聖者】や【献身】といった類の神聖なスキルの中でも極一部のみなのだ。


 そこそこ戦えるがスキルは【運び屋】の人、と認識されている俺がそれを使うのはありえない。


 俺を全身全霊で信じ、そして疑う事の無いティティにならば使うのも教えるのも問題は無い。口止めを命令すれば忠実に守ってくれる。


 だが、他の人物ならば、俺が経験値を与えられると知った時点で間違いなく疑いの目を持つ。だから使いたくはないのである。


 しかしながら、それでも手段の一つとして俺は採用した。

 もちろん理由がある。

 誤魔化す方法が無いことも無いからだ。


 非常に珍しく高価であるが、注いで溜めた経験値を与えられる道具が世界には存在している。それを使ったことにすれば良いのである。


 ただ、そんな高価なものを質素倹約している俺が幾つも持っているのはおかしいので、一回限りの誤魔化しだ。 





 俺はティティに家での待機を命じると、村へと出て一人の若者を呼び出した。

 ルードと言う名前の男の子である。

 以前に街に連れて行った若者たちの中の一人で、『剣を買いに行きたい』と言う理由を出した子である。


 この子は戦いに向くスキルを持っており、適任であった。


「セバスさん、どうしたんですか急に呼び出して」

「今から大事なことをお伝えします。……まず、俺は近いうちに村から出ていくことになります」


「――えっ⁉」

「色々と個人的な事情があるのです。ただ、村を出ていく事で俺が担っていた交易流通に穴があくことになるのでそれが心配です。なので、その代わりをルードにやって貰いたいと思っています」


「そ、そんないきなり言われても……」

「荷運びは【運び屋】のスキルを持つ人以外でも普通に出来ます。スキルを持っていた方が補助の分少し楽を出来ますが……まぁ無くても大丈夫です。ただ、護衛無しでとなると戦いに向くスキルを持つ者が適任になって来ます。そこで君だと俺は思いまして」


「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんですが……そもそも俺も俺でいつか都で一旗あげようと――」

「――それは知っています。ですから、それを諦めろとは言いません。少し思考を変えてこれは一つの試練だと思うと良いですよ」


「……試練?」

「そうです。荷運びの道中で魔物に出会い戦うこともあるでしょう。それは良い実戦経験になります。そして、荷運びをいつまでも続けていられないと思うのであれば、自分がいなくてもなんとかなる良い案を考えて下さい。これは発想力や咄嗟の機転、判断力を鍛えることにも繋がります」


 ただの言いくるめではあるが、それなりに筋が通っているように話せた。ルードも「そう言われると……経験にはなるのかも……」と考え込み始めている。


 あともう一歩。

 最後の一押しでルードは落ちる。


 ここがチャンスだと思い、俺は懐からガラス玉を取り出すと握りつぶして見せた。


「セ、セバスさん急に何を……」

「ルードに踏ん切りがつくように、俺が今まで大切に隠していた道具を使いました。”経験値を与える”という道具です。中に入っていた経験値がルードに注ぎ込まれたハズです。……一体どのくらいの経験値が入っていたのかは分かりませんが、足しにはなるハズです。ステータスを確認して見てください」


 ガラス玉は何の効果も秘めていない安物であり、経験値も俺が”逆流”を使ってルードに与えているのだが、それを教えるワケには行かないので適当にウソをついた。


 なお、与えた経験値は俺のレベルが全く変動しない微々たるものだ。しかし、それでもルードのようなマトモにレベルを上げた経験の無い子なら20ぐらいは上がったハズだ。


「す、凄い! 俺のレベルが6から一気に27にっ……⁉」


 どうやら俺の計算通りに20ぐらいは一気に上がったらしい。


 それなりに腕が経つ騎士や冒険者並みのレベルではあり、近隣に出る魔物への対処ぐらいならばステータス的に申し分が無いハズだ。


「この経験値はプレゼントです」


 にこりと笑ってルードにそう言葉を掛ける。すると、ルードは泣きながら俺に抱き着いて来た。


「俺の為に……俺の為に……ありがとうございます!」

「いいんです。この村を俺は愛しています。そんな村の為に、そこに住まう若者の為に……離れる前に何か出来ることしたかった。ただそれだけですから」


 先ほどのガラス玉の時とは違い、こちらの言葉は事実であり本音である。

 ひっそりと何も言わず出て行っても良いのにそれをしなかったのは、村や村の人達のことを考えたからだ。


「さぁルード、それではまず馬車の動かし方を教えます。こちらへ」

「はい!」


 ルードは元気良く返事をすると、俺の教える馬車の動かし方や荷運びにおける常識等について熱心に耳を傾けた。


 若いだけあって布が水を吸収するようにあっという間だ。夕方になる頃には一通りを覚えてくれたのは嬉しい誤算であった。





 家に帰るとティティがお風呂の準備をしてくれていた。外が寒いから、帰って来たらまずは湯に浸かりたいと思うだろうと判断したらしい。


 なんとも気が利く。俺はティティに手短に「ありがとう」と伝え、早速お風呂を頂いた。すると――数分も経たないうちにティティが脱衣所にやってきた。


 何かあったのだろうかと俺は首を捻っていると、裸になったティティが浴室へと入って来る。


「今日はお風呂でご奉仕致します」


 どうやらそういう事らしい。

 俺がその提案を断らず、しっかりと気持ち良くして貰ったのは言うまでもない事である。


 ちなみに、ご奉仕を受けながらティティへ掛けていた”経験値を吸う”を解除し、その後に”逆流”を使ってレベルもしっかり上げた。


 ルードよりもずっと多くの経験値を与えたので、今回ばかりは俺のレベルも212から211に下がったが……代わりにティティのレベルが一気に101まで上がったから良しとしようか。


 ちなみに、目標の140まで上げなかったのは、その場合俺のレベルがあと1~2ぐらい下がることが予想されるからだ。


 誤差の範囲内みたいなものかも知れないが、念には念を入れてあまり下げずに行きたい。ここから先はサザンを探しながら地道にレベルを上げさせる。


 100を越えていればスキルの補助や効果もかなり増えているので、苦になる相手もそうはいないハズだ。

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