今のはなし 2
「じゃあ、行ってくるね」
「うん。気をつけて行ってきてね」
「はーい」
お母さんに見送られて、わたしは勤務場所である花屋へと行く。
昔に比べて随分と平和になった今、道を歩く人々は活気で溢れてて、今からもう五十年近く前の荒れた時代を知ってるわたしとしては、この光景を見るだけでも安堵してしまう。
本当に、今は毎日が楽しい。
お店の店長も優しいし、お客さんも優しいし。
「あ、レイラちゃん」
「はい」
「悪いんだけど、これからスールの森に行って水を汲んできてくれないかな」
「スールの森ですか?」
「そう。そこの水で花を飾ると長持ちするって噂があってね、本当は僕が行けたらいいんだけど、生憎配達しなくちゃいけなくて」
「分かりました!どれくらいとってきますか?」
ということでわたしは店長に頼まれて、今まで一度も行ったことないスールの森へと向かった。
昔だったら、スールの森なんて魔物で溢れてて一般人は絶対に入れなかったのに。
今じゃ魔物もほとんど現れなくて、昔は危険とされてた場所にも平気で入れるようになった。
ふんふんと鼻歌を歌いながらスールの森に入り、教えてもらった湖がある奥まで更に足を進めた。
木々で囲まれた道は涼しくて、ふわり、心地いい風が肌を撫でる。
気持ちいい。
ちょっとした休憩のつもりで目を閉じた瞬間、地鳴りのような音が響いた。
「……これって」
感じる。
昔、何度も感じてた魔物の気配。
どうしよう、今なら誰もいないから魔法を使っても大丈夫なはず。
でも、もしかしたらどこかに人がいるかもしれないし……。
魔物が現れたときにどう対応するかを今から必死に考えるわたしだけど、結論が出る前に、前方の少し離れた場所にある木の陰から魔物が飛び出してきた。
仕方なく手をかざそうとしたのと、わたしの視界にフードを被った人が現れたのはほぼ同時で。
「どぅわっ!?」
危うく飛び出してきたその人に魔力をぶつけそうになって、慌てて空に放った。
……やってしまった。
よりによってなんで空にやったんだわたし。
そんなのしたら国の人たちにバレるでしょうがアホぉ!
すぐに顔を青くするわたしとは反対に、一瞬で魔物を斬ったその人は、ゆっくりと振り返った。
……え?
視界に映った顔に、目を見開く。
そこに立ってたのは、わたしが愛して愛してやまなかった愛しのダーリンだった。