今のはなし
お母さんの柔らかな声にゆっくりと目を開ける。
朝食のいい匂いが二階まで届いてきてて、ふふっと笑った。
ベッドから出て鏡に映る自分と向き合う。
……うん、やっぱ見た目は全然違うなぁ。
鏡に映るわたしは胸元辺りまでの焦げ茶の髪に、一般的な肌の色。
眉辺りで揃えたぱっつんの前髪から覗く目は二重でくっきりとしてて、自分で言うのもなんだけど整った方だと思う。
でも、前世のわたしはもっと綺麗な顔だった。
少し気の強そうな顔立ちはとても美人で、腰辺りまである真っ黒な髪はなにもしなくても常に艶やかで綺麗だった。
そんな顔立ちとは裏腹に意外とわたしは繊細で、惚れっぽくて、大好きな人もいた。
まぁ、その大好きな人にわたしは殺されて、こうして新しい命を生きてるわけだけど。
にしても……結局また魔力あるんだもんなぁ。
ふっと手を広げると、黒く渦巻いた小さな塊が一瞬にして浮かぶ。
昔のわたしと全く同じ……「魔女」と呼ばれてたわたしと同じ系統の魔力をわたしは持って生まれてきてしまった。
でも、このことを知られたら普通じゃいられなくなる。
だからわたしは今のわたしになって十八年間、必死に隠して生きてきた。
この国では魔法を使えるのが当たり前ではなくて、寧ろ使えない方が普通。
使える人は基本的に騎士団に入る。
ただ、まれにわたしのように邪気が籠った魔力を持ってる人もいて、そういう人を人は「魔女」と呼ぶのだ。
魔女になったわたしは人気のない森にある洞窟でひっそりと暮らしてて、そのくせ利用だけされて、最後は濡れ衣で死亡。
そんなのはもうこりごりだ。
渦を消して、一階に降りる。
テーブルに並べられた美味しそうな料理に頬を緩めて、いただきます!と元気よく手を合わせる。
お父さんは騎士で、わたしが三歳のときに魔物に襲われて亡くなった。
以来お母さんと二人でこの家で暮らしてるわたしだけど、優しくて、少しおっちょこちょいなお母さんとの暮らしはとても平穏で、幸せで、大切な毎日。
わたしは絶対に、この日々を壊したりしない。