8.エマは不思議な子
守護天使になって1週間が過ぎた頃、アリエルは暇すぎて大変なことになっていました。
「あー、暇じゃ、暇じゃ。 退屈でおかしくなりそうじゃ。」
エマは一日中ベビーベッドで寝てるのでアリエルも同様にエマの側を動けません。最初の数日は、他の守護天使とテレパシーフォンで暇を潰しましたが、最近は話題が尽きました。エマとはおしゃべりもできないし、本当に暇なのです
今は、アーシャとエマがいっしょにお昼寝しています。アーシャの守護天使の智天使マリンとおしゃべりができます。
「毎日、暇なのじゃ。そなたがいて助かるのじゃ。」
さっそく、話しかけます。
「まだ、1週間です。先は長いですよ。」
「そうじゃな。」ため息をつきます。
「そうだ、姫様。丁度いい機会です。エマとアーシャの魂を比べて見ましょう。」
「そうじゃな。妾も気になっておったのじゃ。」
アリエルもエマは不思議な子だと思っていました。それに、暇つぶしになります。
「では、さっそく始めましょう。」
① 脳と魂をリンクする霊的な光ファイバーケーブル
「これは、それほど見た目は違わんのう。」
「はい。ですが、私たちは普通のケーブルですので、性能の差は10倍です。」
「なんと、10倍じゃと。すごいな。」
「これなら、脳と魂を私たちの10倍の速さでミラーリングして同期が取れますね。」
「ところで、ミラーリングとは何じゃ?」
「脳が記憶したこと、感じたこと、思ったこと、考えたことなどが、鏡に映したように正確に魂に反映されます。」
「なるほど。では、同期とは何じゃ?」
「例えば、脳が何かを記憶すれば、それと同時に魂にもミラーリングされると言うことです。」
「脳が忘れた時や、思い出した時などはどうなるのじゃ?」
「忘れれば、同時に魂も忘れますし、思い出せば、同時に魂も思い出します。」
「なるほど、すごい仕組みじゃのう。」
② 脳と魂内のストレージをリンクする霊的なSATAケーブル
「これは、アーシャには存在しませんね。」
「ストレージは、本棚がずらりと並んでいるようじゃな。図書館のようじゃ。」
「詳しくは知りませんが、この本棚はラックと言って、中にはハードディスクが詰まった筐体が収まっています。」
「そうなのか?」
「はい。姫様も『人間の文明』を学校で習いませんでしたか? これは、どこかの宇宙の人間が発明した物ですよ。そうだ、姫様は寝てたのですね。」
「そなたは、最近、妾に容赦ないのう。でも、そんな物が、なんで魂の中にあるのじゃ?」
「さあ・・・、私にもわかりません。」
「なら、仕方ないのう。」
「他人事じゃないですよ。姫様とも繋がってるんですから。」
「そうなのじゃ。不気味なのじゃ。」
「姫様とも霊的なSATAケーブルでリンクされてますね。」
「でも、妾には暗闇しか見えんのじゃ。なので、今の所は無視じゃな。」
③ エマの脳とアリエルの脳をリンクする霊的な光ファイバーケーブル
「これも霊的な光ファイバーケーブルでリンクされてますね。」
「さっきもそうじゃが、これもアーシャとは10倍違うのか?」
「違いますね。それに、これはワイヤーを高純度のオリハルコン繊維で覆って強化したメッシュワイヤですね。切断することもほぼ不可能です。」
「オリハルコンか、すごいのう。」
「使って見てどんな感じですか?」
「拒否しなければ、妾の頭に、エマの見た物、聞いた音が飛び込んでくるのじゃ。今は昼寝して夢を見ているのじゃ。何とも幻想的な理解不能な夢じゃ。」
「話しを聞く限りでは、実用面での違いはありませんね。」
「さて、次は聖気と魔法関連ですね。」
「ここも違いがあるようじゃな。」
「そうですね。見てみましょう。」
④ パワーユニット
「これは一目瞭然ですね。アーシャは12∨、エマは24∨です。ちなみギルは6Vです。」
「これはアーシャの2倍じゃな。ギルとは4倍か。すごい差じゃのう。」
「これで聖気セパレータと魔力ジェネレータを稼働させますが、エマはストレージも稼働させてますね。」
「なるほど、そのようじゃ。」
「将来、エマは大食いになるでしょうね。」
「そうじゃな。このパワーユニットを充電するのは大変じゃ。」
「それに、エマの成長に合わせてパワーの容量も、もっと増えますよ。」
「そうなのか? なら、ますます大変じゃ。」
「これも、他人事じゃないですよ。姫様にも関係があるんですから。」
「そうじゃった。エマの魔力がないと妾は可視化もできん。」
⑤ 聖気セパレータと魔力ジェネレータ
「肺で空気中から聖気を分離するのが聖気セパレータで、聖気から魔力を生成するのが心臓にある魔力ジェネレータです。」
「これは驚異的です。まったく違いますよ。」
「そうじゃのう。見てわかるぐらい違うのう。」
「エマのユニットはマルチプロセッシング対応ですね。」
「なんじゃそれは?」
「聖気セパレータも魔力ジェネレータも、コアが複数あります。今はデュアルコアで処理してますね。」
「アーシャがシングルじゃから、やはり2倍じゃな。」
「今はデュアルですが、これも、エマの成長に合わせて増えますよ。」
「そうなのか? なんと言う子じゃ。」
「これなら、魔力もたくさん生成できますね。」
「将来が楽しみじゃのう。実体化というのが出来るやもしれん。」
⑥ 魔力提供ホースとレギュレータ
「エマの心臓と姫様の心臓に繋がったホースです。これでエマから姫様に魔力が提供されます」
「これも違うようじゃのう。アーシャのは黒くて、エマのは銀色じゃ。」
「そうですね。素材がちがいますね。アーシャのは霊的な強化ゴムです。」
「エマのは何じゃ?」
「強化ゴムの上に高純度のオリハルコン繊維で覆って強化したメッシュホースですね。」
「丈夫にしてるようじゃな。これなら光ファイバーケーブルのように絶対に切れぬな。」
「そうですね。次に太さも違います。アーシャは#6でエマは#8ですね。」
「それだけ、多くの魔力が妾に流れてくるということじゃな。」
「このホースはエマの成長に合わせて更に太くなりますよ。」
「すごいのう。」
「本当にすごいですね。でもそれだけではありませんよ。レギュレータの設定値も違いますね。」
「レギュレータ? それは何じゃ?」
「魔力をホースの中に流す圧力をコントロールする装置です。エマは4気圧でアーシャは2気圧です。」
「これも2倍じゃな。アーシャの2倍の勢いで魔力が流れてくるということか?」
「最高値ですけど、まあ、そうですね。この設定値も、エマの成長とともに上がりますよ。」
「聞いてる妾もいいかげん疲れてきたぞ。エマの魂は何なのじゃ?」
「高性能だと言うことです。なので、姫様にしかエマの守護天使は務まらないということでしょう。」
「妾だけ?」
「そうです。だから、神が姫様をお選びになったのです。」
「そうか、妾もエマのように、すごい子なのじゃな。」
アリエルは嬉しそうです。