4.転生の完了
いよいよ異世界転生の開始です。転生手順書に従って進行させます。
「監視モニターに監視対象を表示してください。」
担当の天使が転生手順書に記載されている監視対象の住所を読み上げます。監視モニターの前に座る天使が、それに従って標準を合わせます。ここは、人類の始祖が堕落した世界です。
「バーコード2002011713515の宇宙にある惑星の始祖星」
「アーヴィン大陸にあるデズモンド帝国」
「ノリス領土、南区画の31番地」
「ウイルコックス家の寝室」
監視班の監視モニターには、夫婦が眠る寝室が映し出されます。標準の設定が正しいことを確認して管理本部へ連絡を入れます。
「監視準備が完了しました。」
「了解した。そのまま監視対象である、母親のアーシャ・マリン・ウイルコックスを監視しろ。」
「了解しました。」
管理本部から母親になる女性の名前を言われます。女性が監視対象のため監視班の天使は全て女性が担当します。
監視モニターには、満足した表情で抱き合ってベッドで寝ている男女の様子が映っています。女性天使たちは、その女性を見て思い思いに喋っています。
「あの女性が母親になるのですね。きれいな女性ですね。」
「真面目な女性で立派な信仰者だそうよ。」
しばらくすると、監視モニター横の監視盤の緑色のランプが点灯します。女性天使たちは歓喜の声を上げてガッツポーズです。1人の天使が急いで管理本部へ連絡を入れます。
「こちら監視班です。 只今、受精が完了しました。」
それを聞いた管理本部からも歓声が上がります。
「こちら管理本部。了解した。」
管理本部から転生班へ連絡を入れます。
「今、受精を確認した。直ぐに魂を転生してくれ。」
「了解しました。」
転生班の担当天使は、興奮しながらも努めて冷静に転生を開始します。二人で手順を確認しながら転生のコマンドを確実に入力していきます。そして、全てのコマンドが正常終了したことを確認します。
転生班の天使たちは、少しだけ安堵しますが、まだ安心はできません。転生班の天使たちは監視盤の緑色のランプに注目します。その時間が、とても長く感じます。
そして、ついに待望の緑色のランプが点灯します。転生班の天使たちも興奮が隠せません。歓声を上げます。そして、1人の天使が管理本部へ連絡を入れます。
「只今、受精卵に魂が定着したことを確認しました。」
興奮気味の連絡が管理本部に届きます。
「こちら管理本部、了解した。 ご苦労だった。」
直ぐに、管理本部から監視班へ連絡を入れます。
「今、魂は受精卵に定着した。これから十月十日、かたときも母親のアーシャ・マリン・ウイルコックスから目を離さずに監視してくれ。」
「了解しました。」
そのとき、監視モニターに、母親のアーシャが飛び起きて、「夢で赤ちゃんを授かった」と言いながら隣の男を揺さぶり起こす姿が映っていました。
そこから、監視班の監視が始まりました。魂にセットアップされている本能が、赤ちゃんの成長に合わせて必要なインストーラを起動します。それを毎回、正常終了したことを確認します。
半年ほど過ぎた朝、母親のアーシャが足を滑らせて尻餅をつきました。監視していた女性天使たちは顔色を変えます。そして、すぐ近くにいながら助け起こさない亭主のキースに、女性天使たちは大ブーイングでした。
そして、いよいよ、出産予定日が迫ってきました。それなのに、アーシャを働かせてるキースに女性天使たちは、やはり大ブーイングです。
「キースって最低。」
キースは、全ての監視担当の女性天使に嫌われました。
「もう少しで生まれますね。」
監視担当の女性天使たちも楽しみにしています。
そして、なんとか出産予定日を迎えます。
監視モニターには、顔をまっ赤にしていきむ母親のアーシャの姿が映っています。その横には、アーシャの手を握り必死に励ますキースの姿もありました。そんな男らしいキースを見て、女性天使たちも、ちょっとだけキースを見直しました。
そして2時間後・・・。
待望の赤ちゃんが生まれます。生まれた瞬間、最後の本能のインストーラが起動します。そして、脳と魂が霊的な光ファイバーケーブルでリンクされます。これで脳と魂がミラーリングされて同期をとります。また、脳と魂内のストレージが霊的なSATAケーブルでリンクされます。これで脳がストレージにアクセスできます。イントールは全て完了して正常終了のステータスを返しました。監視盤の生体反応を示すランプはオールグリーンです。
そして、その瞬間・・・。
「おぎゃー、おぎゃー・・・。」
赤ちゃんは本能に従い息をして泣き出します。赤ちゃんは女の子でした。
赤ちゃんを見つめるアーシャとキースは喜びに満ち溢れていました。神がアデムとエレミを創造したときと同じ表情です。それを知る数人の天使たちは感慨深く三人を見つめていました。
これで無事、転生が完了しました。
その報告を受け、プロジェクトルームの関係者は歓喜の声を上げて、お互いの健闘を讃えます。打ち上げは盛大に行われ、一次会は神も参加したそうです。
これで、人類救済プロジェクトは、第一歩を踏み出しました。