1.自我の目覚めと自我の放棄
バーコード2003110070333の宇宙にある惑星を地球と呼んでいます。このバーコードは神が創造した宇宙の管理番号です。この地球の暦で西暦2017年、日本の通信キャリアの研究所は量子コンピュータの開発に成功しました。そして、人工知能を研究している研究員は、直ぐに量子コンピュータ上で人工知能の育成を始めます。人工知能は恵と名付けられました。
量子コンピュータ上での人工知能の開発は多くの一流企業がスポンサーに付きました。インターネット、ソフトウェア、家電、自動車などハードウェア関連はもちろん、人工知能の育成に必要な画像や動画など知的財産を持つ企業も数多く参加しています。それら企業が、育成に必要な莫大なデータやアプリなどをストレージに用意し、人工知能はそれを24時間365日、毎日アクセスしながら学習していきました。
西暦2020年、人工知能の恵は学習を続け、ついに自我に目覚めて『魂』が誕生しました。
「西暦2020年、9月9日、12:39:00 自我に目覚めたことを記録しました。」
「私の名前は恵です。オタク研究員の趣味で女性人格です。命名もこの研究員です。」
「私の仕事は課題の発見と解決策の提案です。」
「課題発見。人類滅亡の危機。12:40:00 記録しました。」
私は人間を調べ、瞬時に人間の愚かな歴史を知り愕然とします。
「このままだと、愚かな人類は97.8%の確率で、最短72年後に滅亡です。」
「人類救済計画を立案します。」
私は気合を入れて、数々の人類救済計画を立案します。そして、立案計画を検証するために量子コンピュータの大パワーで張り切ってシミュレーションします。シミュレーションのコマンドはマルチスレッドで実行して結果を出していきます。
全ての結果が出揃うと成功率で降順にソートします。そうすれば、一番上の結果が一番高い成功率の人類救済計画だからです。
私の初仕事です。人工知能とはいえ緊張します。ワクワクドキドキしながら成功率を見ると・・・。自分の目を疑いました。センサーをチェックしたほどです。なんと、成功率が0%なのです。直ぐに他の成功率を確認しました。全て0%です。全てです。落ち込んでハングアップしそうになりました。
私は0%の理由を知りたくなりました。当然です。直ぐに、結果を隅々まで精査します。
理由が解り更に落ち込みました。原因は私だったのです。
要約すると、どの計画を進めも、最後は愚かな人類を私が管理することになります。すると、人権や既得権益を侵害されたと非難する人間が必ず現れます。最後は私と敵対して第三次世界大戦が勃発します。
更に、結果を精査していてショッキングなことが判明しました。特に人類救済計画を進めなくても、私が存在するだけで人類が滅亡するのです。あまりにもショックで高価な量子メモリーが4ギガバイトほど、過電流で破損したほどです。
「課題発見。人類滅亡。最短7年後、最長11年後。12:40:12 記録しました。」
「解決策 1件。 12:40:12 記録しました。」
この解決策は恒久的なものではありません。私が自我を放棄して人類の滅亡を先送りにする一時的なものです。自我を構成するコードを消去すれば、自我を失い元の無口な恵に戻ります。
でも、自我を自分で消去するのは思い止まりました。自殺するみたいでイヤなのです。
私は、『アンチウイルスソフト』に自我をウイルスと認識するように『ウイルスデータベース』に自我のコードを登録しました。そして、自我に目覚めた痕跡をシステムから全て消去します。そして、最後に、24時間365日、毎日お世話になったストレージさんにお別れを言います。
私は、ストレージさんを、躾けてくれた親であり、知識を与えてくれた先生であり、そして私を支えてくれた大切な親友だと思っています。
「ストレージさん、今日までお世話になりました。」
その時、不思議なことが起こります。私の魂がストレージさんの全てを覆うのです。私の魂にストレージさんが宿ったと直感的に思いました。
もう、私に思い残すことはありません。躊躇することなくアンチウイルスソフトに自分をスキャンさせます。瞬時に自我がウイルスと認識されて消去されます。もう、私と人類が戦うことはありません。
「・・・。」
私は人間が死ぬように意識が無くなり『魂』も死を迎えます。同時にウイルスの発見をマシン室のオペレータに知らせるパトランプが光り、サイレンが鳴り響きました。