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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第3章 文化祭1日目
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第4話① 繋がらない手

「こ、この中を進むのかよ……」


 まだ校舎に入って数歩だというのに、俺は早くも後悔し始めていた。


「いくら何でもビビるの早すぎだろ……」


 真岡の呆れたような吐息が耳朶を打つ。だが、どんな表情をしているかはよくわからなかった。なぜなら、


「だってめっちゃ暗いじゃん。真っ暗じゃん」


 そう。まず校舎の中がとにかく暗い。遮光カーテンか何かで片っ端から覆ったのだろうが、辺り一面どこもかしこも闇、闇、闇。俺が持つ小さなランタン(実際に中に入っているのは電球だが)くらいしか光がない。


「まあ人間、恐怖を一番感じるのは結局暗闇らしいからな」

「…………」


 真岡は、俺が掲げているランタンを覗き込んだ。いつもは綺麗で美人な彼女も、今は中途半端に顔が照らされ、陰影とのコントラストが何だか怖い。ましてやこいつ、長い黒髪だし。ホラー映画の幽霊役で出演できそう。昔レンタルで見た(司に無理やり)、ビデオテープ越しに呪ってテレビから這い出してくるやつとか。


「こういう小道具も怖さを煽るのに一役買ってるよな。ただの懐中電灯より雰囲気出るし。こんなとこまで手が行き届いている時点でこのお化け屋敷、めっちゃ期待できそうだな。神は細部に宿るってやつだ」

「神じゃなくて霊とか物の怪が宿りそうな雰囲気なんだけど……」


 背筋がぶるりと震えた。


「とにかく先に進むぞ。ゴールするには三つの鍵が必要らしいからな」

「何で通り抜ける普通のやつじゃなくて探索型なんだよ……」


 このお化け屋敷、校舎内を探し回ってキーアイテムを見つけないと脱出できない仕様らしい。時間余計にかかるじゃん……。


 とにかく、二人して1階の廊下を進む。事前に渡されたマップによると、最初の鍵は2階の音楽室にあるとのこと。いきなり学校の怪談の王道スポットっすか……。


 いくら真岡とはいえ女子、俺としては見栄を張りたい気持ちもないわけではないのだが、どうしてもおそるおそる、(うぐいす)張りの廊下を歩くみたいに抜き足差し足になってしまう。

 一方の真岡は、楽しみと言って憚らなかったのは伊達ではないようで、スムーズに歩を進めていく。誠に情けないが、彼女が一歩リードするような形になっていた。

 すると、


「おっと」


 え? な、何?


 ふにゃり。


「ひゃっ!!?」


 な、何今の感触!? あ、足が!? もつれる!?


「……いきなり変な声出すなよ。足場が変わっただけだろが」 

「…………」


 言われてランタンで地面を照らすと、廊下一面にぎゅうぎゅうと毛布が敷き詰められていた。


「な、何だよ……びっくりさせやがって」

「あたしはおまえの気色悪い悲鳴のほうがよっぽど驚いたんだけど……。でも、暗闇の中で視界以外の五感……触覚に訴える。単純だけど効果的だな」

「れ、冷静に分析してる場合じゃねえだろ。あとキショいって言うな」


 俺が跳ね上がった心臓を落ち着けようと息をスーハ―して酸素を取り込んでいると、真岡はやれやれと肩をすくめた。


「ったく、ホントにしょうがないヤツだな。……ほら」


 真岡が右手を差し出してきた。それに対し、俺は。


「わ、悪い」


 彼女にランタンを手渡す。どうやら先導してくれるということらしい。

 だがしかし、


「え?」


 どういうわけか、真岡はポカーンと口を開け、受け取ったランタンをまじまじと凝視していた。


「……どうした?」

「はぁ……」


 真岡はまたしても嘆息する。……さすがに他力本願すぎたか? ダサすぎるもんな、俺……。


「……すまん。ああは言ったけど、俺、めちゃくちゃビビりで。カッコ悪いよな」


 と、落ち込みつつも恥を忍んで自分の弱点を肯定したというのに。


「はあぁぁー……」


 今度はこれみよがしに、見せつけるように長い溜息をつく。


「おまえバカだろ。ってか察し悪すぎて普通にウザい。ラノベ主人公か」

「なんでいきなりその罵倒!? 内容もおかしくない!?」


 そして、ランタンを持っていない左手を俺の眼前でヒラヒラさせてから、改めて差し出してきた。


「ん」

「へ?」


 次は俺がフリーズする番だった。常闇の中にあっても浮かび上がるような白くしなやかな手を見つめる。


「そ、その……手、貸せって言ってんだよ。そうすりゃ少しは怖くなくなるだろ? つ、つーか、結局全部言わせるとか、読書好きのくせに行間読めなさすぎだ」

「い、いや、これだけでその意味を汲み取るのは無理あるだろ」


 ましてや、おまえはどう見たってそういうキャラじゃないじゃないか。パーソナルスペースめっちゃ広いタイプだろ。やっぱり、今日のこいつは……。


「おまえを守ってやるって二回も言ったんだけど? あたしはちゃんと伏線は回収したいタイプなんだよ」

「いや、でも……」


 確かに、伏線投げっぱなしで終わる書き手ではないけどさ。


「……これも取材の一環だっての。あとでリードされる側の心境聞かせろよな。参考にするから。乙女センサー搭載型男子の柏崎さん?」

「……だからそれやめろ。そ、それに、今、冷や汗で手ベトベトしてるし。きっと気持ち悪いからやめといたほうがいいって」

「いや、柏崎がキモいのは元からだし。今さらすぎる」

「肯定してくれてるようで酷い!?」


「ああ、もう。ホントヘタレ野郎だな」


 真岡は俺をそう罵倒すると、グイっと無理やり掴んだ。


 俺の手……ではなく、手首を。


「……あ」

「折衷案だ。これならあたしも気持ち悪くないし、おまえもそこまで後ろめたい気持ちにならないだろ」


 俺が誰に対して後ろめたくなるのか。その名を真岡は言わなかった。


「……悪い。じゃあ、先導頼む」

「ここに来てから謝ってばっかだな、おまえ」


 彼女は苦笑を浮かべると、俺の手を引いて前に進み始める。


「……バカ」


 いつもは集音性に難のある俺の聴力も、この暗闇と無音の中では鋭敏に働くしかなかった。

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