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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第3章 文化祭1日目
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第3話⑩ やっぱり幼なじみって難しい

 ~Interlude~


 悠斗と葵の背中を見送った千秋は、行き場を失ったその手を静かに下ろす。

 その寂しげな仕草を見た千秋の親友が一人、滝山まゆは彼女の肩を優しく叩いた。


「ちーちゃん、大丈夫?」

「……ええ、さっきも言ったけど平気よ。ありがとう、まゆ」

「あの女に何言われたの? 内容によっては許さないんだけど」


 一方、沸々と怒りを燃え上がらせているのは、もう一人の親友、鈴城愛である。派手なギャルメイクと粗野な口調のせいできつい性格に思われがちだが、実は友達思いなのが彼女だ。二人とも、千秋にとっては数少ない(実は)気の置けない友人である。


「ま、待って愛。本当に違うの。確かに軽く言い合いにはなっちゃったんだけど、それが直接の原因じゃないっていうか……。と、とにかく真岡さんのせいじゃないの」

「……まあ、千秋がそう言うならしょうがないけどさ」


 愛はしぶしぶと抜いた矛を収める。


「でも、ちーちゃんが人とケンカするなんて珍しいよね。っていうか初めて見たかも」

「争い事苦手だもんね。アンタ」

「そう、ね」


 まゆと愛の指摘には、千秋自身も大いに自覚があった。周囲の空気を読み、合わせ、他人に考えや気持ちをむやみに否定せず、できる限り共感してみせる。彼女の高いコミュニケーション能力と培ってきた処世術の賜物だ。


 まあ、だからこそ悠斗とはわずかなすれ違いがチリのように積もって疎遠になってしまったわけだし、エリスや葵のような自分を貫けるタイプには羨望と嫉妬を抱いてしまうのだが。葵に対してムキになったのも、それと無関係ではない。


「原因はあいつなんでしょ?」


 愛が、遠ざかる悠斗の背中に射抜くような視線を向ける。


「え……ち、違うわよ」

「いやいや、そのノーはいくら何でも無理あるでしょー」

「ついこの間までほとんど絡みなかった奴に、いきなり下の名前で呼び始めたらね。つーか、さっき柏崎本人からだいたい聞いた。あんたたちが幼なじみだってこととか」

「え? 悠君が?」


 どういう心境の変化だろう。これまでの悠斗からすれば、絶対に自分と接点があることなど口にしなかったはずだ。……その原因は間違いなく自分のせいだけど。

 悠斗のらしくない行動にクエスチョンマークを浮かべていると、なぜかまゆが「うんうん」と脈絡なく頷いていた。


「ずっと、ちーちゃんってどうして恭也君とくっつかないのかなーって不思議だったんだけど、やっとその理由がわかったっていうかー」

「ホント単純な答えだったね。ま、何で喜多より柏崎なのかは理解できないけど」

「そう、それそれ! ちーちゃん、柏崎君のどこが好きなの? 教えてー?」

「な、なんでその前提で話を進めるのよ。そうとは限らないじゃない」


 頬を赤くした千秋が脊髄反射的に否定してしまうと、それを見たまゆと愛はどちらともなく顔を見合わせ、やがてシンクロ率100%の深いため息をついた。


「ちーちゃんの言う通り、これは真岡さんが悪いんじゃないかもねー」

「ま、そう言いたくなる気持ちはわからなくもないけど。さすがにちょっとね」


「うっ……」


 またしても、千秋は素直じゃない自分の性格を後悔する羽目になるのだった。



 ×××



「ほえー、なるほど、それがキッカケかー」

「つーか、めっちゃガチなやつじゃん」


 結局、千秋は悠斗に最初に惹かれたエピソードを白状させられていた。

 姉の美夏と事あるごとに比較され、コンプレックスを抱えていた自分に、『そのままでいいだろ』と励ましてくれた、あの日の大切な思い出。


 三人でそろってベンチに座り、出店で買ったアイスを頬張る。その冷たさが、熱くなった頬には心地よかった。


「そこに真岡さんが登場しちゃったわけかー。そりゃ焦るよねー」


 まゆはレモン味を賞味しつつ、雲一つない空を見上げた。

 今自分が落ち込んでいる理由とは正確には違うのだが、それを言うことはできなかった。


「でも、ちょっとキツイこと言えばさ、千秋には十分すぎるほど時間があったわけじゃん? 正直、真岡に全然非はないよね」

「……そうね」


 まったくもってその通りだ。耳障りの良い同情ばかりだけでなく、時にこうしてきちんと苦言も呈してくれる愛を、千秋は信頼していた。


「それは幼なじみの男子がいない愛ちゃんだから言えるんだよ。そんな簡単じゃないってー」


 そこに、まゆが意外な一言を挟んだ。


「へ? あんたもそういう(幼なじみ)がいたの?」

「別にわたしは好きってほどじゃなかったけどねー。もちろん嫌いでもなかったけど。でも向こうはわたしの事好きだったんじゃないかなー。ま、ちーちゃんと同じで、中学からグループが違って、それから全然話しなくなっちゃって、高校は別になってもうそれっきり。携帯もいつのまにかつながらなくなってた。たぶん、もう会うこともないと思うよー」


 いつもと変わらぬテンションで結構な苦い過去を告白するまゆに、千秋と愛は思わず言葉を失う。


「やっぱり現実はさ、男子と女子の幼なじみなんて、お互いが近いグループにいなきゃ普通は長続きしないよ。付き合う付き合わないは別にしても。マンガみたいにはいかないよねー」


 その諦観めいたまゆの言葉に、千秋はどうしても聞きたくなったことを尋ねる。


「まゆは……もしその人に告白されてたら付き合ってた?」


 まゆは首を左右に振った。


「……わかんない。個人としては全然嫌じゃなかったけど。でも、もし中学の頃だったら周りの目とか気にして断ってたかもしんない。その子もどっちかといえば暗いグループだったし。冷やかされたり、からかわれたりしたらって考えちゃってたかも」

「……そっか」


 ああ、自分と同じだ、と千秋は思う。普段はぽやんとしていてストレスフリーなイメージがあるまゆにも、こういう悩みも抱え込んでいた時があったのだ。


「つまり、千秋の選択は間違いとは言い切れないってことか。……難しいもんだね」

「だから、わたしは彼氏作るなら学外の人がいいってずっと思ってるんだー。外の人なら、その人の立ち位置とか交友関係とかにそこまで振り回されなくていいしねー。純粋にその人だけを見れるっていうかー。特に同じクラスの人とか、どんなにカッコよくてもノーサンキュー。色々とめんどくさいし」

「その発想、職場恋愛を嫌がるOLみたいじゃん」


 ある意味ドライなまゆの恋愛観に、愛は苦笑する。


「そう考えたら、エリスちゃんとかすごいよねー。色んな人に平等に、それでいてフレンドリーに接してるし。やっぱ外国の人ってその辺の感覚違うのかなー?」

「他人との距離感は明らかに違うね。勘違いしてる男どもがたくさんいそう」


 唐突にエリスの名前が出て、千秋はアイスを口に運ぶのを止めた。止めてしまった。

 愛たちと話していて薄れていた罪悪感が、再び心を霧のように覆う。

 私はエリスに……。


「……ちーちゃん?」

「……千秋?」

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