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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第3章 文化祭1日目
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第3話⑧ 真岡と桐生 その3

「本当にそれだけの? 怪しくない?」


 その金髪ギャルこと鈴城は、ことさら胡散臭そうな目で俺を見る。


「えっと……それはだな……」


 その針のように刺々しく、かつて何度も浴びせられたことのある視線に、さっきの決心がいとも簡単に揺らぎそうになる。


 ……怖い。


 正直な気持ちだった。


 『陰キャのくせに』、『3軍野郎が』とでも言われたらどうしよう、と。そして、「ああ、そうか」と妙に納得もしていた。


 俺がずっと桐生を避けていたのは、彼女を傷つけないためだと自分に言い聞かせていた。俺みたいな下位カーストがトップ層の桐生に空気も読まず接したら、彼女が馬鹿にされるかもしれない。立場が悪くなるかもしれない。いわれもない中傷を受けるかもしれない。それは不本意だ。そう考えていた。


 でも、そんなのはただの言い訳だったのだと、改めて思い知る。

 ただ、俺は自分が傷つくのを恐れて、予防線を張り続けていただけ。

『おまえなんかが桐生千秋に近づいていいと思ってんの?』。そう真正面から宣告されるのが怖くて、逃げ回っていただけ。

『桐生のため』と(うそぶ)いて殻に閉じこもれば、その鎧が自分の心臓を守ってくれるから。


 でも、ここはきちんと答えなくてはいけない。


 周囲の態度がどうであろうと、かつての関係性を取り戻そうと歩み寄ってくれている桐生の勇気を、無駄にしてはならないから。


 何より、『言わなくちゃわからない』から。


「俺と桐生は……」


 数年ぶりに、俺はこの一歩を踏み出す。



 ~Interlulde~


 一方、時間は少しばかり遡り。


「で、何だよ。わざわざあたしを柏崎から離してさ。カツアゲ? 金あんまり持ってないんだけど」

「そんなわけないでしょ。ただちょっと言っておきたいことが……って」


 千秋は言葉をそこでふと止める。そして葵のもとに一歩近づくと、彼女の首元にすっと顔を寄せた。「これって……」と耳元でつぶやく。


「い、いきなり何だよ!? 近いって!?」


 飛び上がった葵は、自分の身を守るように両肘を抱え、数歩後ずさる。

 しかし、千秋はそこが論点ではないとばかりに、露骨に顔をしかめながら言った。


「……真岡さん、あなた今日香水つけてるでしょ。なんか違和感があると思ったら」

「え」


 千秋の女子らしい鋭い指摘に、葵は慌てて両手を突き出し、いやいやと手を振る。


「ち、違うし。化粧が苦手なあたしがそんな真似するわけないじゃん。今日は暑いし、デオドラント……だっけ? 汗かくからスプレーしただけだって」


 千秋は「嘘ばっかり」とボソッとつぶやくと、


「……わかりやすいくらい浮かれちゃって。そんなに悠君と回れるのが楽しみだったんだ?」


 ジト目で冷えた眼差しを送る。


「べ、別にそんなんじゃないっつーの。ただ、今日はあいつに協力してもらいたいことがあっただけで」

「協力?」

「……そ、それはいいだろ。黙秘権を行使する」

「…………」


 千秋もエリスも、悠斗と葵が何やら二人だけの秘密を抱えていることには気づいている。千秋に至っては、その内容まである程度察しがついていた。まあ、葵がプロ予備軍であることだけは、さすがにまだ想像に至っていないが。


「……私もそこは根掘り葉掘り問い詰めるつもりはないわ。とにかく、悠君は昔からおばけとかホラーとかが得意じゃないの。配慮してあげて」

「……何そのナチュラル上から目線。幼なじみの自分は柏崎の弱点もちゃんと知ってますってか? うざっ」

「いちいちイラっとさせるのはどっちよ……。それに真岡さんだって、きゃあきゃあ騒ぐような男子とお化け屋敷入っても微妙でしょ? こういうアトラクションって、女としては頼りがいがあってカッコいいところを見せてもらいたいものだし」

「いや全然? むしろ、いつもクールぶってスカしてる柏崎がどんなリアクションをしてくれるのか楽しみで仕方ないよ」

「前から思ってたけど、あなたって本当にいい性格してるわね……」


 徐々に互いに牽制のジャブが増えていく。差し合いの序盤といったところか。

 ここで千秋が仕掛ける。


「何、それともそれが狙いなの? だとしたら、意外とあざといのね」

「は? 何だよ狙いって」

「怖がってる悠君を安心させようと抱きつくとか」

「なっ……!?」


 次第にヒートアップする二人の美少女。その様子を、悠斗が怪訝な目で見ていることには気づいていない。


「あるいは暗闇に乗じて無理やりキスするとか。……もしかして押し倒すつもりなの?」

「は、はあ!? あたしがそんなことするわけないだろ!? 発想がエロいんだよこのビッチ!」

「エッ……!? というか、誰がビッチよ!?」

「即座にそんな発想に行き着くとか、そういう経験あるからだろ!? これだから尻軽で男好きな陽キャは……!」

「そんなわけないでしょ!? だいたい、私そういうのはまだ……」


 思わずその先まで口を滑らせそうになり、慌てて言葉を飲み込む千秋。

 二人して頬を真っ赤にし、ゼーハーと息を切らす。何をやっているんだ自分たちは。


「つ、つーかエリスにならともかく、何でおまえにそんな忠告されなきゃならないんだよ」

「そ、そのエリスが心配してたからよ。あなたが変なことしないかって」


 苦し紛れに繰り出した葵のカウンターが、千秋の微妙に痛いところを突く。その勢いが急にしぼんだ。


「すっかり保護者気取りかよ……。ってか、それを言うなら桐生もだろ」

「え?」

「何があったか知らないけど、柏崎のこと、急に『悠君』なんて甘ったるく呼び始めやがって。午前中も何やってたんだか」

「べ、別に何も……」


 千秋は「ない」、ととっさに否定しようとしたが、執事喫茶での悠斗とのあれこれを思い出してしまい、歯切れが悪くなる。

 今度は葵が白けた視線をぶつける番だった。


「柏崎とヨリ戻したいってのはともかくさ。友達をかばうフリをしながら自分は自分でちゃっかりって、嫌な女の典型じゃないか。事前に柏崎を借りるって説明しただけあたしのほうがマシだろ」

「それは……」


「エリスを不安にさせてるのは桐生もなんじゃないの?」


 インファイト戦は真岡葵の逆転勝ちで終わりそうである。


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