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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第3章 文化祭1日目
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第3話⑥ ヘタレ男子とイケメン少女

 周りの生温かい視線に晒され、二人していたたまれない思いをしつつも、どうにか昼飯を食い終えた俺たちは、そそくさとその場を立ち去る。


「……それで? これからどうすんだよ?」


 校庭の隅っこに避難し、俺は高梨会長からもらったパンフレットを開く。……なんか、もうすでにスゲー疲れたんだけど……。精神的疲労がハンパない。

 祭りを見て回るにしても、疲れないところがいいな……と、安住の地をマップ上で探し求めていると、


「おっ、いいもの持ってんじゃん。ちょっと見せてくれよ」

「え」


 俺が答える間もなく、真岡は身体を寄せて手元のパンフレットを覗き込んでくる。吹き抜けた風のせいか、柑橘系のフローラルな香りが俺の鼻孔をくすぐった。シャンプー……か? ……ひょっとして香水? 非モテの俺にはまったく判別がつかない。


 いや……でも、エリスたちに髪の手入れのルーズさをダメ出しされていたくらいだし、こいつがそんな色気づいた真似はしないか。そもそもそんなことする理由もないだろうし。でもどうして、女子ってこんないい香りがするんだろうね? 


「うーん……そうだな……」


 てか近いんだけど……。

 あれほど恥ずかしい思いをしたにもかかわらず、真岡はさっきからやけにご機嫌である。

 彼女はしばらくパンフレットを矯めつ眇めつし、やがて「おっ」と小さく声を上げた。


「これとか面白そうじゃん」


 そう言った彼女が指差したのは……。



 ×××



「な、なあ。ホントにここに入るのか?」


 俺はその出し物の会場である『とある建物』を見上げた。


「そりゃここまで来たら入るだろ? 何より”ここ”なら取材にもってこいだしな」


 その意見はわからなくもないが……。文化祭物のネタとしてはベタといえばベタだし……。たぶん、数え切れないくらいの青春小説やラブコメ漫画の舞台となってきた場所だろう。


「で、でもよ……」


 俺は思わずゴクリと息を呑む。


「学祭の出し物ってくらいだからもっと子供だましかと思ってたけど、結構本格的っぽいな」

「いや、ちょっと雰囲気出し過ぎだろ……。会場が旧校舎って……」


 そう。真岡の琴線に触れたのは、旧校舎を利用したホラーハウス、つまりはお化け屋敷だった。


「何だよ柏崎。ひょっとしなくてもビビッてんのか?」


 真岡は新しいおもちゃでも与えられた子供のような笑みを浮かべる。だがしかし、


「……非常に癪だが、その事実を認めてやってもいい。だからやめよ?」


 俺はその挑発に乗らなかった(乗れなかった)。思わず天然ぶりっ子みたいな口調になってしまう。


 旧校舎。まずはこれがヤバい。庄本校は創立100年を超える私立高校と歴史があり、旧校舎は当時のモダン的な造りというか、洋風な外観となっている。老朽化が進んだ今では、よくミステリーとか出てくるような古びた洋館のようと言えなくもなく、すでにおどろおどろしい雰囲気が漂っていた。ちなみに普段は立ち入り禁止の場所というのも、それっぽさに拍車をかけている。


 だが当然、俺のこの情けないリアクションは、真岡のSっ気をさらに燃え上がらせるガソリンでしかなく。


「おまえのその腰の引けようを見たら、なおさら入るしかなくなったな。あたしにたくさんのネタを提供してくれよ?」

「鬼かよおまえはっ!?」


 俺が反射的に抗議の声を上げると、真岡はその漆黒の長い髪をばさりと払い、


「心配すんな柏崎。何かあってもあたしがおまえを守ってやるよ」


 そんなことをのたまった。


「え……」


 真岡は美人ではあるが、その口調やスラリとした背格好もあって、可愛いというよりかは綺麗とか格好いいとかの形容詞が似合う。

 だから、そんな少年漫画の主人公のような決め台詞もやけに様になっていた。


 トゥンク。

 不覚にもかっこいいと思ってしまった。え、何このイケメン。ときめきそう。

 ……なんて。


「言うとでも思ったか? ただのマッチポンプじゃねえか」

「……チッ」


 おい、こいつ今すげー露骨な舌打ちしやがったぞ。


「なあ柏崎。せっかくここまで来たんだし付き合ってくれよ。大丈夫だって、おまえがめちゃくちゃカッコ悪いとこ見せたって幻滅なんかしないさ。どうせ元からなんだし」

「……ホントに逃げていい?」


 改めて旧校舎のほうを見ると、それなりの人数(ここでもカップルが目立つ。イラつく。)が列を作っていた。これだけ人がいれば怖くないと思うだろうが、入口までの行列も光を通さない黒いテントで覆われていたり、赤い血文字のようなもので書かれた注意書きの看板が立てられたり、本格的な幽霊のメイクをした学生が客の誘導をしていたりとかして、この時点でそれなりの雰囲気が出来上がっている。


 ……やっぱこれ、かなり本格的なんじゃあ……。

 俺の背筋に冷たいものが流れる。そのとき、ゴールらしき場所から出てきた三人の女子生徒が俺たちのそばを通り過ぎようとする。


「ふええ……こ、怖かったよおー……!」

「ほら、外に出たわ。落ち着いて。もう大丈夫よ」

「まさかこの子がこんなに怖がりとはねー。まあ、かなり迫力あったけどさー」


「おっ、ガチ泣きしてる奴もいるじゃん。こりゃかなり期待できそうだ。男連れならともかく、女同士なら演技ってわけじゃないだろうし」

「…………」


 いや、何であの子の震え具合を見てテンション上げられるんだよ。てか、その後半の発言もホラー並みに怖いんだけど……。


 ……って。


「あれ?」


 三人の女子生徒のうちの一人、泣いている子を慰めていた少女が、俺たち二人の存在に気づいた。


「悠君に真岡さん?」


 その人物は、さっき別れたばかりの桐生だった。

 もう夏だというのに、なぜかまたしても身体に悪寒が走る。

 

 ……お化けとは違う意味で。

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