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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第3章 文化祭1日目
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第2話⑩ 束縛と跡継ぎ?

「でも悠君の言う通りね。せっかく明日はお姉ちゃんが来るんだし、これはチャンスよ」

「ま、まあ、それはわかってんだけど……」

「何よもう、煮え切らないわね。モタモタしてると、お姉ちゃんの明日の予定が埋まっちゃうわよ。会長も会いたがってたし」


 そういや、高梨会長は美夏さんに世話になった、って言ってたな。


「何より、一昨年の杜和祭のスターなのよ。OGとしてあちこち引っ張り回されるかもしれないわ」

(……スター、か)


 ちょうど2年前、中3の今頃を思い出す。

 杜和祭のメインステージで、カッコよくバンドのメインボーカルを務めた美夏さんを。

 特に、彼女がラストに歌い上げたオリジナル曲、『遠い放課後』は、切ないメロディと片想いを書いた歌詞が印象的なバラードで、俺のような青春とも恋愛ともまるで縁のない人間の心にもそれなり響いたことを覚えている。

 美夏さんに想いを寄せる恭弥は共感しすぎたのか、涙ぐんでいたくらいだった。

 ……ただ、少し遠い場にいた桐生は真剣な面持ちのままずっと口元引き結んでいて、その心境を推し量ることはできなかったが。


 そして、俺はまったく知らなかったのだが、当時の杜和祭の後、しばらく庄本中高内ではその曲がトレンドになっていたそうで、校内放送なんかでもよく流されていたらしい。実際、去年の杜和祭でもライブ映像のVTRが放送されていた。

 今年も司によれば、シルヴァ(つまり小野寺さん)に『遠い放課後』を歌ってもらう計画があるとか何とか。


 つまり、今になってもそのくらい校内への影響力が残っている人なのだ。桐生の言う通り、明日は色々と忙しないかもしれない。

 だからか、俺は思わずこんな言葉をこぼしていた。


「やっぱり学校のど真ん中にいた超絶リア充は違うな。卒業してもこんなに存在感があるなんてさ」


 俺なんかじゃ、卒業名簿にひっそりと名前が残るだけで終わりだ。数年も経てば、同級生にさえ記憶の片隅にも残らない存在だろう。『柏崎? そんな奴いたっけ?』『えっ、いないよそんな人。柏田君じゃなかった?』『いや、柏木だろ? いつもぼっちでいた』 と囁かれている未来が、胡散臭い予言や占いよりもよほどはっきりと視える。

 ……うん、決めた。俺は将来同窓会には絶対出席しない(案内が届くとは言ってない)。


「いや、それは美夏さんが特別すぎるだけだろ。リア充とか陽キャとかそういう次元の人じぇねえって」

「まあ、今年もその特別を受け継ぎそうな子(エリス)がいるけどね」

「…………」

「お、露骨に曇ってる奴がいるぞ」

「……うるさい」

「へっ、さっきのお返しだ」

「そんな顔するくせに、別の子と約束を入れるなんて……。よく考えてみなくてもひどいわね」

「……………………」


 俺は幼なじみ甲斐のない幼なじみたちを無視し、マスター自家製のコーヒーをグイっと賞味する。


「うん、やっぱりマスターのコーヒーはうまいな。この味、出そうとしても出せねえんだよな。まあ、マスターはプロのバリスタなんだから当たり前なんだけど」


 半分現実逃避気味に、半分やけくそ気味に言う。美味しいのは紛れもない本音だし、俺のような素人では全然及ばないのも事実だが。

 すると、桐生がさっきまでの辛辣な視線はどこかへ、嬉しそうな表情で「ふふっ」と微笑んだ。


「? 今度は何だよ?」


 ホント、最近のこいつ、表情がコロコロと変わるよな。エリスの影響か? ……まあ、悪いことだとは思わないが。


「悠君、さっきからずっとエリスやお姉ちゃんたちと比較して色々と不安になってるみたいだけど、心配いらないじゃない。少なくとも将来については」

「はあ? 何でだよ」


 俺ほど将来が不安なコミュ障もそうそういまい。


「だって、いざとなったら、うちのお父さんの後を継げばいいじゃない」

「……は?」

「エリスやお姉ちゃんから聞いてるわよ。最近はホールだけじゃなくて、お父さんからコーヒーの淹れ方も教わってるって」

「何言ってんだ。それはあくまで趣味の範囲で習ってるだけだぞ。とてもお客さんに出せるようなシロモノじゃねえ」

「そうかしら」


 桐生はおかしそうにクスリと笑みを漏らす。


「お父さん、ああ見えて頑固だし、見込みのない相手に教えたりしないわよ。お母さんが頼み込んでも全然教えてくれなくて、それが別居の要因の一つだったくらいなんだから。『これは俺の仕事だ。おまえには教えん』って」

「ええー……。それマジ……?」


 2年近く経って明かされる衝撃の事実。その一端。

 そんなしょうもない理由で春香さんは出ていったってのか……?


「もちろんそれだけじゃなくて、そういうお父さんの頑なさみたいのが、どんどん不満になって積み重なった結果だとは思うんだけどね」

「うーん、どうもピンとこねえなあ……」


 俺の中では、マスターは穏やかで思慮深くて、それこそ味わい深いコーヒーのような、まさしく”大人”にカテゴライズされる人だった。いつも疲れた顔で社畜銀行マンをやってる親父と比べると、その渋く余裕のある佇まいが格好いいと常々思っていた。

 ……それに、春香さんの料理の腕を考えると、一概に桐生の言い分だけが正しいと言い切るのは危険な気がする。


「まあ、今はその話はいいわ。とにかく、悠君はブラックキャットの後継者候補なのよ」

「そんなわけないだろ。第一、店には美夏さんが……」

「お姉ちゃんは継がないわよ」

「? そうなのか?」

「逆に聞きたいわ。悠君は、お姉ちゃんがあの小さなお店でじっとしてられるようなタイプだと思う?」

「いや、そうは思わねえけど……」


 確かに、美夏さんはこの片田舎の地方都市で収まるような器じゃない。将来的にはともかく、大学を卒業してからしばらくは、かつてのマスターと同じようにあちこちを飛び回るような気がする。


「でしょ?」

「じゃあ桐生、おまえは……」

「もっとありえないわ」

 

 またしても言い終える前に、桐生はピシャリと遮る。そこには、言葉以上の拒絶感が感じられた。


「私は、お母さんみたいになりたいの。自分一人でも生きていけるような職業に就くつもり」

「…………」


 やはり今でも、桐生は春香さんのような自立した女性に憧れているらしい。理系を選択しようとしているのも、メーカーの研究職に携わる母親の影響なんだろう。

 ……同時に、文系に進んだ姉への対抗心もあるのかもしれない。


「……ってそれじゃあ、マスターが独りになっちまうぞ」

「だからこそ、悠君がお父さんと一緒にお店を守ってくれればいいと思うのよ。私もお父さんのことは好きかって言われるとアレだけど、ブラックキャットにはたくさん思い出があるから。それに、あそこがあれば、エリスだっていつでも日本に遊びに来られるでしょ?」


 ……マスター、可哀想すぎる。


 ……でも、ブラックキャットの跡継ぎ、か。考えたこともなかったな。


 俺は、ゆらゆらと揺れるマスター特製のコーヒーを眺めつつ、いつのまにか思索に沈み込んでいた。


 ……だから、隣のイケメン幼なじみ野郎のぼやきは耳に届かなかった。


「……そういう方向から攻めるのってどうなんだよ。男を束縛したがってるみたいで普通に引くわー。しかも自分は家の外からってのがタチ悪りぃ……」

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