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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第3章 文化祭1日目
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第1話⑥ 真岡葵の小さくて大きな一歩

 まあ、そんなこんなのうちに今日の見回りは終了。小野寺さんは明日のコンディションを整えたいと帰途につき、俺と真岡も高梨会長へ報告を行った後に下校することになった。ちなみに、司はまだ少し作業があるようで部室に残るらしい。


 まだあちこち明るい教室や校庭を横目に見ながら、俺と真岡は校門の前で軽く挨拶を交わし、解散しようとする。こいつの家がどこにあるのかまでは知らないが、俺の実家や桐生家のアパートとは逆方向だとは知っていた。

 今さらだが、ブラックキャットまで通うのは結構大変だろうに。よっぽどマスターのケーキが気に入ったんかな。


「……じゃあ、また明日な」

「あ、ああ」


 真岡はいまだに俺から多少の距離を取っていた。俺のオタクの方向性(エロゲ疑惑は晴れたが結局ギャルゲをプレイしていた事実は変わらない)に、完全に引いてしまったらしい。


 ……でも、そんな俺を気持ち悪いと感じるならそれはそれで仕方ない。こうやって俺自身の性格や嗜好を知られるうちに、他人(特に女子)が離れていくことには慣れている。実際、自分でもわりとキモいと思うし、モテない男子ならでは趣味という自覚もある。


 まあ、とはいえ、今後も真岡に避けられるようになるかと思うと、結構ショックかもしれない。交わした言葉の数は決して多くはないが、何だかんだで共通の趣味や価値観がわりとあった相手だし、俺の交友範囲の中では数少ない(というか唯一)軽口を叩ける女子だったわけだし。貴重なブラックキャットの常連客を一人失ってしまうのも、マスターや美夏さんに申し訳ない。


 ……それでも、俺はおまえの作品を全部買うからな。真岡葵のファン第一号として。楽しみにしてるぞ。


 なんて悲壮な決意を固める。

 だから、チラチラと俺の表情を窺っていたらしい真岡にはまったく気づかなかった。


 つまり、次の俺と彼女の発言のタイミングがばっちり重なってしまったのは、当然の帰結だと言える。


「な、なあ柏崎。あのさ……」

「真岡。俺のことは無視してもいいから……」


「……明日の杜和祭、おまえはどうするんだ?」

「ブラックキャットにはこれからも通ってもらえると助かる……」


「え?」

「ん?」


 目が合った俺と真岡は、お互いに『こいつ何言ってんだ?』という表情で、それぞれ逆方向に首が折れた。



 ×××



「何だよ、そんなこと気にしてたのか。柏崎が根暗なオタク野郎なんて今さらじゃないか。ま、さっきは確かに『ちょっとキモ』って引いたけどさ」

「結局ドン引きしてるじゃねえか……。それに、確かに俺は性格は暗いが、オタク趣味をおまえにオープンにしたつもりはないんだが」

「え? まさかおまえ、自分では『俺ってオタクじゃないし』って思ってたタイプか? うわー……」

「………」

「別にオタクの話をしなくても、言動とか雰囲気とかそのめんど……ピュアな性格とかですぐわかっちゃうぞ? 特に女はそういうの鼻が利くし」

「おいやめろマジでやめろ。あとわざわざ言い直さなくていい」


 別に俺だってオタク趣味をひた隠しにしているわけじゃない。……ただ、やっぱり積極的にひけらかすのも抵抗があるが。司みたいにはなかなか振り切れん。


「あたしだってどっちかといえば、”そっち側”だし。第一、あたしは分類的にはラノベ作家なんだぞ。気にすることないじゃないか」

「そりゃそうかもしれないけどさ……。オタク趣味も色々だから。真岡の許容範囲かはわからなかったし」

「……ま、そう言われれば確かにな。さっきの小野寺……だっけ? が出てるみたいな、男に都合がいい”だけ”の作品って、あたし嫌いだし。ハーレムとかチーレムとかな。あとは普段は冴えないけど実は高スペックを隠してるだけですー、みたいなラブコメも猛烈にイラッとする。努力しないままに自尊心を女に満たしてほしいってヘタレ男どもの願望だろ?」

「だから、ここでその燃料投下はやめんか。危ない橋すぎる。それから『時波』はそういう作品じゃねえ」

「ここでムキになるあたり、やっぱり柏崎ってオタクじゃん」

「…………」


 と、言葉のドッジボールを繰り広げているうちに、真岡の調子はすっかり戻っていた。


「それで、明日が何だって?」

「え? あっ、それは……えっと……」


 と思ったら、さっきまでの立て板に水が流れるような罵詈雑言から一転、彼女はしどろもどろになる。そして、上目遣いで俺の様子を窺うように小さな声で言った。


「その……明日、柏崎はどうするのかと思ってさ」

「どうするって……俺もおまえもスタッフとしての仕事があるだろ?」


 杜和祭は、明日の土曜と明後日の日曜の二日間にかけて行われる。

 準備の進捗管理がメインだった俺たちに、司会進行やステージの設営といった当日の運営にかかる仕事はないが、それでも準備委員として出し物の見回りや、来場者の道案内などを仰せつかっていた。

 桐生によれば、当日は迷子が出たり、怪我をする人がいたり、軽いいざこざが発生したりと、意外に忙しいらしい。


「そのスタッフの仕事はシフト制だろ。それ以外の時間はどうするのかって聞いてるんだ」

「それは……」


 嫌でも彼女(エリス)の顔が頭をよぎる。だが、その約束は二日目の終盤だ。明日は劇の最後のリハーサルをして、その後は桐生やほかの友達と校内を回ると言っていた。俺が時間を持て余しそうだったのは事実である。


「どうせおまえのことだから、人の少ない郷土の展示会とか、図書室とかで時間をやり過ごそうとでもするつもりだったんだろ。あとは準備委員の仕事を手伝う、とかか?」

「………」

「図星、って顔してんな」


 さすがは俺と同タイプ。行動パターンの予測もかなりの高精度だ。

 確かに、状況によってはほかの仕事を手伝ってもいいと高梨会長に申し出るつもりでいた。リア充どもがワイワイイチャイチャしてるところにポツンとぼっちでいたら、それだけで心が摩耗しそうだ。まだ仕事をしていたほうが精神衛生上によろしい。


「……だったら何だってんだよ。俺が仕事なら、おまえはずっと原稿でも書いてるつもりか?」


 俺が反撃の意思と皮肉を込めて精一杯言い返すと、真岡は「それでもよかったんだけどな」と自嘲気味に笑う。

 しかし、それも一瞬のこと、やがて真岡は真剣な面持ちで重々しく口を開く。その瞳には、普段の彼女にはない緊張の色が宿っていた。


「その……柏崎、明日の自由時間は、あたしに付き合ってくれないか?」

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