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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第2章 文化祭準備編
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第4話④ 顔より性格? という議題

「待った。それもおかしい。俺が面食いとかどこの誰情報だよ」


 見事なまでにそろった俺への三人の同一見解。もちろん、俺はその判決に『異議あり!』をつきつける。


「だって……なあ?」

「うんうん」

「むしろ、否定する材料が見つからないんだけど」


 同意を求めるように話を振る真岡。それに深く何度も頷くエリス。三白眼でそれっぽい主張をする桐生。ええ……? 君ら、そういう風に俺を見てたの……?


「だって悠斗、よく葵に見惚れてるよね。この前駅で会った時とか」

「そうそう、いっつもエリスの綺麗な顔をガン見……って、へっ? あたし?」

「さっきもお姉ちゃんにデレデレしてたし、美人なら誰でもいいの? 節操ないわね」


 あれ? 変だなあ……。

 なぜか俺は自然と早口になってしまう。


「べ、別に見惚れてるわけでも、デレデレしてるわけでもねえ。それに、美人に目がすぐいくからって、イコール面食いとは言えんだろ。それはそれ、これはこれだ」


「……柏崎君、ますます墓穴掘ってるの気づいてる?」

「その発言だけだと典型的なダメ野郎だぞ、おまえ……」


 ますます白けた雰囲気を醸し出す桐生と真岡に、俺は「うっ…‥」と後ずさってしまう。……しまった、選択肢をミスったかもしれん。

 俺がどうしたものかと答えあぐねていると、エリスが「ちょっと待って」と口を挟んだ。そして、俺へと向き直り、


「悠斗、どういうことなのか、きちんと教えてくれるかな? 悠斗のことだもん。色々考えがあって、ちゃんと言いたいことも、あるんだよね?」

「……あ、ああ」


 と、優しく言ってくれた。


「……ふーん。エリスのこういうところに弱い、ってわけね」

「あざとい、って思っちゃうあたしは捻くれてるんだろうな……」


 残りの二人が、顔をしかめてつぶやいた。


 ×××


 さて、繰り返すが、俺は面食いなどではない。そう、断じてそんなことはない(大切なことなので3回言いました)。

 第一、顔面偏差値50未満の非リア男である俺の判断基準が顔だなんて、失礼だし身の程知らずすぎる。

 それに、これも何度でも言うが、俺は大半の女子が苦手だ。何を考えてるか読めないし、上級カーストの中には、陰キャに対して明らかに見下した態度を取ってくる奴も少なくない。

 当然、そういうグループほどルックスのいい女子の比率が高いわけだから、むしろ美人のほうが苦手なくらいなのだ。

 じゃあ、何でこの三人が平気なのかと問われれば、彼女たちが、“俺にとって”苦手意識を感じにくい女子、という至極簡単な答えに行き着く。


 エリスは、文化やコミュニケーションの常識が違う俺と、言葉を重ねてしっかり向き合ってくれるから。


 真岡は、ぼっちという俺と似たポジションにいて、思考や価値観に近いところがあるから。


 桐生は、幼い頃から長い間そばにいて、今でこそ疎遠だけど、本質的な部分は変わっていないと知っているから。


 要は、顔より性格、中身である。エリスたちがたまたま美少女だっただけ、結果論だ(ホントだぞ?)。

 そして、ここで重要なのは、彼女たちが実際に性格がいいかどうかはさして問題ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()、ということだ。


 俺はあまり他人を信じない。期待もしない。だからこそ、一度そのハードルを越え、心を許すことができた相手には、そう簡単に気持ちが揺らがない自信がある。


 例えば、俺がエリスに今すぐ嫌われたり、避けられたりしたとしても、すごくショックは受けるし深いダメージも残るだろうが、それで彼女を嫌ったり、憎んだりすることはないと言い切れる。


 それは別に、俺が聖人君子なんてことはもちろんない。ただ、その心境にまで至れて初めて、俺にとって本当の意味でその相手が、“友達”だとか“仲間”だとか“好きな人”というカテゴリーに入り、“自分から”そう呼ぶようになるだけのことだ。


 自分でもめちゃくちゃ鬱陶しい性格だと自覚している。そして、こんな俺が心から“好き”と思える相手など、仮にあと100年生きたとしても、数えるほどしか現れないだろうということも。……すでに一生独身フラグ立ってんなあ、俺……。相手の気持ちはまた別問題だし、そうなると確率がまた飛躍的に下がるわけで……。


 だけど、たぶん、そのうちの一人が今―――――。


 ×××


「というわけで、俺は顔より中身重視なんだよ。ロミオみたいな面食いで移り気なキャラクターにはまったく共感できん」


 と、俺は三人につらつら思っていたことを説明する。もちろん、ものすごーくマイルドに、ライトに、オミットして。今の脳内ポエムをそのまま垂れ流すほど、俺の頭はお花畑ではない。


「知ってたつもりだけど、柏崎君、本当に面倒な性格してるわね……。中身重視って、普通はそういうことじゃないと思うんだけど」


 最初に、呆れた感想を漏らしたのは桐生だった。

 おかしい……ポエムの1割くらいしか口に出さなかったつもりなんだけど。ってことは、本当の俺はさらに10倍重いってこと? 某界王星の重力じゃないんだぞ。


「でも、軽いよりは全然いいよ。それだけ大切にしてくれるってことだし。わたしとしては、もうちょっと気楽に考えてもいいかな、とは思ったけど。えへへ」


 エリスが軽いアドバイスを交えながら言った。……なんで少し嬉しそうなんだろ?


「…………」


 そして最後の一人、真岡だけは、やけに真剣な顔で俺をじっと見ていた。その黒い瞳が潤むように揺れ、朱色の唇を小さく噛んでいる。


「……真岡?」


 そのあまりに思い詰めたような表情に俺は驚き、おそるおそる尋ねる。……いきなりどうしたってんだ? 

 すると、真岡はハッと我に返ったようで、慌てて手を振った。


「……え? あ、い、いや……柏崎ってホント、根暗でめんどくさいヤツだなーって、ドン引きしてただけだって。あはは」

「? お、おう……?」

「で、でも今みたいな自分の考えがあれば、シナリオのアレンジだってできるだろ。共感できないなら、共感できるように改変していきゃいいんだから」

「あ、そうか! 自分ならこのほうが面白いかもって、直していけばいいんだね!」

「なるほどね。そういうことなら私もいくつか思いつきそうだわ」

「そ、そうだな。じゃあ、しばらくシンキングタイムってことで」


 こうして、脱線しかけていた脚本会議が前に進もうとするなか――――



「やっぱりおまえ、あたしと同類じゃないかよ……。だったらさ……」



 真岡のかすれるような声が、やけに俺の耳に残った。


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