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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第2章 文化祭準備編
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第3話② 恋愛劇とジェラシー

「……つまり、何の劇をやるかまだ決まってないってことか」

「うん。文化祭の本番まであと2カ月もないから、そろそろ決めないとまずいらしいんだけど」


 俺は、エリスが机に並べた台本やら、ストーリーの原作本やらを眺める。

 『ロミオとジュリエット』、『アラジン』、『美女と野獣』のような舞台劇としては王道な作品から、『君の名は。』『君の膵臓をたべたい』『心が叫びたがってるんだ』みたいな、つい最近の作品までとバラエティに富んでいる。

 というか……、


「見事なまでに恋愛物ばっかだな……」


 真岡の言う通り、思春期真っ盛りの高校生の思考なんてこんなもんなのか。嘆かわしい。いや、深い意味はなくてね? だが、エリスはそんな俺のぼやきには気づかず、ワクワクと目を輝かせていた。


「悠斗はどれがいいと思う? 悠斗って読書とか物語とか好きだよね?」

「あー……」


 ……確かに本は好きだけど。でも、俺はラブコメくらいならともかく、恋愛物にはそこまで積極的に手を伸ばさない。特に、俺なんかとは違う、異性慣れしたリア充が出てくるタイプの作品は大の苦手だ。俺と同じくらいの高校生とかが主人公なのに、すでに恋人がいたり、元カノがいたり、非童貞だったりする作品は、それだけでそっ閉じの回れ右である。自分に共感できるところがまったくなくて、読んでて猛烈にイラッとしてしまう(僻んでいるだけとも言う)。


 そんな俺の偏った読書メーターにあって、真岡の作品はかなりの例外だったのだ。そういう意味でも、彼女には才能があるのかもしれない。

 ……つい熱くなっちまった。脳内でだけだけど。

 それに、エリスに質問に答える前に確認しておきたいことがあった。


「えっと……エリスがその、ヒロイン役をやるのか?」


 俺としては、まずそれが気になる。理由は聞くな。

 と思ったら、真岡がニヤニヤとサディスティックに笑いかけてきた。……何が言いたいんだよ。やめろ、「あたしにはわかってる」みたいな顔すんな。


「まだわたしって決まったわけじゃないけど……演劇部の部長さんは乗り気みたいだよ」


 俺の懸念とは裏腹に、エリスはえへへ、とまんざらでもない様子だ。


「そうだよ、少年!」

「?」


 突然、背後から元気のいい声がかけられた。

 振り返ると、小柄なショートヘアーの女子が、腰に手を当てて立っていた。身長は150センチもない。顔もかなりの童顔で、小学生……はさすがに言い過ぎかもしれないが、中学1、2年くらいに見える。


「えっと……君は? 新入生の参加者? それとも中等部の子?」


 何で中等部の生徒がここにいるのかはわからんが……。杜和祭でコラボでもするとか?

 俺がそう聞くと、その少女はカチンと来たように眉をピクリと動かした。


「ちょっと君、上級生に向かってその口の利き方はどうかと思うなあ?」

「……へ? じょ、上級生?」


 少女は「そのとーり!」と、その平坦な胸をむんと張る。

 しかし、エリスに真岡と、背が高くスタイルの良い女子に囲まれているせいで、なおさら

 小さな子供が背伸びしているようにしか見えない。

 だが、その上級生さんとやらは得意気に宣言した。


「あたしは演劇部部長の西條(さいじょう)若葉(わかば)! このプログラムの企画者だよー!」

「しかも部長!?」


 俺はあんぐりと口を開ける。真岡も同じように目を丸くしていた。エリスは「そうだよ」と苦笑いだ。


「じゃあ、き、君…‥いや、先輩が高梨会長の……?」

「そ、瑠璃はあたしの親友。その瑠璃から聞いてるよー。君が今年のウチの担当の柏崎悠斗君、それに真岡葵ちゃんだね?」


 西條先輩は、俺と真岡を順番に指差す。俺と真岡はそれぞれ、「は、はい……」「あ、ああ……」と困惑気味に返事をした。

 ……ってそうだ、この人が企画を立ち上げたというのなら。本来の目的を忘れるところだった。


「西條先輩が責任者なら、この企画の進捗状況を伺いたいんですけど」


 俺がここに来た主旨を尋ねると、西條先輩は「うーん」と腕を組んだ。


「せっかく来てもらったところ悪いんだけど、この通りまだ演目が決まってなくてねー。これが確定しないと、衣装も大道具も決まらないから、お願いしたい資材なんかもまったくの未定なんだよね」


 そりゃそうだよな。ところで――――


「その……演目が決まってないのに、エリスがヒロインをやるのは決まってるんですか?」


 俺はおずおずと尋ねる。


「そりゃそうでしょ!」


 西條先輩はエリスにいきなりがばっと抱きつく。……おいおい。だが、当のエリスは戸惑うこともなくニコニコしている。


「こーんな異国の超絶美少女が参加してくれたんだよ! 演劇部の部長としては、絶対に舞台に立たせなきゃって思ってるよ! 幸い、エリスちゃんも前向きに考えてくれてるしね」


 西條先輩は、その力なんて全然なさそうな細い腕で、さらにエリスをぎゅっと抱き枕のように抱きしめた。普通の日本人の感覚なら明らかに過剰なスキンシップだが、エリスは慣れた様子で彼女をハグし返していた。照れてる感じもない。


 ……やっぱり、エリスにとってはハグなんて挨拶や親愛の情を示す程度のものでしかないのか……。あのデートの日の帰りのことも、彼女からしたら何でもないことだったのかもしれない。なんか、ショックだ。なぜショックなのかは思考の外に置いておくことにする。


「それで、悠斗はどう? どの劇がいいと思う?」


 再び、エリスが俺に問う。


「あたしはエリスちゃんにマッチするように、外国の話のほうがいいと思ってるんだけどねー。ただ、『君の名は。』みたいな今時のやつがいい! って意見も多くてさー」

「…………」


 ……いや、待て。逆に考えろ。エリスにとってスキンシップが挨拶みたいなものなら、“そういうシーン”があったとしても、彼女が変に意識したりすることはないはずだ。相手役の野郎はともかく。

 それでも、ヒーローとヒロインがイチャイチャする場面が多いような作品はまず却下だ。特に、キスシーンなんてダメ、絶対。リア充イケメンとエリスが……なんて想像しただけで虫唾が走る。嫉妬のあまり、本番中にその男にヘッドショットをかましてしまうかもしれない。


 とにかく、ボディタッチが少なそうなのは―――――。

 俺が完全なまでの私情で作品を選ぼうとしていると、これまでずっと黙っていた真岡がポロっと口にした。


「どれにするかまとまらないって話なら、脚本をアレンジやミックスしてみればいいんじゃないか?」


 何……だと?


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