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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第2章 文化祭準備編
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第2話⑤ 予期せぬ不安

「柏崎くんって、そのエリスって子と仲いいの?」


 高梨会長は詩でも諳んじるように、楽しげに言った。

 ホ、ホントに話変わるな……。琴音なんかもそうだが、何で女子ってこうも話題がトランポリンみたいに飛ぶんだ?


「……は、はい。その、まあまあ……だと思います」


 彼女のからかい交じりの問いに、俺はどうにか肯定の返事をした。あとで傷つくのを恐れて、「別に仲良くない」と卑屈になってはいけない場面だ。……とはいえ、結局は日和気味の答えになってしまうのが、俺たる所以なのだが。


 するとなぜか、顔を逸らしていたはずの桐生と、ここまで一言も発していない真岡の鋭い眼光が俺に向けられる。……さっきから何だってんだ、おまえらは。


「ふーん、そうなのね。だったら……」


 高梨会長は、今日俺たちに配られたミーティング資料を指差す。


「真岡さんが進捗の管理を担当するプログラムの中に、演劇の企画があるでしょ?」


 俺はその資料をパラパラとめくり、該当のページを開く。俺に仕事を丸投げするはずの真岡も、急に真剣な表情で資料を目で追っていた。


「その企画の発案者が、私と仲のいい演劇部の部長なの。エリスさんはそこに参加するみたいだから、仕事のついでに様子を見に行ってあげたら? その友達がはりきってたのよね。『すっごく舞台映えする参加者が来たんだよ!』って。あれは絶対、メインどころの役にするつもりね」

「そうなんですか……」


 企画の内容に目を通すと、エリスが言っていたように、劇の演目は『未定』とあった。これから本格的に決めるということだろう。

 それにしても、エリスの演劇の練習風景か……。本番まで楽しみにしていようと思っていたが、委員の仕事で関わりがあるなら見学してみてもいいかもしれない。エリスが日本の課外活動のやり方に戸惑うこともあるかもしれないし。


 何より、エリスならどんな役でも似合うのは間違いない。これは、1+1が2になるのと同じくらい真理だ。

 俺の安直なイメージだと、シンデレラのようなお姫様役が真っ先に思い浮かぶ。あるいは不思議の国のアリスみたいな少女役もぴったり合いそうだ。何といってもヨーロッパ出身だし。金髪の美少女だし。

 なんて俺がエリスの舞台姿に想像を膨らませていると、


「……おい柏崎。顔がニヤけてるぞ。フツーにキモい」

「どうせエリスの衣装の妄想でもしてたんでしょ。……確かにキモいわね」


 真岡と桐生がそれぞれ、ジト目で睨みながら辛辣な一言を浴びせてくる。俺は、「そ、そんなんじゃーねーよ」と苦し紛れに言うのが精一杯だった。……完全に当たってたからね。

 そんな俺の様子を見た高梨会長は、ますます小悪魔的な笑みを深くし、今思い出したかのように言った。


「あ、それとね、その劇の演目、ラブストーリーものにするらしいわよ」

「……え?」

「まだどんな話にするかは具体的には決まってないらしいんだけどね。もちろん、相手役の男子は校内での選りすぐりのイケメン君になるんじゃないかしら」

「…………」


 俺は思わず硬直してしまった。身体だけでなく、表情も強張っているのが自分でもわかる。


「まあ、思春期で恋愛脳の高校生が考える脚本だもんな。そりゃ当然か」

「エリスの相手役をするんだもの。相当かっこいい男子になるわよね。……まあ、それでも、エリスが相手だと分不相応になっちゃうだろうけど」


 そんな俺をよそに、真岡と桐生はまたしても口々に勝手なことをのたまう。つーか、普段からその恋愛脳な小説を書いてるのは誰だよ。

 俺は動揺を必死に抑えて言った。


「……ま、まあ、それが文化祭なんだからいいんじゃねえか? エリスの思い出になるのが一番なんだし。俺がどうこう言うことじゃねえよ」


 そうだ。大事なのは、どうでもいい俺なんかの心境じゃない。エリスにとってどうか、だ。そう約束したんだから。

 でも、何で――――。


「……そんな震えた声で言われても、説得力ないわよ。相変わらず、素直なんだかそうじゃないんだか、わかりにくいわね、柏崎君は」

「演劇って気持ちをぶつけ合うもんだし、恋愛感情が生まれやすいって聞くぞ。ましてや文化祭って非日常の最中だし。そのエリスって子も、雰囲気に当てられちゃったりしてな?」

「…………」


 何でこんなに不安になってんだ、俺は。

 高梨会長はくすりと笑った。


「ふふっ。どうやら答えははっきりしているみたいね。せっかく真岡さんと同じ班になったんだし、様子を見ておいてもいいんじゃない?」

「……そう、ですね」


 俺はもう頷くしかなかった。というよりは、この人に頷かされた、というほうが正しいのかもしれないが。

「本当に意地悪いですよね、会長は」という桐生の呆れた小言が、意識の遠くで聞こえた。


 ×××


 そして会議が終わり、俺と真岡は夕日が差す廊下を歩いていた。


「じゃあ、さっきの話の通り、真岡の担当の分も俺がやるから。おまえの資料も貸してくれ」


 俺はそう真岡に催促する。どうやら高梨会長は、俺が真岡の仕事をまるまる引き受けることまでは気づいていなかったようだ。

 しかし―――、


「やっぱり、いい」

「……は?」


「あたしも準備委員の仕事、やるよ。気が変わった」


 ……何だって?

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