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陰キャな俺が外国人の金髪美少女をスクールカーストから救う話  作者: 新森洋助
第4章 文化祭2日目
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第2話① PN.真白あおい

 午前10時。

 開場前のホームルームが終わり、みんなと別れた俺は、生徒会室で高梨会長の下、作業に追われていた。この杜和祭の出し物の最優秀賞を決めるコンテストの集計作業である。


「柏崎くん。アプリやSNSの回答は学校のサーバーに蓄積されてるから、その集計をお願い。はい、これIDとパスワード」

「ありがとうございます」


 俺は生徒会の備品である専用のPCを立ち上げ、作業に入る。


「じゃあ私はちょっと外に出てくるわね。とりあえず昨日のうちに回答があったものをまとめておいてもらえると助かるわ」

「はい、わかりました」


 高梨会長は慌ただしげに生徒会室を出ていく。……そろそろ美夏さんが顔出すって言ってたけど、平気かな……。


 ……っと今はそれより。

 

「真岡。俺はネットの回答のほうを担当するから、おまえは紙の投票用紙の集計を始めてててくれ」


 俺と同じく文化祭準備委員の真岡葵も、この場に呼び出されていた。

 しかし、真岡は露骨に不満げな顔をする。


「はあ? ちょっと待てよ。どう考えてもあたしのほうが重労働だろそれ。おまえはちょっとエクセルいじるだけじゃんか。あたしにそっちやらせろよ」

「いや終わったら普通に手伝うって……」


 俺たち以外の準備委員も、この時間当番になっている者たちは、ほかの事務作業に追われていたり、出し物の見回りをしていたり、ゲストや来賓のアテンドをしていたりと大忙しだ。俺たちが一番楽なくらいである。


「……約束だからな」


 真岡はそう言うと、作業スペースとして準備してあったはずの隣のテーブルから、なぜか複数の投票箱をえっちらおっちら運び始め、わざわざこちらのテーブルの上に乗せる。そして俺の隣にぽすんと座り、紙とペンを取り出した。


 まあ、それは別にいいのだが……。


 ……なんか近くない? おかしい。こいつのパーソナルスペースは俺と同じく1.5メートルのはずだ。


 そんな疑問が顔に出ていたのか、真岡はムッとした表情になる。


「……何だよ。終わったらあたしを手伝ってくれるんだよな? だったら近いほうが効率的だろ?」

「……ま、まあそうだけど」


 いつもなら、ここで真岡がもう一言二言文句や嫌味を付け足してくる流れなのだが、今日の彼女はそれ以上何も言わず、箱から投票用紙をバサッとばらまき、一つ一つ手に取ってメモをつけ始めた。


「「…………」」


 な、何だこの感じ……。

 どうしても、様子が違った昨日の彼女との距離感を思い出してしまう。


 そのせいかなんとなく作業に集中できずにいると、真岡は独り言のようにぽつりとつぶやいた。


「そういえばさ」

「ん?」

「決まったよ。発売日」


 何が、と聞く必要はない。


「え? マジで? いつ?」

「9月25日。昨日のあの後担当からメールが入っててさ」

「おお……やっとか」


 なんか感慨深いものがある。これでも一応、出会った日から真岡の物語を追ってきたファンの一人だからな。


「でも結構先なんだな?」

「一応、編集に最終版としてOKもらえて、脱稿はしたんだけど。これから校閲とかプロモーションとかいろいろあるらしくてさ。印刷や製本はそれからだって。本って、ホントに色んな人が関わってできるんだって……改めて実感した」


 真岡は人の心を動かす物語を紡ぐその手で、淡々と「正」の文字を積み重ねていく。


「……そっか。すごいな」


 素直な感想だった。真岡が作家になるということももちろんだが、なんというか、社会とか関係者とかを巻き込む“仕事”を彼女がしていることにだ。

 それで対価をもらう。まさしくプロの入り口に、いま彼女は立っている。


 もし、これで発売後に人気作になったりすれば、真岡葵……いや、真白あおい(今さらだがこれが彼女のペンネームだ)はどんどん遠くへ行ってしまうかもしれない。


「あ、そうそう。それでさ、キャラクターのイラストも届いたんだよ。見るか? きっと驚くぞ」

「え? マジ? でもそういうの、まずいだろ」

「大丈夫。データ渡したりSNSに上げたりしなけりゃ、身内くらいには見せてもいいってちゃんと許可もらってるから」

「いや、それ家族にってことだろ。俺は別に身内じゃ……」


「身内だよ」


 ……え。


「作家としてのあたしにとっては……おまえは身内だよ。だから見せたいんだ。あたしを応援してくれたからこその、成果の一つなんだから」

「……真岡」

「……なんてカッコつけてみたけど、ぶっちゃっけた話、自慢できそうなのおまえくらいしかいないんだ。親はラノベとかわかんないし。……友達はいないし。ちょっとはこの感動、誰かと共有したいんだよ」


 自分でしゃべっていて恥ずかしくなってきたのか、真岡はたははと誤魔化し笑いをした。


「……わかった。そこまで言うならその誉れ、潔く引き受けるぜ」

「何だよその言い方。大げさ」


 彼女は小さく噴き出すと、ポケットからスマホを取り出し、スワイプして俺の前に差し出す。

 その時、ギィっと真岡の椅子がまたこちらに近づいた。

 肩が触れそうな距離。彼女は耳にかかったその長い髪をかき上げる。ふわりと甘い香りがした。


 ……ああ、いかんいかん。イラストに集中しろ、俺。


 自らをそう奮い立たせ、俺は改めて画面を覗き込む。


「……ってこれ」


 おそらく主人公のヒロインだろう。真岡が文中で表現してきた特徴とぴたりと一致する。

 もちろんめちゃくちゃ上手い。可愛い。躍動感がある。


 でも、それより……。


「な? 驚いただろ? 正直あたしもびっくりした。こんな偶然あるんだなって」

「あ、ああ……」


 画面の中で微笑む真岡の作品の主人公は、現在進行形でこの杜和祭の話題をさらっているVtuber、シルヴァと絵のタッチがそっくりだったのだ。


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