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⑧青春タイトル争い ~未来~

「真岡さんとそんなに仲良くしちゃってて」


 いきなり地雷原に向かって手榴弾でも投げつけたかのような千秋の危なっかしい問い。エリスはそれに戸惑いながらも答える。


「な、なんで? さっきも言ったよ? 葵はわたしにも日本の人たちと同じように接してくれて、それがうれしいの。だから、これからも仲良くしたいと思ってるよ」

「うん、もちろんそれは知ってる。でも……」


 たぶん葵も、自分とは違ってエリスの事は嫌ってはいない。素直じゃないけど、好ましいとは思っているはず。だからこそ……。


「このままだと……この先どんどん辛くなるわよ。エリスも気づいてないわけじゃないでしょ?」

「……うん」


 エリスはコクンと頷いた。普段はこの手の曖昧でふんわりとした日本語が何を指しているかわからないのに、なぜ今に限って理解できてしまうのだろう。

 こういう時こそ、彼と彼女が関わっているものこそ、知らないまま、気づかないままでいたいのに。そうすれば―――――。


 その重くなった空気に気圧されたのか、琴音がしずしずと小さく挙手した。


「……なんかガチ修羅場っぽい展開になるのが前提みたいになってるけど……その葵さんがそこまで入れ込んでるとは限らないんじゃない? だってあのヘタレ兄貴だよ? 失恋しても『まあそんなもんかぁ、ちょっとした気の迷いだったわ』くらいで済む可能性も……」

「それはないわね」


 琴音の希望的観測を、千秋は否定をもってぴしゃりと断言した。


「真岡さんは典型的なこじらせ女子よ。自分では淡泊でつもりかもしれないけど、実際はものすごくめんどくさいし重いわ。変なフラれ方したらストーカー化するかも」

「えっ……」


 マジですか、とドン引きする琴音。


「そ、それは言い過ぎだけど、悠斗に本気だとは思うな」


 考えてみれば最初からそうだった。ブラックキャットで初めて葵を見かけたあの日から。悠斗のことばかりずっと見てた。彼の理解者がいるとわかってうれしいのに、ものすごくモヤモヤもした。


「前からちょっと聞きたかったんだけど……。そもそもエリスはこれから悠君とどうなりたいとかってあるの?」

「えっ、悠斗と?」


 ちょっと苦み成分の多い回想に浸っていたエリスに、千秋が首を傾げつつ尋ねる。すると、琴音がやれやれと肩をすくめた。


「ちょっと千秋姉、それ聞くのヤボってもんじゃない? そりゃあ近いうちに告白して付き合うでしょ。まぁ、兄貴のほうからエリスさんに告白しない限り、あたしは二人の交際を絶対に許しませんけどね」


 デリカシーないと言いながら、その実自らが配慮に欠けているブーメラン発言に続けて、「……なんなのホント、ヘタレのくせに調子に乗んな」とぶつぶつ呪詛を吐く琴音。千秋は「琴音こそ二人のなんなのよ……」と呆れ果てている。


 一方、エリスは「悠斗と恋人……」とその雪のような顔を真っ赤にしたと思ったら、「でも、悠斗とわたしは……」すぐさま我に返ったよう深い深いため息を漏らす。

 千秋はその様子を横目に見つつ、


「そうじゃなくて、その先よ。悠君どう付き合うのかって話。エリスはあと8カ月しかここにいられないのよ。二人で仲良くスクール&キャンパスライフってわけにはいかないじゃない」


 より現実的な解を求めていた。


「どうするって……そりゃあ現実的に遠距離しかないでしょ。しかもエリスさん、高校卒業したらアメリカの大学に行くんだよね?」

「うん、そのつもりだよ」


 それは決して変わらない、と宣言するようにエリスは力強く肯定した。

 彼女は、恋はしても恋で自分を見失うようなタイプではない。千秋は勘違いしているが、葵もまたそれは同じ。自分の夢より悠斗を優先することは決してないだろう。


「でも今時、本人たちが平気なら遠距離でも何とでもなるんじゃない? スマホもあるしリモートもあるし、その気になれば外国でも行ったり来たりできるじゃん。実際、わたしたちの両親も今アメリカだし、エリスさんだって日本に何度も来てたんでしょ? 幸い、あの甲斐性なしに浮気の心配はないし。できないだけとも言うけど」


 琴音は、本人がいないのをいいことに好き勝手言っていた。千秋はそれをスルーして、


「じゃあその先は? 将来はどうするの? 一緒になるの?」

「しょ、将来は一緒にって……。ちょ、ちょっと千秋姉? どんどん話が壮大になってない? まるでお見合いとか結婚前提のお付き合い、みたいな……」


「普通の、日本の高校生同士なら考える必要なんかないことだけど、タイムリミットのある外国の異性と本気で恋愛したいなら、避けて通れない話だと思うけど? だって、年に数回だって会えるかどうかもわからないくらい離れてしまうのに、それでもって言うならそのくらいの覚悟がなければ意味ないわよね?」


「うっ……言われてみれば確かに」

「もちろん、エリスも悠君も、来年の3月になったらお互いのこと全部きっぱり忘れます、って言うなら話は別だけど」


 千秋がかすかに挑発するようにエリスへ視線を送る。すると、


「む、無理だよそんなの!! 絶対!!」


 エリスは叫んだ。


「エリスさん……」


「もう無理だよ……悠斗の事を忘れるなんて、わたしには絶対にできないよ……」


 絞り出すように、エリスは悠斗への募る想いを吐露する。


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