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007 MBF


「部活動を始めるぅ?」


 放課後、夏姫は正門前で待っていた光一郎に、MBF部に入部する旨を話した。

 光一郎は訝し気な視線を彼女に向ける。


「今まで部活に一切の興味もなかったお嬢様が、三年生になって部活を始めるって……何か裏があるんじゃねーだろうな?」


「裏なんてないさ。今年設立されたばかりの部活だ、三年生が入部しても何の不思議もないだろう?」


「MBFっていやぁ、ロボットバトルのアレだろ? なんだって急にそんなものを……」


「楽しそうだったからな。何事も試してみなければ分からないものだよ、光一郎。それに、これは学園が認めた正式な部活動だ、やましい所など何一つない。それとも、私は学園の活動に何一つ参加してはいけないのかな?」


 夏姫の言に、光一郎は腕組をし、渋い顔を見せた。


「いや、そういうわけじゃねーんだが……予想外の行動を取るな、このお嬢様は。ハァ……分かった、部活の件は了解だ。だが、アンタを一人で帰宅させたりするわけにはいかんからな。図書室で時間を潰しているから、終わったらスマホに連絡を入れろ。迎えに行く」


「ああ、そうするよ。それでは、早速部活に行ってくる」


 夏姫は手を上げ、踵を返して学園内に戻って行く。

 向かう先は第二グラウンド傍の格納庫だ。


 昴星学園の敷地は広く、正門から格納庫まで歩いて10分ほどかかった。

 鉄の両扉の真ん中が人一人分通れる程度開けられており、そこから中に入ると『山王』がその威容を持って出迎える。


「夏姫先輩!」


 夏姫の姿に気づき、すばるが白衣を翻して傍にやってきた。

 格納庫の中には、彼女の他に人影はない。


「ん? すばる一人なのか?」


「あー……今日はそうですね。現在、このMBF部には私と、私の兄、そして夏姫先輩の三名しか部員がいません。兄は所用があって、今日はお休みです」


「そうか。しかし、確かMBFの試合は――」


「5対5が公式試合のルールですね。人数が少なくても参加はできますが、やはり最低限5人は部活メンバーを揃えたいところです」


 すばるがハァと嘆息し、悲し気にうなだれる。


「入学式の後の部活動案内で、MBF部の宣伝もしたんですけどねぇ。入部希望者は今のところ夏姫先輩ただ一人です」


「昴星は元々あまり部活動に力を入れている学校ではないからな……それに、カラクリを動かすには魔導の素質が必要で、操作自体も習熟が難しい。あまり気楽に入れる部活ではないな」


「そうなんですよねぇ。それに、実を言えば私も魔力は最低限、マージギアを動かせる程度でして。本当は裏方に回りたい所なんですけどね」


 白衣の前をピッと引っ張り、すばるはその存在を強調する。

 魔導兵器や魔導具を整備する職に就く者は魔技師と呼ばれ、その多くが白衣を着用していた。


「まぁ、現状を嘆いていても仕方ありませんよね。今日はどうしましょうか。もうそろそろ、公認魔技師の方も来られると思うので、マージギアの試運転でもしてみましょうか?」


「公認魔技師?」


「はい、世界マージギア・バトルフィールド連盟公認魔技師でございます」


 夏姫の疑問への回答は、背後から聞こえてきた。

 振り返ると、きっちりと髪を七三に分けたスーツ姿に白衣の男性が佇んでいる。


「えーと……貴方は?」


「申し遅れました、(わたくし)白田道和(しろたみちかず)と申します。以後お見知りおきを」


 白田は名刺入れから紙片を取り出して夏姫に渡した。

 それを両手で受け取り、夏姫は礼をする。


「これはご丁寧に、ありがとうございます。柏陵院夏姫です、よろしくお願いします」


「はい、こちらこそ」


 白田はニコニコと目を細め、柔和な笑顔を見せた。

 彼は山王の前まで歩き、両腕を広げる。


「世界マージギア・バトルフィールド連盟は、全てのマージギアの運用を管理・監察する組織でございます。マージギアは今でこそ戦場から姿を消しましたが、立派な兵器です。その取扱いを厳しく監視する事が、私たちの責務でございます」


「MBF部の活動は、白田さんみたいな公認魔技師が一校につき一人配属されて見守ってくれるんです。公認魔技師がいない間は、マージギアを動かしてはいけない規則があるんですよ」


 すばるが説明を挟み、白田は首肯する。


「その通りです。ですが、私から貴女たちの部活動の方針にまで口出しすることはございません。影のような存在として、知っていてもらえれば結構でございます」


「分かりました。丁寧な説明、感謝いたします」


「いいえ。それでは、部活動お励みください」


 深々と礼をすると、白田はドックの隅に設けられたプレハブ小屋へ入って行った。


「あそこは?」


「部室兼事務所みたいなところです。あそこに置いてあるパソコンには、マージギアのデータが随時送られて来るようになっています。白田さんがそれを見張っていますから、危険な運用をすれば、すぐに部活動中止にされちゃいますよ。注意してくださいね」


「ああ、分かった」


 さて、とすばるはパンと両手を合わせ、話題を変える。


「それじゃ、今日はどうしましょうか? マージギアを動かしてみますか? それとも、試合に出てみましょうか」


「試合……? 他校と試合をするのか?」


「ええ、そうです。シミュレータでの試合になりますがね。こちらの選手の実力に近い相手が自動的にマッチングされ、試合が行われます。1対1の試合もできますよ。それに――」


 すばるが白衣のポケットからタブレットを取り出し、操作を始めた。

 見せたい画面を表示させ、それを夏姫の前に掲げる。


「これが我が校のMBFの実績です。現在は一回も試合はしていないのでランク圏外ですが……見て欲しいのはポイントです。MBFの試合では、勝てば学園にポイントが付与されます。そのポイントを用いて、新たな機体や武器を調達したり、修理費などに充てる事ができるんです」


「なるほど……新しい機体を手に入れるには試合に勝つ必要があるのか」


 夏姫は山王を見遣る。


「山王は悪い機体じゃないが、私の戦闘スタイルとは合わないんだ。私は近接戦闘が得意だから、同じヤマのカラクリ――『烈火』が欲しい」


「烈火というと、山王の兄弟機ですね。接近戦が得意な機体は他にもありますけど、何か思い入れでもあるんですか?」


 すばるの質問に、夏姫は口の端をほんの少しだけ上げ、微笑んだ。


「私の、『愛機』だよ」


 

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