051 練習の成果
「街ステージか」
試合開始直後、星也は全周モニターに映る光景を見ながら独りごちた。
近くに敵機の姿が無い事を確認した後、山王の右手に魔力を集中させる。
風が手のひらに集まっていく。
「『散風陣』」
右手に集めた風の塊をアスファルトの地面に叩きつける。
魔力を帯びた風がそこを起点に広域に広がっていった。
コクピット内にピコンと電子音が鳴り響き、モニターの脇にレーダーが表示される。
(一番近い味方機は……すばるだな。近くに敵も居る。少し迂回をして、姿を晒さないよう注意しながら向かうか)
左手にアサルトライフルを携え、山王が動き出す。
大通りに出て、車道を走り、横道に逸れていく。
映画館が入っている大型ショッピングモールの前で、すばるの乗るフロッグマンGと合流した。
「お兄様!」
「すばる、無事だな? すぐに移動するぞ」
一息吐く間もなく駆け出す山王の背を、フロッグマンGが追走する。
モニターのワイプ越しに、すばるが質問した。
「状況はどうなっていますか?」
「夏姫さんが孤立した敵と戦闘を開始したよ。光一郎は朋子の元へ向かっているようだ。俺たちはまだ合流していない敵機の元へ向かう」
レーダー上で敵影を確認する。
2人から程近い場所で、敵が1機孤立していた。
その機体の元へ、別の敵機が合流に向かっている。
恐らく、探知魔術要員だろう。
(合流前に速攻で撃破する!)
星也は山王の魔導炉に魔力を送り込み、機動力を増幅させた。
すばるもそれに何とか付いていく。
「敵機確認! 火のナイト1!」
交差点を折れ曲がり、高層ビルが立ち並ぶオフィス街に出た。
その通りに、赤く装甲を染めたナイトが周囲に警戒しながら佇んでいた。
こちらに気づくや否や、アサルトライフルを構えて射撃を開始する。
「敵機に接近してアレをやるぞ!」
「了解です!」
山王は左手に携行したアサルトライフルを、フロッグマンGは右手に持ったアサルトライフルを、それぞれ一斉に火を吹かせた。
ナイトの厚い装甲に銃弾の雨が叩きつけられる。
「オオオオオオッ!」
敵の銃弾は山王に向けられていた。
星也はジグザグ走りで移動し、相手との距離を詰める。
すばるもその横に付いて車道を駆け抜けた。
ナイトの持つジャイアントソードが届かない、絶妙な間合いに入る。
「今だ!」
術式展開。
山王の右手に集めていた魔力を吹き荒ぶ風に転換する。
同時に、すばるも左手に溜めたエネルギーを風へと変えた。
「「双・空圧波!」」
2人が伸ばした手の先から、うねり狂う強大な風の塊が放たれる。
空圧波の統合魔術だ。
組み合わされた魔術式が、星也が普段放っている空圧波の数倍以上の威力となってナイトを襲う。
厚い魔導装甲を纏い、並みのカラクリよりもずっと重量のあるナイトが、地から足を浮かせて吹き飛んだ。
アスファルトの地面に背中を打ち付け、派手な音を鳴り響かせる。
「すばる、胸部装甲を打ち抜くぞ!」
「はい、お兄様!」
銀城兄妹が、無防備に倒れたナイトの胸部に向けてアサルトライフルを斉射する。
流石のナイトも両機による弾丸の一点集中に装甲を貫通され、コクピットに鉛玉が到達した。
赤かった装甲が白色に戻り、完全に動きを止める。
「倒した! 倒しましたよ、お兄様! 流石、統合魔術! 素晴らしい!」
「落ち着きなさい、すばる。戦いはまだ終わっちゃいないよ」
興奮するすばるを窘め、星也は合流に向かって来ている敵機の方角へ山王の顔を向けた。
数秒の間を置いて、交差点の曲がり角から緑色に装甲を彩ったファイターが姿を現した。
2人は間髪置かず敵機へアサルトライフルを射撃する。
ファイターは瞬時に形勢不利を悟り、交差点の角にある雑居ビルに身を隠した。
「すばる、魔力はまだ大丈夫だな?」
「はい、まだいけます!」
山王が右手に仕込まれた魔力放射装置にエネルギーを充填させ始めたのを見て、すばるも機体の両手に魔力を送り込んだ。
細長い両腕の先にある手が、光り輝く。
「練習通りに行くぞ。敵機はまだあの建物の裏に潜んでいる――撃て!」
フロッグマンGが魔力を束ねた一条の光線をビルに向けて放つ。
レーザーが放たれる前に発生する魔力反応を感知し、ファイターが移動した。
光線はビルを破壊して消滅する。
「次は俺が!」
山王が交差点の先に躍り出て、背を向けて逃亡するファイターに魔導レーザーを放った。
ファイターは横へ跳び、それを回避する。
「とどめッ!」
フロッグマンGの両手に溜めた魔力、残った第二射がファイターの避けた先へ放たれた。
矢継ぎ早に放たれた光線にファイターは成す術なく被弾する。
胸部装甲を貫通され、仰向けに倒れた。
「や……ったぁ! 仕留めましたよ、お兄様!」
「ああ、よくやったよ、すばる。やはり遠距離攻撃は数が物を言うな」
星也は両手を振り上げて喜ぶ妹を満足げに眺める。
敵機撃破から数拍おいて、コクピット内にピーという電子音が流れた。
《WINNER 昴星学園チーム》
抑揚のないアナウンスが、チームの勝利を告げる。
星也はモニター脇のレーダーに視線を移した。
(全員無事か。完勝だな)
レーダー上には5つの機影が示されていた。
ふっと口元に笑みを湛え、搭乗席の背に上半身を預ける。
心地よい疲労感に身を委ね、星也は少しの間、瞼を閉じた。
※ ※ ※
シミュレータが停止され、モニターの映像が遮断される。
夏姫は搭乗席の下にあるレバーを引いた。
ハッチが展開され、外の光が眩く差し込む。
「夏姫さ~ん!」
移動階段のタラップに足を踏み出すと、先に降りていた朋子が階下で手を振っていた。
他のメンバーも全員揃っているようだ。
その顔に浮かぶ表情は、一様に明るい。
「よし、白田さんが撮っておいてくれた試合の動画を見返してみようか」
星也が声を掛け、一同プレハブ小屋に入って行った。
冷蔵庫で冷やされた自家製アイスティーをそれぞれのカップに注ぎ、喉を潤しながら動画を視聴する。
各自の戦闘の様子を見終えた後、星也が立ち上がりホワイトボードの前に立った。
「皆、お疲れ様。初めての団体戦にしては、かなり理想的な動きが出来ていたと思う。後は……感想や反省点、何でも構わない。夏姫さんから順番に、所感を述べて欲しい」
「ん、私からか」
テーブルの端に座っていた夏姫が、顎先に指を添えて思考する。
「そうだな、私は単独で動き、敵機の速攻撃破を狙った。今回は敵の合流も無く、スムーズな撃破が出来たと思う。後は、他のチームと合流が出来ていれば満点だったかな」
「夏姫先輩は敵を倒し終わった後、すぐに高所を陣取って索敵してましたよね。遠方で戦う私たちの方へ向かって来てくれてましたし、間に合わなかったのはランダム配置の仕様上、仕方ないですよ」
夏姫の言に、すばるがフォローを入れる。
星也が軽く頷き、夏姫の隣に座る朋子に発言を促した。
「えーと……私は試合開始後はその場で待機していたんだよね。それで、光一郎君の通信が入った直後に敵に襲われて……」
「俺がもうちっと早く合流に迎えていたら、不意打ちも受けなかったのになぁ」
光一郎は己の手のひらに拳を撃ち込み、悔しそうに歯噛みした。
「今回の試合で身に染みたぜ。やっぱ、探知魔術は重要だ。早く習得しねぇとな」
やる気を見せる光一郎。
魔術の習得には、非常に細やかな魔力の操作と根気強さを要する。
その練習内容に辟易とした様子を見せていた彼が、実戦で己の役割の重要性に気づき、モチベーションを上げていた。
(成長したな、光一郎)
夏姫は目を細め、満足げに微笑んでいた。
その隣で、朋子は手を振って光一郎を励ましている。
「でも、光一郎君はすぐに救援に来てくれたし、助かったよ。特に土壁でフロッグマンGのアサルトライフルを防いでくれた事! あれでファイターの撃破に集中できたんだよね」
「そうだな、あの魔術の運用は良かった。フロッグマンGが土壁を壊す為に魔導レーザーをチャージする間、実質的にファイターと2対1の構図に持ち込めた。そこで相手を速攻撃破出来たのは大きかったな」
横から夏姫にも褒められ、気恥しくなったのか、光一郎は視線を逸らした。
次に星也はすばるに所感を述べさせる。
「私ですか。私のところには、お兄様がすぐに駆け付けてくれましたし、行動も迅速でしたよね。特に練習していた統合魔術が実戦で決まって、もう大興奮でしたよ!」
興奮が甦ったのか、両手を握り締めて語るすばる。
星也は笑みを浮かべ、自身の考えも口にする。
「俺とすばるのチームは練習の成果が色濃く出ていたと思う。統合魔術からのアサルトライフルの斉射、魔導レーザーを連発する事での追い込み。どちらも魔術特化の山王、2つの魔力放射装置を持つフロッグマンGの強みが活かせていた」
全員の感想が出終わり、改めて星也がミーティングを纏める。
メンバーの顔を見回した後、短く、力強く断言した。
「お疲れ様、皆。俺たちの完全勝利だ」
誰からともなく拍手が起こる。
部員の顔に浮かぶのは、一切の曇りのない笑顔だった。
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