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048 ミーティング


「さて、フロッグマンGが搬入されて、各自搭乗するマージギアが揃った。改めて、団体戦について解説しておこうと思う。質問があれば、いつでもしてくれて構わないよ」


 格納庫のプレハブ小屋内。

 星也がホワイトボードの前に立ち、ミーティングを取り仕切っている。

 他メンバーはパイプ椅子に座り、彼の言葉に耳を傾けていた。


「まず、MBFの団体戦は5対5で行われる。公式大会ではシミュレータを使わず現実で戦うことになるけど、ランキングの試合は個人戦同様シミュレータで行うことが可能だ」


「質問! なんで公式大会はリアルで行うの?」


 朋子が手を上げて疑問を呈した。

 それにはすばるが答える。


「朋子先輩、そこはロマンですよ! 仮想空間ではない現実世界での戦闘、その事実が燃えるじゃないですか!」


「……え?」


 両手を握り締めて力説するすばるに、朋子がきょとんとした顔を見せる。

 星也は額に手をやり、やれやれと首を振った。


「すばる、個人的見解は控えるように」


「え~……」


 拗ねたような声を上げるすばる。

 そのやりとりを見て笑っていた光一郎が、腕を組んで発言した。


「でも、確かに疑問だよな。公式大会もシミュレータで済ませちまえば、機体の移動やら修理に掛かる費用も要らねぇのに」


「理由は簡単だよ、光一郎。MBFの大本は興行だからね。公式大会が行われるバトルフィールドの中央には、望遠鏡を用いて生で戦闘を観戦できるタワーも建てられている。会場に足を運ぶ熱心な観客は、シミュレータの映像にはない迫力を味わいたいのさ」


「なるほど……まぁ分かんなくもないッスね。サッカーも野球も、テレビ中継だけじゃ味気ないって感じですか」


 星也の解説に、光一郎は一応の納得を示した。

 次に、夏姫が手を上げて質問する。


「団体戦と個人戦、試合の仕様に違いは?」


「うん、細かい差異があるよ。例えばステージ傾向。個人戦ではショートの割合が多めだったけど、団体戦では稀だ。殆どロング……探知魔術で敵機を索敵しながら戦う長期戦になる。そして、開始位置。味方も敵もステージ内にバラバラに配置されるようになるんだ」


 朋子が不安そうに眉尻を下げる。


「えっ……それじゃあ、チーム全員で固まって戦えないって事?」


「全員で固まれるのがベストですけどねぇ。フィールド内で全く敵機と遭遇せずに味方全員と合流できる確率は低いです。2,3で別れて戦うことが多くなると思いますよ」


 すばるが横から説明を挟み、星也がコクリと大きく頷いた。

 それから光一郎の方へ視線を移す。


「うちのチームで探知魔術を使えるのは、俺と光一郎の2名だ。試合開始後は、俺たちが手分けして味方と合流を目指すことになる」


「俺の探知魔術は、まだまだ未完成っスけどね」


 光一郎がぼやくように言葉を口にした。

 確かに彼の探知魔術は稚拙だ。

 未だ実戦で使える精度に達してはいない。

 しかし、彼の言葉を聞いた夏姫の顔には、余裕めいた笑みが浮かんでいた。


「大丈夫だよ、光一郎。お前には確かな魔術の才がある。あと半月もしないうちに、実用に足るレベルに仕上げられるさ」


「……ま、精々期待に添えられるように頑張りますよ」


 ふぅと小さな溜息を吐き、光一郎はひらひらと手を振った。

 最近の彼は、土属性の魔術の習得に練習時間の大半を割いていた。

 高度な魔術の行使には、繊細な魔力のコントロールと集中力を要する。

 豪快な性格な光一郎にとってはあまり面白くない練習の反復に、若干の不満が募っているようだった。


(だが、光一郎には責任感と根性がある。何の変化も見せない魔導試験箱を前にして、ずっと集中を保ち続けた持ち前の粘りがある。きっと探知魔術を完璧に習得してくれる事だろう)


 夏姫は光一郎に信頼を寄せていた。


「話を戻すよ……えーと、探知魔術で俺と光一郎が皆を迎えに行くってところだったな」


 星也が昴星学園チームの戦術について、話の本筋を戻した。


「つまり、私たちはその場で待機してればいいんだね」


 朋子の言葉を、星也は肯定する。


「そうだね、基本的に朋子とすばるには敵の接近に注意を払いながら、その場で待機していて貰いたい。俺か光一郎が合流に向かう。だけど夏姫さんには――」


「――遊撃か」


 夏姫がニッと不敵に口角を上げた。

 星也もそれに同調し、好戦的な笑みを浮かべる。


「その通り。夏姫さんには、跳躍や高所を陣取って索敵を行って貰い、孤立している敵機を速攻で撃破して欲しいんだ」


「え……でも、それって危険なんじゃ? 高い所へ行ったりジャンプなんかしたら、自分から姿を晒すことになっちゃうし……」


 朋子が不安そうに夏姫と星也の顔を交互に見る。

 しかし、両者の顔は楽し気なまま変わらない。


「確かに危険はある。だけど朋子、想像できるかい? 夏姫さんが1対1で負ける場面をさ」


「それは……イメージできないけど」


 朋子は口元に手を当て、視線を虚空に泳がせた。

 夏姫の今までの個人戦の試合内容を思い出しているのだろう。

 現在ランキング31位、一度の黒星を喫する事無く勝ち上がり続けてきた彼女の試合内容を。


「何事にもリスクは付き物だ。首尾よく1対1に持ち込んでも、すぐに増援に来られたら私の方が窮地に陥るだろう。しかし、速攻で敵チームのカラクリを1体落とす事ができたら、その人数有利の差は絶大だ。ハイリスク、ハイリターンだな」


「ヘヘっ、危険だ何だと言っても、やる気満々じゃねぇかお嬢様。まぁ、俺もそういうのは嫌いじゃねぇぜ」


 メリットとデメリットを語る夏姫の顔を見て、光一郎が白い歯を見せて笑う。


「まぁ、この戦術自体は珍しいものじゃないですよ。どこの学校もエースと呼ばれる選手を有しているものですから。そういった人が遊撃手になるのは、割と普通です」


「……そうなんだ」


 すばるの説明を聞き、朋子は膝の上で手をキュッと握りしめる。

 心配そうな表情はそのままだったが、それ以上言葉には出さなかった。


「さて、大まかな説明は終わったかな。戦術については、後で詳細に煮詰めていこう。次は……試合の申請だな」


「申請? なんか手続きが必要なんスか?」


 光一郎が訊き返すと、星也は首肯した。


「ああ。個人戦は一人だし、試合相手も格下から格上まで広範囲で選ばれるようになっているから事前申請の必要はない。だけど、団体戦は5人揃ってやらなきゃ駄目だろ? 対戦相手校とタイミングが合わなきゃいつまで経っても試合できないから、事前申請する必要があるんだよ」


「へぇ~、そうなんだ。確かにずっとマッチング中、コクピットの中でずっと待つっていうのは辛そうだもんね」


 朋子が納得したように小さく手を打った。

 星也は長机の上のタブレットを指差す。


「フロッグマンGが搬入されてから、すぐに団体戦のマッチング申請をしておいた。おおよそ2日か3日後の指定された時間に試合となるはずだ。心しておいてくれ」


 星也が部員の顔をそれぞれ見回し、各々了解の返事をした。

 夏姫は口の端を僅かに上げる。


(楽しみだな、団体戦)


 期待感で、胸の内が高揚していた。

 自分一人だけの力ではない。

 部員全員の力でどこまでやれるのか。

 試してみたい、早く戦ってみたい。


 知らぬうちに、夏姫は右手を強く握りしめていた。


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