043 部活動対抗リレー
部活動対抗リレー、第一走者が一斉にスタートした。
男女生徒が入り混じり、その中で最も小柄な体格のすばるが最後尾に付いている。
トラックを半周したところで、第一障害である借り物が立ち塞がった。
机の上から取った手札の内容通りの物を観客から借り、ゴールまで持って行かなければならないものだ。
先に机に辿り着いた選手たちが、各自首を捻らせながら観客の元へ向かっていく。
遅れ、すばるが札の内容を確認し、即座にMBF部の面々が固まる方へ走って来た。
「お兄様! こちらへ!」
「ああ、分かった!」
すばるが星也の手を引き、机の前から再スタートを切る。
他の選手が未だ物や人を探している中、すぐさま星也を連れてきたすばるは見事に1位でたすきを後続に繋げた。
第二走者である光一郎が走り出す。
「すばる、借り物は何だったんだ?」
走り終えて息を整えながらやってきたすばるに、夏姫が問いかける。
すばるは頬に手を当てて、小さく溜息を吐いた。
「『好きな人』でした。私、今好きな人居ませんし、それならお兄様でいいかなって……」
「ハハハ、俺は代役か。昔はお兄様と結婚すると聞かなかったのにな」
星也がすばるの頭をグリグリと撫でつける。
すばるは顔を赤くして反論した。
「もう、それは昔の話でしょう!」
銀城兄妹は今日も仲が良さげだ。
夏姫は光一郎の方へ視線を送る。
彼はトラックを半周し終え、新たな障害である網縄の前までやってきていた。
広げられ四方を体育委員によって抑えられた網の下を掻い潜って行くものだ。
「光一郎くーん! ファイトーッ!」
朋子が大きな声援を送っている。
光一郎は躊躇う様子を見せることなく四つん這いになり、網の下に身体を潜り込ませた。
砂埃に塗れながら懸命に進み、網の下から飛び出る。
汚れを払うことなく、彼は再び走り始めた。
「中々いいペースだな」
「ああ。すばるに続いて光一郎もトップで次に繋げられそうだね」
光一郎の後ろを追走する者はなく、まだ網の下でもがいている生徒ばかりだ。
その中で悠々と光一郎がゴールラインにやって来て、第三走者である朋子にたすきを渡した。
砂で汚れたたすきを肩から掛け、朋子がスタートする。
「ふぃーっ! ブッ千切ってやったぜ!」
光一郎がクルクルと肩を回しながら戻って来た。
夏姫は彼の体育着に付着した砂を手で叩いて落としてやる。
「汚れているぞ、光一郎。ほら、後ろも見せてみろ」
「はぁ!? いや、いいから! 自分でやる!」
光一郎は数歩下がって夏姫から距離を置いた。
慌てたように身体に付いた汚れをパンパンと叩き落す。
「? どうした光一郎。背中の汚れは自分じゃ落としにくいだろう」
「……それは俺が手伝っておくよ」
星也が光一郎の傍に寄り、背中を平手で叩いて砂埃を散らした。
夏姫は釈然としない面持ちでそれを見届けた後、改めて走者の方へ視線を向けた。
朋子の前には次なる障害、小麦粉が盛られた四角い箱が長机に設置されていた。
小麦粉の中に隠された飴玉を手を使わずに探し出し口の中に入れなければならないものだ。
朋子は机の上に手を付け、バフッと勢いよく箱に顔を押し付けた。
白煙が僅かに空に舞う。
「おーっ、朋子先輩豪快にいったな」
面白げに笑みを浮かべる光一郎。
朋子は十数秒ほど掛けて飴玉を見つけ出し、面を上げた。
白くなった顔のまま前へ進み、次は地面に置かれたバットを手に取る。
その先端を地面に着け、柄を額に当ててクルクルとその周りを回り始めた。
1,2,3――傍に控えた体育委員の女子が回った数をカウントし、規定回数を回り終えた朋子にゴーサインを出した。
「朋子センパーイ! 頑張れー!」
すばるが声援を飛ばす。
フラフラになった朋子がトラックを走り出し、地面に片膝を付いて止まった。
急ぐあまり勢いよく回り過ぎて、三半規管に異常をきたしたのだ。
朋子が頭を押さえている間に、後続の生徒達が飴玉探しを終え、バットを手に回り始めていた。
朋子は歯を食いしばり、何とか走り出す。
その背中を追い付いてきたのは、野球部の選手だ。
「夏姫さん!」
朋子がたすきを次走者の夏姫に手渡す。
夏姫はすぐさま肩にたすきを掛け、スタートラインから飛び出した。
そのすぐ後ろを坊主頭の野球部の生徒が続く。
夏姫の足は速いが、運動部に所属する男子生徒を千切れるほどではない。
だが、その差を縮めさせることなく激走する夏姫に観客からどよめきに似た歓声が上げられた。
(このまま突っ切る!)
夏姫は速度を落とすことなくトラック半周に差し掛かる。
そこに立ち塞がるのは宙にぶら下がるパンたちだ。
夏姫は走り幅跳びでもするかの勢いで跳躍した。
ぶら下がったあんぱんに歯を食いこませ、首を振って紐から分離させて着地する。
そしてそのままの勢いで再び走り始めた。
「オオーッ!」
観客が沸き上がる。
後続に続く生徒達はパンの前で立ち止まり、垂直に跳んでパンを咥える者ばかりだ。
夏姫のダイナミックな動きに感心するような声援が飛んだ。
「後は頼んだ!」
「お任せあれ!」
夏姫がたすきを最終走者である星也に繋ぐ。
星也が白線を飛び出すと、女生徒達から割れんばかりの黄色い声が上がった。
当の星也は涼しい顔をしてグラウンドを回っていく。
トラック半周に差し掛かり、彼に障害が立ち塞がる。
「星也様ー! 頑張ってー!」
スタートからずっと女生徒達の歓声は止まらない。
星也は長机の上に置かれたスプーンにオレンジ色のピンポン玉を乗せた。
器用にバランスを取り、走り出す。
空気抵抗で落ちそうになるピンポン玉を手首の動きで制御しながら、星也は他選手を寄せ付けぬ快走を見せた。
そのままゴールテープをその身で切る。
「しゃあっ! 流石星也先輩!」
光一郎が両手をグッと握り締めて天にかざした。
1位のフラッグを手に星也がMBF部の面々の元に帰ってくる。
「お兄様、やりましたね!」
「勝ったぁ~、良かったぁ。私、足を引っ張っちゃったから冷や冷やしちゃった」
すばると朋子が星也の傍に駆け寄った。
星也は白い歯を見せて笑い、1位のフラッグを誇示するように持ち上げる。
MBF部全員で初めて掴んだ勝利。
そういう事が言いたいのだろう。
夏姫は口の端を僅かに上げ、微笑みを浮かべた。
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