039 レーベ
5月も半ばが過ぎた頃、昴星学園MBF部の格納庫に新たな機体が搬入された。
ドルクの第三世代機、獅子を模したカラクリ『レーベ』だ。
光一郎の希望した機体である。
「くぅ~……! ついにこの日が来たかぁ!」
光一郎が右手を握りしめ、感慨深げにレーベを見上げている。
マージギア展示会でレーベに試乗して以降、彼はこの機体を再び操縦する日を心待ちにしていたのだ。
「早速乗ってみますか、先輩?」
「おう、もちろん!」
白衣を着たすばるがクラフトマンの上から問いかけ、光一郎は威勢よく答えた。
移動階段をレーベの胸部コクピットに設置し、タブレットを操作してハッチを開く。
光一郎は口を引き結び、若干緊張した面持ちでタラップを踏みしめて行った。
「ようやくこれで我が部のマージギアも3体目ですねぇ」
クラフトマンから降りたすばるが、しみじみとした口調で夏姫に話しかける。
夏姫は腕を組んで、魔導装甲を茶色に染めたレーベを仰いだ。
「公式大会のエリア予選は9月からだったか。7月に入る前までには、すばるや朋子の機体も導入できそうだな」
「夏姫先輩もお兄様も、最近の試合では勝利毎に10000ポイント以上の点数を稼いでいますからね。この調子なら導入はすぐでしょう」
夏姫は山王から烈火に乗り換えた後も、一度の黒星を喫する事無く個人戦の試合を勝ち抜いていた。
現在の順位は92位である。
星也の方は遠距離型の山王の弱み故か、近接戦闘特化型のカラクリに懐へ潜り込まれてしまうと崩れやすく、数度の敗北を重ねていた。
それでも順調にランキングを上り詰め、141位にその名を刻んでいる。
「フロッグマンGの導入を先にしなくて良かったのか、すばる?」
夏姫が隣に並ぶすばるに視線を向ける。
「ええ、いいんです。私の練習は山王でも充分こなせますから。フロッグマンGより、独自機構を持つレーベやフェイローの導入を急ぐべきですよ」
「……それもそうか」
この部活は銀城星也とすばるの両名が立ち上げたものだ。
彼女は最古参である。
にも関わらず、部全体の事を考えて自分が乗るカラクリの導入を後回しにしていた。
知らず、腕が伸びる。
夏姫の手が、小柄な少女の頭を優しく撫でた。
すばるが驚いたように目を大きくし、長身の夏姫を見上げる。
「先輩……?」
「すばるは良い子だな」
「えぇー……何ですか、それー。急に子ども扱いしないでくださいよ」
すばるが照れ笑いを浮かべる。
夏姫は手を引き、素直に謝罪した。
「すまない、不躾だったな」
「いや、まぁいいですけど……」
頬を少し赤らめ、そっぽを向く。
どうやら子ども扱いはお気に召さないらしい。
暫くすると、すばるの持つタブレットに光一郎から通信が入った。
「うっし、慣らし運転終わり! すばる、試合させてくれ!」
すばるが夏姫に目配せする。
共同合宿からこっち、光一郎は山王に乗って魔術の訓練ばかりしていた。
試合の経験は、日神学園との団体戦の一度しかない。
だが、そろそろ良い頃合いだろう。
夏姫は頷き、試合の許可を出す。
「了解です。光一郎先輩、試合のマッチングを開始します。ご武運を!」
「おう、任せとけ!」
※ ※ ※
全周モニターの映像が遮断された。
コクピット内が暗闇に包まれる。
頼りない赤の非常灯のみが、唯一の光源だ。
「……さぁ、やろうぜレーベ。俺とお前の力を見せつけてやろう」
光一郎はコキコキと肩を鳴らし、前傾姿勢をとって操縦桿を握りしめた。
歯を噛み締め、攻撃的な笑みを浮かべる。
暫く待つと、マッチング終了の電子音が鳴った。
次いで、モニターにカウントダウンの数字が表示される。
3,2,1 ―― Fight!
周りの風景が映し出される。
光一郎の乗るレーベは青空の下、遮蔽物が何もない草原地帯に佇んでいた。
(敵は……あそこか!)
百メートルほど離れた地点に、敵機の姿を捕捉する。
肥大した胸部装甲、細長い手足、そして頭に生えた角が特徴的なカラクリ――フロッグマンGだ。
「行くぜぇ!」
丹田から生まれる魔力を魔導炉へ送り込む。
過剰エネルギーを脚部に集中。
鉄の獣が疾風の如き速度で敵機に向けて走り出した。
フロッグマンGが左手に携えたアサルトライフルを構える。
その銃口から、弾丸が連射された。
「ラアアアッ!!」
魔導装甲を強化させ、光一郎はレーベをジグザグに移動させた。
銃弾が当たり始めたら急速に向きを変えて走り出し、相手の攻撃を同一箇所で被弾しないように努める。
(アサルトライフルは同じ部位に連続で受けなければ貫通される事はない、恐れず突っ切れ!)
夏姫の教えを心の中で思い返し、レーベがフロッグマンGに接近する。
敵機は魔力反応で光輝く右手を突き伸ばした。
魔力放射装置から、一条の光線が放たれる。
「読めてるぜ、そんなもんッ!」
レーベが横に跳ねて魔導レーザーを回避した。
同時に、後ろ脚から地面へと魔術式を展開する。
「出ろ、『土壁』!」
鉄の獣の足下から、高さ10メートルを超える土の壁が急速に聳え立つ。
土属性の中では最も初歩的な防御用の魔術だ。
だが、光一郎はそれを攻撃に転用した。
「ラアアアアアッ!」
せり上がった土壁の上で、脚部に集中させた魔力を爆発させる。
レーベが引き絞られた弓の矢のように、勢いよく敵機に突っ込んだ。
高所から脚部の力と重さを加えた特攻。
フロッグマンGはその速度に反応することも出来ず、両肩に鋭い爪を突き立てられて仰向けに倒れた。
「喰らえ、レーベッ!」
レーベが大きな顎を開く。
爪に引っ掛けたフロッグマンGの上半身を無理やり起こし、肩から胸部装甲を噛み砕いた。
太く鋭い牙の先が堅牢なコクピットに強い衝撃を与える。
フロッグマンGの魔導装甲から、色がサッと失われた。
魔導炉を停止させ、完全に沈黙する。
光一郎は胸部装甲から牙を抜き、レーベを草の大地に鎮座させた。
《WINNER 清田光一郎》
抑揚のないアナウンスが、コクピットの中に響き渡る。
光一郎はガッツポーズを作り、その拳を天井へ向けた。
「しゃあっ! 見たかぁッ!」
勝利に酔った獣が吠える。
清田光一郎の初めての個人戦は、見事白星を飾る結果となった。
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