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035 元祖MBF


「おう、皆ここに居たのか」


 次なるアスレチックを求めて一行が室内を巡っていると、光一郎の乗るレーベと遭遇した。


「もう慣らし運転はいいのか、光一郎?」


「ああ、充分堪能した。コイツはティーガーⅡより動きは鈍いが、パワーが半端ない。気に入ったぜ」


 モニターのワイプ越しに、光一郎が満足げに笑顔を浮かべる。

 

「そうか、それは良かったな」


「んで、そっちは何してたんだ?」


 光一郎に問われ、夏姫は顎に白い指先を当てた。

 虚空に視線を彷徨わせ、思い返しながら答える。


「壁登りと救助活動、あとはワイヤー滑りか」


「救助活動?」


 アスレチックとは関係ない単語に、光一郎は怪訝そうな表情をした。

 すばるがフロッグマンGの細長い腕をばたばたと振る。


「まーまーまーまー! その話はいいじゃないですか! 次のアスレチックへ行きましょう!」


 自分の失敗を思い出したくないのか、強引に話を切り上げさせる。

 消化不良で釈然としなさそうだったものの、光一郎はそれに従った。


「ん、何だ?」


 昴星学園のメンバーが固まって移動していると、ドンという鈍い音が聞こえてきた。

 次いで、歓声が沸き上がる。


「行ってみましょう、お兄様」


 星也の疑問符に、すばるが音がした方へと機体の足を進ませて答えを導かんとする。

 暫く進むと、ロープを張り巡らせた正方形のリングが設置されているのが見えた。

 

 マットの上にはカラクリが2体。

 立って腕を振りかざし勝利を誇示する巨人と、這いつくばっている敗者。

 横たわっていたカラクリの魔導装甲から色が失われ、仮想空間から姿を消した。


「これは……プロレスかな?」


 朋子が首を傾げてワイプ越しに尋ねてくる。

 夏姫は肩を竦め、知らないことを示した。


「やぁーやぁー、君たち! 元祖MBFに興味がお有りかな!?」


 リングの外で観戦していたフロッグマンが近づき、外部スピーカー越しに話しかけてきた。

 星也がそれに対応する。


()()MBF? 何ですか、それは?」


「それはだねぇ――」


 フロッグマンが答えようとした刹那、両者の間に影が生まれた。

 リングの上からカラクリが飛び降りたのだ。

 ズシンという地響きを響かせ、巨人が曲げていた膝を伸ばし立ち上がる。


「大っきい~……」


 朋子がフェイローの首を後ろへ逸らし、率直な感想を述べた。


 ローアの第三世代機『ギガース』だ。

 曲面が少ない角ばったフォルムは同国のタイラントと変わらないが、特徴的なのはその大きさである。

 全長約14メートル、通常のカラクリの1.4倍ほどの巨躯を誇っていた。


「最初期のMBFは、広場や草っぱらに杭とロープを使って即席リングを作り、その中で格闘技を繰り広げる興行だったんだ。魔術の類は使用禁止、武器も内部兵装含めて使用不可。己の機体と魔力操作のみでの真剣勝負(ガチンコ)! それが元祖MBF!!」


 ギガースに乗り込んでいる男が熱く語り、最後に二の腕の力こぶを作るようなポーズを決めた。

 その後ろに先ほどまでリングを囲んで観戦をしていたカラクリが2体並び、ボディビルダーが身体を美しく見せるポージングをする。


「濃いなぁ……この人達」


 光一郎は若干引き気味だ。

 そんな彼の機体にギガースがズカズカと歩み寄る。


「キミはビーストシリーズに試乗中かい? 扱いの難しいドルクの機体に乗るなんて、珍しいねぇ。だけど、元祖MBFは人型同士の格闘技なんだ。キミはパスだね」


 上半身を屈してレーベを眺めていたギガースが、烈火とフェイローの方に向き直った。


「格闘技向きの機体は、やはり近接戦闘特化型に限られる。どうだい、どちらか俺と戦ってみないかい?」


 親指を立て、自身の胸を差すギガース。

 夏姫と朋子が互いの顔を見合わせる。

 ワイプ越しの朋子は後頭部に手を当て、困ったように笑った。


「アハハ……私はこういうの苦手なんだ。夏姫さんはどう?」


「私も剣を使った接近戦はしてきたが、素手での格闘戦は嗜んだことがない。あまり興味もないな」


 夏姫も乗り気ではない事を伝えると、ギガースの傍に控えていたフロッグマンが前に出て人差し指を立てた。

 チッチッチと指を振る。


「キミ達見た感じ高校のMBF部っしょ? 俺ら大学のMBF部に所属してんだよね。だから先輩として忠告しとく。長くMBFをやってりゃ、格闘戦を仕掛けなきゃいけない場面が必ず出てくるもんなんだ。武器を失ったり、魔力がガス欠になったりしてね。そういう時にファイティングスピリッツを失わず戦うには、元祖MBFは良い経験になると思うよ」


 彼の話を聞き、夏姫は一理あると考えを改めた。

 戦場で武器を失った事や、魔力切れ寸前にまで陥った経験は確かにある。

 その場合は即時撤退し、貴重な戦力であるカラクリを失わないように努めるよう上官から厳重に指示されていた。

 

 だが、MBFは試合である。

 機体を失うことになろうとも、相手を討つ事が求められる場面も出てくるだろう。


「確かに、あらゆるシチュエーションを想定して、無手での格闘を経験するのもいいかもしれないな」


「おっ、分かってるぅ!」


 夏姫が考えを纏めると、フロッグマンが親指と人差し指を伸ばして烈火に向けた。

 ギガースがフェイローの方へのそりと歩み寄る。


「キミの機体はシェンのものだろう? だったら君も……というより、君こそ素手の格闘戦には慣れておかないといけないんじゃないかな?」


「あ……はい、そうですね」


 目の前に立つギガースの巨躯に気圧されるように、朋子は頷いた。

 星也が両手を軽く上げて、それを制止する。


「ちょっと待ってください。フェイローの搭乗者は素人なんです。試合はまだ早すぎます」


「んー……なら軽く組手する感覚でやるべ。俺、今日は観戦の気分だったから第二世代機のフロッグマンに乗って来たし、ハンデとしちゃ丁度いいっしょ」


 フロッグマンに乗っている男が、おどけた調子でジャブを数発虚空に放つ。

 朋子は決意し、胸に手を当てた。


「やります! やってみたいです!」


「決まり! んじゃ、早速やりますかぁ!」


 フェイローがロープ下を潜り、リングの上に立つ。

 フロッグマンがそれに対峙するように、青いポールの前を陣取った。


「それじゃ、始めッ!」


 観客に徹していたカラクリが、振り上げていた木槌を大きなゴングに打ち付ける。

 試合開始の鐘が鳴り響いた。


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