034 アスレチック
展示会場には様々なカラクリが立ち並んでいたが、夏姫は結局烈火に乗り込むことにした。
職員に移動階段を運んで貰い、コクピットに乗り込む。
座席に着き、一呼吸。
深く息を吸い、細く吐き出す。
「……さて、やるか」
前傾姿勢になり、操縦桿を握りしめる。
魔導炉に魔力を注ぎ、機体にエネルギーを行き渡らせた。
魔導装甲が赤く染まっていく。
「準備できましたかー?」
クラフトマンに乗った職員が外から問いかけてくる。
展示会はあくまで試乗の場なので、外部兵装を携行することはない。
「ええ、できました」
夏姫が答え返すと、職員がタブレットを操作した。
全周モニターの映像が遮断される。
次いで、仮想空間へのアクセスが始まった。
「ここは――」
モニターに周囲の光景が映し出される。
そこは広い室内に設けられた、カラクリ用の巨大アスレチック場だった。
壁を見ればわずかな凹凸を頼りにボルダリングをするカラクリの姿がある。
細い鉄骨の上を慎重に歩く機体、ぶら下がった太いワイヤーに捕まりブランコのように大きく揺れている機体の姿もある。
「やぁ、柏陵院さん」
声を掛けられ後ろを振り向くと、星也の搭乗する山王の姿があった。
傍にすばるのフロッグマンG、そして朋子が乗るフェイローが待機している。
「私が最後だったか。そういえば、光一郎はどこに……?」
「光一郎君なら向こうにいるよ」
朋子がフェイローを操作し、指差す。
そちらに視線を移すと、ライオンを模ったレーベが機動力確認用の走路の上を疾駆していた。
華麗に飛び上がり、しなやかに着地したかと思えば、再度走り出す。
「楽しそうですねぇ、光一郎先輩」
「最近は部にある人型のカラクリにしか乗れていなかったからな……久しぶりにビーストシリーズに乗れて嬉しいんだろう」
夏姫はハシャギ回るレーベの姿を見て目を細めた。
獅子がまるで子犬のように駆け回っている、微笑ましいものだ。
「さて、俺たちも色々回ってみようか。ここには珍しいアスレチックが沢山あって楽しそうだ」
星也の言葉に従い、まずはボルダリングに挑んでみることにした。
星也が先行して登り始め、次にすばる、夏姫、朋子の順に続く。
200メートル程のそびえる壁の至る所に作られた凹凸に、指先と足先をしっかりと固定し、ゆっくりと慎重に登っていく。
「あっ!」
150メートル程登った地点で、すばるのフロッグマンGが手を滑らせた。
手足をばたつかせ、その巨躯が落下してくる。
「すばる!」
夏姫は咄嗟に右手を伸ばし、フロッグマンGの細長い腕を掴んだ。
魔導炉に全霊の魔力を込め、機体出力を上げてバランスを取る。
「先輩、無茶です! 離してください!」
「だが……!」
夏姫が逡巡する。
これはシミュレータ内の出来事である。
落ちてもすばるに怪我一つないし、この時点で魔導炉を停止させてしまえば仮想空間から抜け出せる。
それでも、仲間を見捨てる事が夏姫には出来なかった。
「大丈夫!」
朋子のフェイローが下から登ってきた。
フロッグマンGのもう片方の腕を取り、持ち上げる。
「すばる、足を固定させろ」
「はい、先輩!」
すばるは空中に投げ出されていた足の先を、壁の凹んだ部分に突き入れた。
次に、夏姫と朋子がフロッグマンGの手を壁の隆起した所へ案内する。
なんとかリカバリーが済み、3人は安堵の溜息を吐いた。
「おーっ!」
「見たアレ!? あのマージギアに乗ってる人たち凄いわ!」
地上を見ると、他の客たちがこちらを仰いで歓声を上げていた。
外部スピーカー越しに拍手する音が聞こえてくる。
「あー……なんか、照れますね」
モニターのワイプに、顔を赤らめたすばるの様子が映る。
「フフッ、アハハハハ」
朋子が笑い出し、夏姫もつられ口元を緩ませた。
すばるはムゥーと唸り声を上げ、それから両手でパンと頬を挟む。
「よし! さぁ、先輩達、さっさと登りましょう。頂上はもうすぐですよ」
「ああ、了解だ」
3人は並んで登頂を目指す。
高さ200メートルの壁。
その残り4分の1をじりじりと踏破して行き、なんとか頂上に立つことに成功した。
「皆お疲れ様。すばるが落ちかけた時は正直ひやひやしたよ」
先に壁の上に辿り着いていた星也の山王が、両腕を広げて一行を出迎えた。
「ご迷惑お掛けしました」
すばるがフロッグマンGを操作し、器用にお辞儀をさせる。
夏姫は彼女の機体の傍に寄り、その厚い胸部装甲を手の甲でカンと叩いた。
「訓練でも慎重にな。試合で崖のぼりをする場面があるとは思わないが……いつでも全力で事に挑む心構えは重要だ」
「だから夏姫さんも全力ですばるちゃんを助けたんだね!」
朋子がフェイローの両手を合わせ、関心したように頷く。
そう改めて言われると気恥しくなり、夏姫はコホンと咳払いをした。
「さて、壁の上に着いたのはいいが、どうやって降りるんだ?」
「ああ、それならこっちにワイヤーの滑車があるよ」
壁の端の方へ移動すると、天井のレーンから縒り合されたワイヤーがロープのように垂れ下がっていた。
これに捕まれば室内の端の方で着地出来るようだ。
「じゃあ、まずは私から行こう」
夏姫がワイヤーをしっかりと掴み、空中に身を投げ出す。
レーンに沿ってワイヤーが滑っていき、徐々に地面に近づいていく。
その終点には弾力のある大きなゴム風船が敷き詰められており、そこへ転がり跳ねるように着地する。
(歩きにくいな……)
足裏の弾力に体勢を崩されながら、なんとか床の上に降りると、ワイヤーがひとりでに壁の上の方へ戻って行った。
暫く待つと、次は山王がワイヤーに下がってこちらに向かってきた。
風船の上をボンボンと跳ねて転がる。
「これは、目が回るね……」
山王が烈火の傍に寄ってきた。
モニター脇のワイプに映る星也は、側頭部に手を当て眉根を顰めていた。
「随分乱暴な着地法だ。シミュレータ内だからって、もう少しマシな方法がありそうだがな」
夏姫が同意していると、フロッグマンGが下りてきた。
「キャーーーーーッ!」
悲鳴を上げながら風船の上を転げ回る。
しかし、その声はどこか楽し気でもあった。
「いやー、楽しいですね! マージギアの遊園地みたい!」
実際、とても楽しんでいたようだ。
すばるは晴れ晴れとした笑顔を見せていた。
「うわぁっ! っと、おおっ!」
最後に朋子のフェイローが到着する。
ボヨンボヨンとゴムの弾力に跳ねて横たわった。
「いやー、ワイヤーのスピードも速いし着地も跳ねるし、ジェットコースターより怖かったよぉ」
朋子は身を縮めるように震わせながら感想を述べる。
一行が揃ったところで、改めて次のアスレチックへと向かい始めた。
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