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033 展示会


「へぇ、ここがマージギア展示会場か」


 光一郎が目的地に到着するなり、額に手を当てて目の前の建物を仰ぎ見た。

 一見すると美術館や博物館を連想させる外観の、巨大な建築物だ。

 薄緑に着色されたガラスの自動扉を潜り、自販機で入場チケットを購入する。

 係員に半券をもぎって貰い、密閉型の分厚い扉を開けるとだだっ広いホールに出た。


「わー、凄い!」


 朋子が歓声を上げる。

 そこには数十体のカラクリが立ち並んでいた。

 全長10メートルを超える人型の機体が整列する様は圧巻の一言に尽きる。


「どうやら制作国別に分けて展示してあるようだね」


 星也が近くに展示されている機体を見上げて言った。

 入口からほど近い場所に佇んでいたのは、ヤマの第一世代機『千破(ちは)』だ。

 曲面が少なく、ほとんどが長方形で型取られた装甲。

 顔ものっぺりとしており、申し訳程度に両目部分がくり抜かれていた。


「これがヤマの最初の機体なのか。なんか野暮ったい恰好してんなぁ」


「マージギアの第一世代機は、優秀な魔術師の魔術を強化する目的のみで制作された機体ですからね。歩いたり手を動かす事もほとんど出来ないし、する必要もなかったんです。云わば、魔術の固定砲台ですね」


 光一郎が率直な感想を述べ、すばるが注釈を添える。

 朋子が感心したように両手を合わせた。


「詳しいね、すばるちゃん」


「フフフ、それほどでも」


 すばるが眼鏡のブリッジを中指でクイと持ち上げる。

 少し通路を歩き、彼女は第二世代機である光月の前で立ち止まった。


「第二世代機からは、マージギア自身に移動と戦闘をする為の機能が備わりました。この巨人が戦場を自在に走り回り、魔術や銃器を使うようになって戦争は様変わりしたんです。それまで陸の戦いの主力だった戦車の砲弾を魔導装甲で無効化し、一方的に蹂躙していく……。ここからはマージギア同士の戦闘が主軸に移されていきます」


 すばるが周囲の反応を確かめる事もなく、カラクリの歴史を垂れ流している。

 先ほどは感心していた朋子も若干引き気味だ。


「第三世代機は対マージギアに特化した設計がされるようになりました。白兵戦仕様の烈火、魔力放射装置から強力な魔導レーザーを放つ山王。これらもマージギアと戦う事を想定して作られた機体です。ここからは各国の機体に特色が出て来て、更に面白くなってくるんですよ。ドルクのビーストシリーズみたいに尖がった機体も出てきますし!」


 すばるの解説に熱が帯びてくる。

 その頭に星也が軽く手刀を入れた。


「すばる、その辺にしておきなさい」


 彼に注意され、すばるがハッと我に返る。

 周囲の一般の客からも好奇の視線を注がれており、すばるは顔を赤くした。


「す、すみません……」


「だ、大丈夫! 勉強になったよ、うん」


 朋子がすばるの両肩に手を添え、フォローする。

 夏姫は苦笑いを浮かべた後、改めてカラクリの方へ視線を移した。


「第四世代機はないんだな……」


 誰に言ったわけでもない独り言だったが、それを星也が拾う。


「第四世代機は大戦末期に少数生産されたものや、試作機だったものが多いからね。そういう機体は生産に制限が掛けられているんだ」


 彼は烈火の隣にある、空の展示スペースの前に移動した。

 そこに掲示された説明書きには、図解付きで第四世代機について記載されていた。


「この『神代(じんだい)』はうちが作った第四世代機だよ。山王をアップグレードした機体だね。魔力の強化にブーストを掛ける事が可能らしい。そっちの画像に映っている『熾炎(しえん)』は烈火を製造した蜂谷製作所の次世代試作機。こちらは機体性能が烈火よりも更に高くなっているみたいだね」


「烈火の上位機種か……」


 志島は終戦の半年前ほどに亡くなった。

 故にヤマの第四世代機というものを自分の目で見たことがなかった。

 出来る事なら乗ってみたいものだが、現在このエリアで導入できるカラクリを全て展示しているというのがこの会場だ。

 ここに展示されていないカラクリは、試合で得られるポイントでは入手できないのだろう。


「第四世代機はほとんどがプロのMBFで使われているからね。数少ない残った機体も、すでに他校に渡ってしまっているんだ」


 夏姫の顔から考えを察したのだろうか、星也が説明を付け足す。

 ふむと顎に手を当てる夏姫。


「それでは、新参校は第四世代機を獲得する事は不可能なのか」


「いや、機会が全くないわけではないよ。第四世代機を確保している学校の戦績が悪く、機体を保有するに相応しくないと連盟から判断を下されたら、年度末に機体を放流しなくてはならない決まりになっているんだ。まぁ、運よく放流されて導入が可能になっても来年以降の話だから、俺たちには関係ないけどね」


 夏姫、星也、そして朋子の3人は最上級生だ。

 落第でもしない限り、来年には卒業している。

 夏姫は後ろ髪を引かれながらも、熾炎の事は諦めることにした。


「ああ、そういえば」


 光一郎達が居る元へ戻ろうとする夏姫に、星也がはたと声を掛けた。

 彼は白い歯を見せて笑みを浮かべる。


「烈火の次世代機である熾炎だけどね、現在の個人戦ランキング1位の人が乗っているんだ。だから柏陵院さんが順当に勝ち続ければ、戦う機会はあるかもね」


 その話を聞き、夏姫は口の端を持ち上げた。


「そいつは楽しみだ」


 不敵に笑い、その場を後にする。


 合流した昴星学園の面々は、まずドルクのカラクリが展示されているスペースへと移動した。

 第一世代、第二世代機が人型をしているのに対し、第三世代機からは獣を模った機体が並び始める。


「おーっ、あった! これがレーベかぁ!」


 光一郎が一機のカラクリの前で足を止め、目を輝かせた。

 ドルクの第三世代機『レーベ』。

 ライオンをモチーフにしたその機体は、ティーガーⅡよりも大きな体躯で鎮座していた。

 たてがみを模した魔導装甲が、より獅子らしさをアピールしている。


「……やべぇ、マジで恰好いいな」


 様々なアングルからレーベを見上げ、光一郎がテンションを上げている。

 星也が係員に声を掛けると、白衣を着た職員がクラフトマンに乗って移動階段を運んできた。

 それをレーベの胸部コクピット前に付ける。


「ご試乗ですね。当館のマージギアは全て仮想空間内で自由に動かす事が可能です。ごゆっくり楽しんでください」


 職員はクラフトマンの腕を上げ、去って行った。


「よし、じゃあ俺先に乗ってるわ! お先!」


 光一郎がレーベのコクピットに入っていく。

 暫くすると、その魔導装甲が茶色に染まった。

 それを見届けた後、星也が残ったメンバーに声を掛ける。


「さて、次は朋子の乗る機体を選ぼう。まずはメダリカの――」


 そこまで言って、星也は朋子の視線が一つの機体に注がれていることに気づく。

 その視線の先を追うと、ヤマの隣国シェンの展示スペースがあった。


「……あの機体が気になるのかい?」


「あっ……うん。あの細身の機体、ちょっと気になって」


 星也の言葉を、朋子は遠慮がちに肯定する。

 すばるがカチャリと眼鏡の位置を直した。


「あれはシェンの第三世代機『フェイロー』ですね。魔導装甲を限界まで削った機動特化型の機体です。なにより特徴的なのは、両手に魔力を集中させて纏わせる独自の内部兵装です。熟練者なら疾風のように相手に詰め寄り、魔力の拳の一撃で敵機を打ち破ることが可能です。が……」


 饒舌になっていたすばるが、最後に言い淀む。

 星也は腕を組み、難しい顔をした。


「うん……シェンの機体はピーキーなんだ。徒手空拳で近接戦闘をするスタイルは、とても初心者向けとは言えない。面白い機体ではあると思うんだけど……」


「あ……ごめんなさい。思いつきで変な事言ってしまって」


 朋子が申し訳なさそうに頭を下げる。

 夏姫はそんな彼女の肩にポンと手を乗せた。


「謝る必要はないよ、朋子。機体選びにはフィーリングも重要だ。光一郎だって、自分の好きなように機体を選んでいるしな。キミもそれに倣っていい」


「でも……いいのかな?」


 遠慮がちに、見上げるような上目遣いで朋子は問う。

 夏姫は力強く頷いた。


「ああ、いいさ。それにこれは試乗だ。合わなければ乗り換えればいい」


「はい! それじゃ、私あの機体に乗ります!」


 朋子が憂いていた顔に笑みをパッと浮かべる。

 大輪の花を彷彿とさせる、快活な笑顔だった。


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