031 新入部員
「というわけで、我が部に新しいメンバーが加わる事になった」
「3年の山野朋子です。よろしくお願いします!」
星也の隣で、朋子が深々と頭を下げた。
すばるが拍手を以て彼女を歓迎し、それに倣って夏姫と光一郎も手を打つ。
エヘヘと朋子は照れ臭そうに笑った。
「早速だが、まずは魔導試験箱で魔力のテストをしてみよう。回復魔術を使える彼女なら問題ないと思うが、念のためにな」
星也が朋子に四角い白い箱を手渡す。
「これは?」
「魔力を通すと色を変える箱ですよ。その色から、その人の魔力が秘める属性が分かるんです」
すばるに説明され、朋子は目を閉じて魔力を手のひらに集中させた。
魔導試験箱の色が、サッと明るい青色に変わる。
「俺が散々苦しめられた魔の箱を一発で……!」
驚き半分、恨めしさ半分の表情を見せる光一郎。
夏姫は微笑を浮かべ、首を横に振る。
「キミはレアケースだよ、光一郎。魔導の素質がありながら、あれだけ魔力の操作に苦しむのは稀だ」
「ヘン、まぁいいさ。俺だってもう魔力の操作はマスターしてるからな。ティーガーⅡ様々だぜ」
光一郎が腕を組み、ぷいと顔を背けた。
本当に子どものような奴だな、と夏姫は半眼になる。
おそらく後続である朋子が、すぐに自分と同じステージに立った事に拗ねているのだろう。
「朋子の魔力属性は、水の相が色濃く出ているね」
「火・水・風・土、これでウチの部も全属性揃いましたねー」
銀城兄妹が朋子を囲み、魔導試験箱を眺めて分析している。
それから星也はウンと大きく頷いた。
「魔力の量も問題ないだろう。次は、さっそくマージギアに乗ってみようか」
「あ、もう乗っていいんですか。楽しみです!」
朋子は嬉しそうに笑みを浮かべる。
それから、格納庫内に悠然と佇む烈火と山王を見上げた。
「んー、改めて見るとやっぱり大きいなぁ。この2体って、何か違いとかあるんですか?」
朋子の視線が近くに立っていた夏姫に向く。
夏姫はこくりと頷き、彼女の横に立ってカラクリを仰いだ。
「こっちの烈火は魔力を運動性能に変換させる事に特化した機体だ。近接戦闘を得意とし、前線で相手を攪乱する役目も担う。そっちの山王は魔力を魔術として使う際に最大のポテンシャルを発揮する。同じ魔術を使っても、烈火と山王じゃ威力が変わってくるんだ」
「へぇー、そうなんだ――じゃなくて、そうなんですね」
興味深そうに話を聞いていた朋子が、口調を改めた。
夏姫は肩を小さく竦める。
「別に敬語で無くても構わないよ。同級生だろう?」
「あっ、うん。そっか……言葉遣いを丁寧にしなさい、って入学してからずっと周りの人達に言われてきたけど、別に敬語じゃなくていいんだ」
「TPOはあるだろうが、同じ部活の仲間だしな」
夏姫の言葉に、朋子はニコーッと顔を緩ませる。
「なんだか嬉しいな。夏姫さんとこんな風にお喋り出来る日が来るなんて、思ってもみなかった」
「……私もだよ」
柏陵院夏姫にとって、山野朋子は礼儀知らずの庶民であり、己の婚約者に付き纏う身の程知らずの娘だった。
彼女と一度もまともに言葉を交わすことなく、ただただ拒絶するばかり。
互いの事など、一片たりとも理解していなかった。
(山野朋子は普通の娘だ。この学園においては異質だが、世間一般で見れば何の変哲もない女子高生。確かに回復魔術の才は持っているが、その本質は変わらないだろう。夏姫とだって、友好を深められる未来はあったはずだ……)
夏姫は己の胸に手を当てる。
(四月の初め、新乃宮に婚約者ではないことを――もう他人であるという事を強調された時、悲しみが胸中に渦巻いた。俺自身は全く傷ついていないのに、夏姫の心が流した涙で溺れそうになった。今も心の片隅に彼女は居るんだろうか? お前は今、朋子と共に居る事をどう思っている?)
心の内で行った己への問い掛けに、答える声は無かった。
夏姫はフゥと小さく息を吐く。
「あの、夏姫さん。私ってどっちの機体に乗ったらいいのかな?」
隣りに立ち、頬に手を当て悩んでいた朋子が問いかけてくる。
「そうだな。近接戦闘型は扱いや立ち回りが難しい。やはり、最初は山王をおすすめするよ。本当はメダリカのフロッグマンのような、オールラウンドに立ち回れる機体が初心者にはぴったりなんだろうがね」
「ん、分かった! 星也さん、私この山王っていうマージギアに乗ります!」
朋子は手を上げ、星也に機体を指定した。
彼はこくりと頷き、それから烈火を見上げる。
「了解だ。折角烈火が来た事だし、2機でシミュレータを起動しよう」
すばるがクラフトマンに乗り、移動階段と武器コンテナを運んだ。
朋子が山王に、烈火には星也が乗り込む。
山王の魔導炉に魔力が注ぎ込まれると、その魔導装甲が明るい青色に染まった。
「ブルーの機体もいいですねぇ……はぁ、美しい」
すばるがうっとりと山王を見上げている。
この子は相変わらずだな、と夏姫が少し呆れていると、傍に光一郎が寄って来た。
「なぁ、お嬢様。無理してねぇか?」
「無理?」
夏姫が首を傾げる。
光一郎は腕組し、朋子が乗り込んだ山王を見遣る。
「あの先輩、因縁の相手なんだろ? 一緒に居るの、辛くねぇか?」
夏姫は口の端を軽く持ち上げ、笑みを作った。
「ああ、平気さ。全く問題ない」
「そっか。なら、いいんだ。部活のメンバー確保の為に我慢してる、ってわけじゃないんだな?」
光一郎の最終確認に、首を縦に振る。
彼は安心したように腕組を解き、大きく伸びをした。
夏姫は目を閉じる。
「ありがとう、光一郎。心配してくれたんだな」
彼女の言葉に、光一郎は顔を赤くした。
「なっ、ちゃうわ! 部内の雰囲気が悪くなるのが嫌だっただけで、別にアンタを心配したわけじゃないっての!」
「それはそれでどうなんだ? 一応、お前は私の世話役なのだろう?」
夏姫はクスクスと、面白そうに笑う。
光一郎は顔を背け、すばるの方へ向かっていった。
タブレットを覗き込み、朋子と星也の練習風景を二人で見学し始める。
(兎にも角にも、これで部員が揃った。後はカラクリを揃えて、公式大会に臨むだけだ。待っていろ、サタリス……必ず雪辱を果たしてやる)
夏姫は烈火を見上げ、拳をギュッと握りしめた。
よろしければ評価・ブックマークをお願いします。




