025 実力
昴星学園チームの前に、日神学園のカラクリが揃って現れた。
エイリスのナイトを先頭に、右腕から大砲を生やしているローアのタイラント、そしてファイターが並んでいる。
3機とも装甲は緑を基調としており、風属性の相が色濃く表れていた。
アサルトライフルとジャイアントソードを両手に携えたナイトが、一歩前に進み出る。
「称賛いたしますわ、星也様。あのコンテナを個人の魔術で弾いて対処するなんて思いもいたしませんでした」
ナイトの外部スピーカーから、花子の声が聞こえてきた。
星也は油断なくライフルを構えながら、それに答える。
「お褒めに預かり光栄だよ、ハナ。しかし……個人の魔術ね。つまり、先ほどの大規模魔術は――」
「そう、私たちの魔力を合わせて放った風の統合魔術『狂飆』ですわ!」
花子はナイトの胸を逸らし、自慢げに語る。
先ほど目の当たりにしたコンテナ群を吹き飛ばす魔術の威力を思い出し、すばるは身体をぶるりと震わせた。
(あれが統合魔術……! マージギアは元々、魔術師の魔術を強化・増幅させるため発明された兵器。頭数を増やして力を合わせたら、あれだけの魔術を使えるようになるんだ!)
すばるの瞳が輝く。
恐ろしさもあったが、それ以上にマージギアの性能の素晴らしさに感動していた。
(ああ、やっぱりマージギアっていいな……最高!)
恍惚とするすばるを他所に、星也は厳しい表情をしていた。
銃口をナイトに向けながら、問いかける。
「それで……こうして姿を現したということは、真っ向勝負をしようってことなのかな?」
「その通りですわ。統合魔術は魔力を練る時間が必要ですし、その間は殆ど棒立ちになってしまいますから。陰になるコンテナも崩れてしまいましたし、もう隠れる必要はないでしょう」
ナイトがアサルトライフルを構え、戦闘態勢をとった。
その横にファイターが剣を持って並び、後方からタイラントが大砲をこちらに向ける。
二校のカラクリ達がその場で睨み合う。
先に口火を切るのはどちらか――暫くの間、牽制が続いた。
埠頭の先にたむろする海鳥の鳴く声が、どこか間延びして聞こえる。
「来ねぇなら、こっちから行くぜ!」
最初に動いたのは光一郎の乗るティーガーⅡだった。
鉄の獣が敵機に向かって疾駆する。
星也の山王とすばるのフロッグマンGは、左右に展開してその後に続いた。
「行きますわよ!」
ナイトとファイターが前へ出る。
ファイターが最前列を凄まじい速度で走り、ナイトはその後ろからアサルトライフルをティーガーⅡに向けて撃ち放った。
光一郎はジグザグ移動をして、弾丸を一ヵ所に受けないように努める。
「すばる、ファイターを狙うぞ!」
「はい、お兄様!」
星也の指示に従い、すばるはファイターに向けてトリガーを引き絞った。
山王とフロッグマンGのアサルトライフルが、フルオートで銃弾を連射する。
「星也様の相手は私が受け持ちますわ!」
花子の乗るナイトが、山王の射線を塞いだ。
銃弾をその厚い魔導装甲で弾き返しながら、星也の機体に迫る。
※ ※ ※
「光一郎、すばる! タイラントの砲撃に注意しながら、まずはファイターを落とせ! こっちは何とかする!」
星也は僚機に通信を入れ、迫りくる敵機に意識を集中させた。
山王は左手のライフルを連射しながら、右手に集めていた風の塊をナイトに向けて放出する。
「空圧波ッ!」
圧縮された空気弾がナイトを襲う。
だが、装甲が厚く重量のあるナイトはグラつきもせずそれを突っ切った。
「爆ッ!」
山王が左手を握りしめる。
同時に、山王が放った空圧波が凄まじい暴風となってナイトの周囲に吹き荒れた。
「ハァッ!」
ナイトはその場にジャイアントソードを突き立て、腰を沈めた。
その身に纏う緑の魔導装甲が淡く発光し、自身の周りに風の防壁を生み出す。
星也の生み出した爆風はナイトに届くことなく衝撃波を生み出すだけに終わり、やがて掻き消えた。
「その魔術はもう見させて貰いましたわよ、星也様!」
ナイトが再び山王と距離を詰め始める。
星也は後退しながらアサルトライフルをナイトに向けて連射し、右手の魔力放射装置にエネルギーを充填し始めた。
(さすが関西エリア優勝校の部長だ。一筋縄ではいかないか)
額から玉のような汗が次々に流れていく。
空圧波を暴風へ変換する魔術は、思っていた以上に己の魔力を減らしていた。
この右手に溜めた魔導レーザーを撃ち放てば、もうまともに戦える魔力は残されないだろう。
(一発で仕留める。チャンスを見逃すな!)
ナイトがアサルトライフルを撃ち放ちながら、突っ込んできた。
その右手に持つジャイアントソードを振りかぶり、山王を袈裟斬りにする。
その斬撃を後方に跳んで回避し、山王はライフル本体を敵機に向けて投げつけた。
「そんなものッ!」
ナイトは剣を振り上げ、銃を弾き飛ばした。
山王が動く。
相手の懐に潜り込んで、右手を敵機に突き出した。
「甘いですわッ!」
ナイトが山王の胸部に蹴りを見舞った。
衝撃でコクピット内の星也の身体がガクガクと揺さぶられる。
後ろに押され、山王が数歩下がった。
そこへナイトの剣が一閃される。
「クッ……!」
山王は更に後ろに下がり、倉庫の屋根部分に背中をぶつけた。
これ以上はもう下がれない。
星也の顔に焦りの色が浮かぶ。
(レーザーを放つか!? いや、ハナの腕前なら、レーザーを撃つ前段階で発生する魔力反応を感知されて躱されるだけだ! しかし、このままでは負ける……!)
「これで終わりですわッ!」
勝利を確信した花子が、ナイトの剣を振り上げる。
その時、側方から魔力反応の圧が発せられた。
「お兄様!」
通信機からすばるの声が響く。
見れば、フロッグマンGがこちらに半身を捻り、光り輝く左手を突き出していた。
膨大な魔力を収束させた一条の光線が、花子の乗るナイト目掛けて放たれる。
「クッ!」
花子が咄嗟にそのレーザーを後ろに跳んで躱す。
だが、星也はその隙を見逃さず追撃を仕掛けた。
「ラアアアアアアッ!」
残された全霊の魔力を振り絞り、ナイトの胸部に向けて魔導レーザーを放出する。
その光はナイトの厚い装甲を見事に突き破り、貫通させた。
花子の乗るカラクリが膝を折り、その場で沈黙する。
「――すばるッ!」
星也がすばるの乗るフロッグマンGの方へ視線を向けると、ファイターの斬撃が丁度彼女の機体を捉えたところだった。
上半身と下半身を離別させ、フロッグマンが崩れ落ちる。
「すばるッ! この野郎ォッ!」
地面に倒れ伏していたティーガーⅡが、なんとか立ち上がろうともがいている。
だが、敵機の攻撃によって右足を吹き飛ばされた鉄の獣は、起き上がることが出来ないでいた。
ファイターが近くに寄って剣を構え、手負いの獣に躊躇なくとどめを刺す。
ティーガーⅡの装甲から色が失われていった。
「これは――」
ナイトを落としたものの、敵機2体は未だ健在である。
反して、こちらは魔力の底が尽きた魔術特化の山王が1機のみ。
勝負は決していた。
「……降参だ」
星也は外部スピーカーを越しに、敵機へ敗北を告げた。
上半身を座席に預け、力を抜く。
(まだまだ、実力不足だな俺たちは……)
昴星学園チーム初の団体戦は、黒星を喫する結果に終わった。
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