024 アレンジ
フロッグマンGの操縦席に腰掛け、すばるは深呼吸を繰り返した。
大きく息を吸い、細く長く吐き出す。
こうすると緊張がほぐれるのだと、夏姫は言っていた。
実践しても効果のほどはイマイチ分からなかったが、彼女の顔を思い浮かべると心強くなる気がした。
(見ててください、先輩……私たちも後に続いてみせます)
すばるは奮起する。
4月初旬、昴星学園MBF部には入部希望者が全く集まらなかった。
中等部の頃から仲の良い学友を勧誘してみたが、色よい返事はなく、部員は兄と自分の二人だけ。
この学園にはマージギアに心惹かれる生徒はいないのか、と落胆していた。
そんな時に現れたのが、柏陵院夏姫その人だった。
初めは入部を拒否していた彼女だったが、MBFのPVを見せた後は態度を翻した。
あの時夏姫が口にした力強い言葉を、すばるは今も鮮明に覚えている。
(『この学園を優勝させる』……嬉しかったな、あの言葉。新設の部活動に入部してくれただけじゃなく、そこまで熱意を持って臨んでくれる人が現れるなんて思ってもみなかった。だから、私も先輩の夢の礎くらいにはなりたい)
すばるは前傾姿勢になり、2本の操縦桿に手を伸ばす。
魔導炉に注ぎ込まれた魔力が、フロッグマンGの装甲を緑と黄色に染めていく。
眼下のコンテナに収められたアサルトライフルを手に取り、戦闘準備を完了させた。
「用意はよろしいでしょうか?」
コクピット内に花子の問い掛けが響く。
その声に異議を申す者はいない。
「それでは、3対3の団体戦を開始いたしますわ!」
花子の通信が途切れた後、全周モニターの映像が遮断された。
カウントダウンが始まる。
3,2,1 ―― Fight!
コクピット内の視界が開ける。
すぐ傍に星也の乗る山王と、光一郎が搭乗するティーガーⅡが待機していた。
「ここは――港か?」
星也が山王の首を振り、周囲を確認する。
昴星学園チームは埠頭の大きな倉庫の前に立っていた。
すぐ傍には海が広がり、大型の貨物船が着港している。
遠くからニャーニャーとなく海鳥の鳴き声が聞こえた。
「大きな倉庫が立ち並んでますし、貨物コンテナもマージギアが隠れるくらい積まれていますね。隠れる場所は多そうです」
「どうするんスか、星也先輩?」
光一郎に尋ねられ、星也はコクリと頷いた。
「俺が探知魔術を使おう。大体1キロメートル圏内の敵なら探知可能だ」
山王の右手が天に向けて振りかざされた。
風がその手のひらに向かって集まっていく。
ビュウビュウと吹き荒ぶその風の塊を、地面に叩きつけた。
「『散風陣』」
星也の魔力を帯びた風が周囲に散っていく。
ピーンという電子音がコクピット内に響いた。
モニターの脇にレーダーが浮かび、東の方に敵機の魔力反応を示す。
「流石お兄様、頼りになります」
「いや、俺の探知魔術なんてまだまだだよ。この魔術を使っている間、他の魔術を使う事ができなくなるからね。柏陵院さんのようなマルチマジックが出来れば、使い勝手もよくなるんだが……」
星也は顎に手を当て自省を始めた。
こうなると彼は一人延々と思考を巡らせ続けてしまう。
すばるはパンパンと両手を打ち、兄の悪癖を中断させた。
「さぁ、お兄様。敵機の位置は分かりました。進軍いたしましょう!」
「ん……ああ、そうだな。よし、光一郎、先陣を切ってくれ」
「了解」
光一郎の駆るティーガーⅡが東に向けて移動を始めた。
その後ろをフロッグマンGと山王が並んで続く。
一行のカラクリの中で近接戦闘に特化した機体は、ティーガーⅡのみである。
3人は昨夜のうちに相談し、山王とフロッグマンGの両機がティーガーⅡの援護役を務める事に決めていた。
「やっぱ……初めての試合となると、緊張するな」
光一郎が周囲に気を配りながら獣の四足を動かす。
モニターのワイプ越しに見るその顔は、緊張で硬くなっていた。
「大丈夫ですよ、光一郎先輩。私たちがバックアップしますから」
「ああ、さすがにまっすぐ相手に突っ込むのは了承しないが、俺たちも接敵を出来る限り援助する。光一郎はその顎で敵機を食いちぎる事に専念するんだ」
彼の緊張を解こうと、兄妹が激を送る。
光一郎は無言のまま小さく頷いた。
(昨日初めてマージギアを動かしたばかりの先輩に、試合は早すぎなのかもしれない。でも、何とか頑張って欲しいな。私も微力ながら援護しますから)
フロッグマンGが、左手に携えるアサルトライフルのトリガーに指先を掛けた。
いついかなる時に敵が現れようと対応が出来るように準備をしておく。
「向こうも探知魔術を使っているようだ。まっすぐこちらに向かって来ているぞ」
星也はレーダーを眺め、相手の動きを観察していた。
敵機の反応は3体、固まってこちらに移動中。
距離がどんどん縮まってくる。
「全体、止まれ」
星也が号令を掛け、一行は足を止める。
きっちりと積まれたコンテナ群の向こう側に敵機が居る。
こちらがその場で待機すると、向こうも移動を止めて留まった。
埠頭のテトラポッドに波がぶつかる音が聞こえる。
すばるはごくりと喉を鳴らした。
レーダーに表示された敵影は動きを見せない。
「おにい――」
痺れを切らしたすばるが口を開きかけた瞬間、とてつもない魔力反応の圧が一行を襲った。
ビリビリと魔導装甲を震わせる、強大なプレッシャーだ。
敵機が何らかの魔術を行使しようとしている。
すばるの背中に冷たい悪寒が走った。
「逃げろッ!!」
星也が短い指示を出し、山王を後方へ走らせ始める。
ティーガーⅡとフロッグマンGがそのあとに続いた。
その数秒後、金属が拉げる大音と共に、並び積まれていたコンテナ群が吹き飛ばされた。
無数のコンテナが、中空を舞う。
そのうちの一つが、3機の元へ勢いよく飛ばされてきた。
(駄目ッ! これは避けられない!)
全周モニターの後方を見ながら、すばるは衝撃に備えた。
重さ2トンを超える金属製の箱が迫ってくる。
そのコンテナに、山王が足を止めて対峙した。
「空圧波ッ!」
右手に集めていた風をコンテナに向けて放つ。
しかし、その風の魔術ではコンテナを止めるには威力が不足していた。
鉄の箱は風の塊に当たってもなお、勢いを緩めなかった。
「爆ッ!」
山王が右手を閉じる。
星也が放出した圧縮された空気の塊が、暴風となってコンテナを打ち上げた。
カラクリの倍近くまで高く空を舞った鉄の箱は、クルクルと回転しながら海面に着水する。
白い飛沫が派手に立ち上った。
「凄ぇ~……」
「お兄様……今のは?」
光一郎が感嘆の声を上げ、すばるが呆然としながら兄に尋ねる。
星也は額から汗を滴らせながら笑顔を浮かべた。
「柏陵院さんの真似さ。四式『爆熱炎』をアレンジさせて貰った。上手くいって良かったよ」
なんとか死地を脱し、安堵の息を吐く星也。
だが、一向に人心地つく余裕も与えず、敵機が揃って姿を現した。
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