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022 山中の戦い


 昴星学園と日神学園の共同合宿は、二日目を迎えた。


 午前中は昨日に引き続き、各校の部員同士で分かれて練習が行われた。

 食堂で昼食を摂った後、早速予定されていた試合をする運びとなる。


「よっしゃ、まずはうちらの試合からやな! よろしゅうな、柏陵院さん!」


 蓮華が右手をスッと差し出し、夏姫はそれを握って腕を軽く振った。

 両者が各々の機体に乗り込んでいく。


「さて……やるか」


 ファイターの搭乗席に座った夏姫は、操縦桿を握りしめた。

 魔力を魔導炉に注ぎ込み、鉄の巨人に活力を漲らせる。

 武器コンテナからジャイアントソードを抜き放ち、準備を完了させた。


「それでは、試合を開始いたしますわ」


 日神花子のアナウンスの後、全周モニターが黒に染まった。

 カウントダウンが始まる。



 3、2、1―― Fight!



 コクピット内の視界が開ける。

 ファイターは杉の木が鬱蒼と生い茂る山の中に佇んでいた。

 殆どの木が樹高10メートルを超えており、夏姫の乗るカラクリより背が高い。


(山間のステージか。ティーガーⅡは通常のカラクリよりも頭が低い。隠密性ならあちらの方が優位だな)


 試合のステージはランダムで抽選される。

 有利な地形、天候を引けるかは運次第だ。


(雨じゃない分マシだな。火の魔術の効果が薄くなるから、雨は苦手だ)


 夏姫はジャイアントソードの切っ先を地面に突き立て、暫し瞑目する。

 コクピットの収音装置に耳を澄ませるが、ティーガーⅡの駆動音は聞こえてこない。


(さて……この深い山中で、どう敵を発見するか。大戦下では、カラクリに乗れない魔術師が合同で大規模探知魔術を使い、その結果を探知機に送信してきていた……だが、私には不可能だ。探知魔術は空気の揺れから敵機の位置を測る風の魔術、大地の揺れから敵影を捕捉する土の魔術が代表的だ。火の属性しかまともに扱えない私では、この緑の森に潜む鉄の獣の位置を知ることは難しい)


 夏姫は暫く思考を巡らせた後、機体を動かし始めた。

 剣を手に携え、山の斜面を上る。


(上條蓮華の魔力属性は分からない。もし彼女が探知魔術を使え、こちらの位置を正確に把握できるのならば、奇襲は容易だろう。こんなに木が密集している所に居ては、なおさらにな)


 ファイターを走らせていると、木々が途切れ開けた空間に出た。


(ここで待ち構えるか)


 夏姫はファイターの足を止めて周囲を見回す。

 50メートルほどに渡って樹が生えておらず、視界が確保された空間。

 ティーガーⅡの姿は、見当たらない。

 ファイターの駆動音以外に、目立った物音もしなかった。


 中天の太陽を背に、二羽のとんびが旋回して飛んでいる。

 ヒョロロロロと独特な鳴き声が小さく耳に届いた。


(……来ないな。上條さんも探知魔術を使えないのか? ならば、いっそ呼び寄せてみるか)


 夏姫はファイターの左手に魔力を集めた。

 手のひらに炎を生み出し――


「ッ、とっ!」


 夏姫は咄嗟にファイターを前方向へ跳ばした。

 それとほぼ同時に、ガチンという金属音が鳴り響く。

 

 夏姫が機体を振り返らせると、先ほどまでファイターが立っていた位置にティーガーⅡの大きな(あぎと)があった。

 金属音は、獣の武器である鋭い牙をかち合わせた音だ。


「不意打ち失敗かぁー。最高のタイミングやと思ったんやけどなぁ」


 装甲を緑色に染めたティーガーⅡの外部スピーカーから、蓮華の関西弁が聞こえてくる。

 夏姫はジャイアントソードを両手で構え、鉄の獣と対峙した。


「駆動音が全くしなかった。風の魔術を使ったのか?」


「せやで。機体の周りを空気の膜で覆って、音の振動をシャットアウトさせる防音魔術や」


「高度な魔術を使えるんだな、上條さん。それなら、もちろん探知魔術も使っていたってことか」


「まぁねー。ずーっと、柏陵院さんの後をつけさせてもろっとったで」


 蓮華はティーガーⅡの口をガキンガキンと開閉させる。


「うち、ずーっとずーっと、機が熟すまで柏陵院さんを見張っとったんや。そんで、何か魔術使おうとした瞬間に襲い掛かった。魔術使う時は意識がそっちに逸れるもんやし、好機や思ったんや。でも、自分はうちの噛み付きを寸でのとこで避けた……どうやって攻撃を察知したんや?」


 蓮華に問われ、夏姫は率直に答える。


「殺気だ」


「サッキ? 殺気、ってそんな感覚的なモンで反応したっちゅうんか?」


「理屈を語ろうと思えば語れるが……後ろにカラクリが迫ってきているんだ、音は消せていても私のカラクリにまで届く空気の流れる音や、地面の揺れによるモニターの僅かなブレまでは消せないだろう。そのちょっとした違和感が、本能で機体を突き動かした。だから、私はキミの攻撃を回避できたんだ」


「マジかいな……どこの達人やねん。時代劇の剣豪ちゃうんやで、ホンマ」


 ニヒヒ、と蓮華の楽しそうな声がスピーカーから漏れ出る。


「よっしゃ、こっからは小細工はなしや。楽しくりあおうや!」


 姿勢を低くした鉄の獣が、ファイターに襲い掛かる。

 夏姫は機体を横にステップさせて突進を躱し、剣を振った。

 だが、ティーガーⅡはそのままの勢いでまっすぐに森の木立ちの間に突っ込んでいき、その姿を消してしまう。


「おいおい、小細工は無しじゃなかったのか?」


 緑の薄暗闇に潜んだ巨獣は、音を殺し完全に気配を殺した。

 夏姫は口の端を軽く持ち上げて笑う。


 竹を割ったような性格とは裏腹に、上條蓮華はクレバーな戦法を得意としているようだった。

 

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