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021 ファイター

 

 夏姫の操るファイターがジャイアントソードを上段に構え、勢いよく振り下ろした。

 次いで、切り上げ、袈裟斬り、横一文字と虚空に向かって斬撃を繰り出していく。


(ジャイアントソードの刀身は約6メートル。ヤマ帝国が採用していた魔導兵装大太刀の刀身は8メートル以上あり、もっと刃が厚かった。目測を見誤らないように注意しなくては)


 夏姫は今一度剣を振るった後、星也の乗る山王の方へ向き直った。


「待たせた。それでは、始めようか」


「うん、キミとは一度手合わせしてみたかったんだ。よろしくお願いするよ」


 両者の機体が重心を下げ、それぞれの獲物を構える。

 2体のカラクリの間に立っていたすばるのフロッグマンGが、細長い腕を天にかざした。

 

 仮想空間に強い風が吹く。

 草原にザァという音が響き渡り、細長い緑の草を舞い散らせて行った。


「それでは――始めッ!」


 フロッグマンの腕が振り下ろされる。

 同時に夏姫のファイターが走り出し、山王がアサルトライフルをフルオートで撃ち放した。


「魔導装甲、強化!」


 夏姫はファイターの魔導炉に魔力を注ぎ込み、装甲の強度を上げた。

 星也の放った弾丸が、夏姫の機体に当たって派手に火花を散らす。


(射撃が上手い! 偏差射撃も完璧か、ならば――)


 夏姫は走る方向を急転換し、ジグザグに移動を始めた。

 星也の射撃がこちらを正確に捉え始めたら方向を変え、被弾箇所を集中させないように努める。


「火術一式『焔』」


 ファイターの左手の上に炎が生まれる。

 魔力を込め、その炎を大きく燃焼させて育て上げる。


「三式『火炎弾』!」


 燃え盛る炎を一纏まりに固め、山王に向けて放つ――直前に、夏姫の機体が突風で煽られた。


「その攻撃は読んでいたよ、柏陵院さん!」


 星也が風の魔術『空圧波』を放っていた。

 軽装甲のファイターではふんばりが効かず、夏姫の機体がわずかに宙に浮く。

 その隙を見逃さず、山王はアサルトライフルをフルオート連射した。


「四式『爆熱炎』!」


 夏姫は左手の火球を地面に向けて、爆発させた。

 その衝撃でファイターが横に吹っ飛ぶ。

 星也が撃った銃弾は空を突っ切るだけに終わった。


「空中で無理矢理軌道を変えるなんて!?」


 星也は驚きの声を上げながら、銃口の先をファイターに向ける。

 ファイターは地面を転がりながらも滑らかに立ち上がり、すぐさま山王との距離を詰めた。


「オオオッ!」


 夏姫は気合を込め、ジャイアントソードを横払いに一閃する。

 その斬撃を、山王は後ろに大きく跳んで回避した。

 

「――ッ!」


 攻撃を躱された夏姫は、すぐにファイターの姿勢を低くする。

 山王の右手が、魔力反応で強く光輝いているのが見えたからだ。


「食らえッ!」


 空中に浮いたまま山王の右手が突き出され、魔導レーザーが放射される。

 夏姫の駆るファイターは前のめりに倒れ込んで、その攻撃を回避した。


「ラアアアアアッ!」


 ファイターが地面に片手を付き、地面を転がる。

 一回転し、足が地面に着いた瞬間に、大地を勢いよく蹴った。

 鉄の巨躯が、ミサイルのように山王に突っ込む。


「あっ――」


 刺突。

 ジャイアントソードが山王の胸部に突き刺さり、切っ先がコクピットを強く揺らした。

 山王の装甲から、色が失われる。


「そこまで! 勝者、夏姫先輩!」


 すばるがフロッグマンGの腕を振りかざし、夏姫の勝利を宣言した。

 地面に倒れ込んでいたファイターが立ち上がり、山王の装甲に刺さったままの剣を抜く。


「参った。やっぱり強いな、柏陵院さんは」


 モニターの隅にワイプが表示され、星也の顔が映し出される。

 彼は晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。


「銀城君も強かったよ。少なくとも、今までの試合で戦ってきた相手の誰よりも強かった」


「ははっ、そう言って貰えると、ちょっとは自信が付くよ」


 夏姫は目を閉じ、背もたれに上半身を預けた。

 魔力の消費で失われた体力を回復するように、身体を弛緩させる。


(やはり機動力の高い機体はいいな。どんな状況でも素早く対応できる汎用性がある)


 ファイターの右手の開閉を繰り返し、それからギュッと握りしめる。

 夏姫はこの機体の性能に大きな満足感を抱いていた。



 ※  ※  ※



 合宿初日の練習が終わった。


 夏姫たちは食事の前に、日神学園の運動部の為に設けられた浴場で汗を流す事になった。

 シャワーで手早く身体を洗い、湯船に入る。

 20名以上は余裕をもって同時に入浴可能な、大きな風呂だった。


「ふー……」


 少しぬるめの湯に肩まで浸かり、息を吹き出す。

 疲れた身体に風呂というのは格別なものだ。

 力を抜き、骨の髄まで染み入るような優しい温かさに身を委ねる。


「おー、柏陵院さん。ここにおったかぁ」


 ジャブジャブと湯船の中を歩き、蓮華が夏姫の傍までやってきた。

 夏姫の隣に座り、湯に身体を浸す。


「やー、気持ちええなぁ。やっぱ風呂は広いのが一番や。家の風呂じゃ、ノビノビ足伸ばせんもんなぁ」


「……そうだな」


 夏姫は少し考えてから首肯する。

 日神学園は昴星学園と同じく、富裕層の子どもが多く通っている。

 風呂で足を伸ばせないくらいの規模の家に住んでいる生徒の方が、恐らく少ないだろう。


(まぁ、実家を追い出されてアパートに住んでいる私も同じ境遇だ。詮索するのも野暮というものだろう)


 夏姫が思考を巡らせていると、蓮華は次の話題に移った。


「な、ファイターの使い心地はどないや? もう慣れたか?」


「ああ、大分慣れたよ。アレは良い機体だ。力強さは烈火に劣るが、その分機動力があっていい。気に入ったよ」


「ほほー、これは明日の試合が楽しみやな」


 ニィーと楽しそうに蓮華は笑う。


「柏陵院さん、自分実はネットで結構話題になっとるねんで。知っとった?」


「ネットで?」


 夏姫は首を傾げた。


「高校MBF関連の事を書き込む掲示板があるんやけど、そこの個人戦ランキングスレで有名になっとるんや。新参校の無名の選手が、連戦連勝でランキングを上り詰めとるってな。実際に戦ったっちゅう選手からの書き込みもあって、『すぐにやられてしまった』『多彩な火の魔術を使って、翻弄されるうちに仕留められた』『強すぎぃ!』とか色々言われとったで」


「へぇ……掲示板ね。そんなのもあるんだな」


 志島秋生はインターネットの無い時代に生まれた。

 それ故か、交流を深めるだとか情報を求めるだとか、そういう目的でネットを使おうという意識が薄い。

 元々、夏姫自身もネットを余り利用していなかった点も大きいだろう。

 彼女はSNSでやり取りをするような友人を持たず、知識を得るならまずは書物を頼っていた。


「高校野球ほどやないけど、MBFは派手なスポーツやさかい観客は仰山集まるで。自分はマージギア乗れへんけど、観戦するのは好きっちゅう人もいっぱいおる。プロのMBFでは賭け(ブック)もあるし、高校MBFの頃から選手に注目する大人も多いんやで」


 一通り喋り終えてから、蓮華は大きく伸びをした。

 首を左右に動かして関節を鳴らし、ザバッと立ち上がる。


「ほんじゃ、うちはもう上がるわ。明日の試合、楽しみにしとるで。勝って、不敗神話を止めたったって掲示板に書き込むんや」


 ニヒヒ、と無邪気に笑って蓮華は浴場を後にする。

 夏姫は湯船の縁に後頭部を当て、高い天井を仰ぎ見た。


()はもう、一度負けているけどな……」


 その小さな声は、誰にも届かず風呂の湯気と共に消えた。

 

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