020 訓練
夏姫と光一郎の慣らし運転が終わった後、昴星学園のメンバーは二手に分かれて訓練に移った。
「光一郎、己の魔力を全力で魔導炉に注ぎ込め! 生まれた過剰エネルギーを脚部に集中!」
「ッ……おおッ!」
光一郎の乗るティーガーⅡが姿勢を低くする。
曲げた脚部の関節部が、ミシミシと異音を鳴らすほど負荷が掛けられた。
「よしッ、跳べ!」
「うるぁああああッ!」
夏姫の合図でティーガーⅡが跳躍する。
鉄の巨獣はその身体を20メートル超の高みまで舞い上がらせた。
そして、ネコのような身のこなしで軽やかに着地する。
「よし、大分良くなってきたな。それが魔力による強化だ」
「ハァ……メチャクチャ疲れる。汗がダラダラ噴き出してくるぞ、これ」
「魔力は己の活力だからな、消費すればその分疲れるのも道理だろう」
モニターの隅に表示されたワイプの中で、光一郎は額に浮かんだ汗を手の甲で拭っていた。
呼吸が荒く、目が虚ろだ。
慣れない魔力の使用で、疲労が目に見えて表れ始めていた。
「光一郎、休憩だ。ビーストシリーズは乗っているだけでも魔力を吸い上げていく。魔導炉を停止させて、シミュレータを切れ」
「了解……いや、ホントもう無理だ」
光一郎が通信を入れた後、ティーガーⅡの姿が夏姫の目の前で消えた。
仮想世界からログアウトしたのだ。
「さて……すばるの様子も見ておくか」
夏姫は離れた場所で練習を行っている銀城兄妹の方へ足を向けた。
二人は移動射撃の訓練中だった。
シミュレータで生み出したダミーのカラクリに向けて、ライフルを撃ち込みながら走っている。
(星也の方は命中精度も良好、走りも淀みない。それに比べると、すばるの射撃はブレているな。走らせることに意識を集中させ過ぎているようだ。止まっている相手にさえ弾を当てられないようでは、実戦は厳しい)
夏姫の駆るファイターが両機に近寄って行くと、二人が足を止めた。
モニターに星也の顔がワイプで表示される。
「お疲れ様、柏陵院さん。そっちは訓練終了かい?」
「光一郎がグロッキーでな……今日はもうカラクリを動かせないかもしれない」
「いやー、運転初日であれだけ動かしたら当たり前な気がしますけど」
すばるが苦笑している。
夏姫はそんなものかと考えを改めた。
どうも自分は戦時中のカラクリ乗りの基準に合わせて物を考え過ぎている嫌いがある。
「柏陵院さん、何か俺たちにアドバイスはあるかな?」
星也に問われ、夏姫はウンと頷いた。
「銀城君に対しては、特に言う事はない。すばるは足に意識を集中させ過ぎだな。アサルトライフルの銃撃は当て続けることで効果を発揮する。射撃を正確にな」
「うー……難しいです。射撃しながら、走らせて、更には魔力放射装置に魔力を充填させて……意識がバラバラになりそうですよ」
頭を抱えるすばるに、星也が微笑を浮かべアドバイスを送る。
「マージギアの操作は、普段自分の身体を動かしている事の延長だよ。すばるは一つ一つに意識を割きすぎじゃないかな」
「んんー……精進します」
すばるはフロッグマンGの手を開閉させながら、いまいち要領を得ない顔で兄に返事をした。
夏姫はすばるの機体の傍に寄る。
「すばる、まずは止まったまま射撃してみるんだ」
「え……? わ、分かりました」
すばるがダミー人形に向けてフルオートで射撃した。
銃弾が相手の胸部装甲にガンガンと当たる。
「ストップ」
夏姫がすばるを制止する。
「止まっていてもなお、弾がバラけている。魔導装甲を打ち抜くには、一点に銃弾を集中させなければならない。バラバラの箇所を狙っていたら、防御の為の魔力が再び装甲に充填されてしまうからな。魔導装甲の魔力を散らして貫通させるためには、一点集中だ」
「はい!」
すばるが再び射撃を開始する。
今度は相手の胸部装甲、その左の部分に銃弾が集まるようになる。
「よし、いいぞ。脇と腕を固定させて、一点に銃弾を集めるんだ。射撃の反動もカラクリの膂力なら無効化できる」
「了解です!」
草原にアサルトライフルの火を噴く音が響き渡る。
すばるの放った弾は正確に一点を集中するようになった。
「次は、移動射撃だ。試合では相手もアサルトライフルを持っているケースが多い。立ち止まって撃っていては、逆に銃弾を一点集中されてすぐに貫通されてしまうからな」
「はい、夏姫先輩!」
すばるの駆るフロッグマンGが、その細長い足を動かし始める。
安定して放たれていた弾丸が、ダミー人形から外れて空を切り出した。
「相手の周囲を回るように移動しながら、腰を動かして射撃するんだ。脇と腕は動かすな!」
「はい!」
地響きを立てながらフロッグマンは移動射撃を続ける。
その銃弾が人形の胸部装甲に集中し始める。
「良い調子だ。慣れてきたら、頭部や腕部、脚部などの部位破壊狙いで銃弾を集中させる箇所を変えてみるといい。基本的にコクピットのある胸部の装甲は厚く設計されているからな。薄いところから破壊するのも立派な戦法だ」
「やってみます!」
すばるは元気よく答え、狙う箇所を変えて銃弾を撃ち続けた。
夏姫のファイターの近くに、星也の乗る山王が近寄る。
「なかなか堂に入った指導をするね、柏陵院さん。射撃は苦手って言ってなかったかい?」
星也に言われ、夏姫はフッと笑った。
「厳しい教官に仕込まれたからな。耳にタコができるくらい怒鳴られたから、教えるくらいなら出来るさ」
「前に話していた、旧ヤマ軍の老兵のことかな? 随分と貴重な経験をしたんだね」
志島秋生に射撃の心得を叩き込んだのは、士官学校の教導官だった。
あの頃は練習用の銃弾も貴重な物資であったため、訓練で数発外すだけで殴り飛ばされたものだ。
「柏陵院さん」
星也が声を掛け、過去に思いを馳せていた夏姫は我に返った。
モニターのワイプを見ると、星也が真剣な顔でこちらを見つめていた。
「なんだ、銀城君?」
「一度、俺と本気の試合をして欲しい」
星也の瞳に、熱気が満ちていた。
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