018 克服
「うおおおおっ! スゲェ! 思ったように動く、走る、跳べる! スッゲェー!」
蓮華の持つタブレットから光一郎の楽し気な声が聞こえてくる。
液晶画面には、平原ステージの中を激しく動き回るティーガーⅡの姿があった。
「……彼、ホンマにカラクリ乗ったん初めて? メッチャ器用に動かしよるけど」
蓮華は驚き半分、呆れ半分といった表情で隣に居る夏姫に尋ねた。
夏姫はフッと軽く笑いながら頷く。
「ああ、これが正真正銘、初めての搭乗だ。はしゃぐのも無理はないだろう」
志島も士官学校で教練用のカラクリに初めて乗った時は、歓喜に打ち震えたものだった。
もし自由に動かして良かったのなら、今の光一郎のようにはしゃぎ回っていたかもしれない。
指導官の前でそんな事をしようものなら、折檻の末に懲罰房送りだっただろうが。
蓮華はフーンと生返事をし、画面を見遣る。
「凄いやん……ティーガーⅡに魔力吸われて、なおもこれだけ動けるなんて」
「元々秘められた魔力のポテンシャルは目を見張るものがあったからな。今日この場で光一郎の才能が目覚めた事が、この合宿で一番の収穫になるかもしれないな」
「いやいや、共同合宿はまだ始まったばかりやで」
蓮華はカラカラと楽しそうに笑った。
それから、タブレットで光一郎に通信を送る。
「あー、あー。清田くん、聞こえるかー? そろそろシミュレータ終わらすでぇー」
《おー、分かった。いやー、スゲェ楽しいな、マージギアに乗るのは!》
「楽しんでいただけたようで何よりや」
ティーガーⅡの魔導炉が止まり、茶色に染まっていた装甲がサッと白くなっていく。
ハッチが開き、光一郎が階段を降りてきた。
「おめでとう。よくやったな、光一郎」
夏姫が声を掛けると、光一郎は白い歯を見せて快活な表情を作った。
「ああ、サンキューお嬢様。魔力を送り込むコツ、ばっちり掴んだぜ」
夏姫は少年の姿を眩しそうに目を細めて眺める。
最近の彼女は、若人が成長する姿に喜びを感じるようになっていた。
すばるもそうだが、やはり後進が伸びていく様は見ていて気持ちが良いものだ。
(部隊に新人が来る度に、青い尻を拭ってやったっけな……)
光一郎の姿が、ダブついた軍服を着た年少の兵士と重なった。
過去を振り返りそうになって、夏姫は慌て頭を振る。
(いかんいかん……最近の私は懐古的に過ぎるな。夏姫として生きると決めたのだから、あまり過去は振り返らず前を見よう)
夏姫は光一郎を連れ、格納庫の入り口の方へ移動した。
既にすばるも機体を選び終えていたらしく、兄妹揃って二人が来るのを待っていた。
「光一郎!」
星也は近づいてきた光一郎に向け、四角い物体を投げ渡した。
光一郎がパシリと片手で受け取ったそれは、お馴染みの魔導試験箱である。
だが、箱を前にした光一郎の顔は、いつもの辟易とした表情を浮かべていなかった。
不敵に笑い、少年は手に乗せた魔導試験箱に魔力を込める。
白かった箱の色が、瞬時に茶色に染まった。
「へへっ、楽勝」
「うわあ、本当に魔力扱えるようになったんですね! おめでとうございます、光一郎先輩!」
「光一郎の魔力属性は、土の相が強く出ているな。単一属性か」
すばるはパチパチと拍手をし、星也は箱を眺めて分析する。
光一郎は自慢げに鼻の下を指で擦っていた。
「えー、皆様よろしいでしょうか」
昴星のメンバーが喜びを分かち合っていると、日神花子がパンと両手を合わせ注目を集めた。
「皆様の搭乗するマージギアも無事決まったところで、早速共同練習などを――」
「待ったぁ!」
今後の予定を説明しようとした花子を、蓮華が遮った。
花子の細い眉がピクリと動く。
「蓮華さん、何か?」
「折角実力未知数の相手やのに、共同練習なんぞして手の内見えたら興醒めやんか。まずは試合しよーや、試合」
「貴女はまたいつも勝手な事を……共同合宿は両校の成長を育むための――」
「なぁー、柏陵院さんからも言ってやってやぁ。試合前に余計な情報仕入れたらつまらんやんって、なぁ」
蓮華の催促に、夏姫はふむと頷く。
「いいんじゃないか? 試合は前情報無しで行われるのが常だ。共同練習中に対戦相手の事が気になって、集中が途切れてもいけないしな」
「ええ事いうわー。部長、お客さんもこう言うとるで」
花子はぐぬぬと唸ったあと、一つ溜息を吐いた。
「分かりましたわ……では、共同練習より先に試合を行いましょう」
「個人戦を望んどるのは、うちと柏陵院さんだけやな。後は3対3の団体戦でええんちゃうか? うちの愛機のティーガーⅡは清田くんが乗るみたいやから、うち団体戦に出られへんし」
「あ? 俺も試合に出るのか?」
己の名前が出て来て、光一郎は面食らう。
あぁ、と蓮華は顎先に指を当てた。
「そういえば、清田くんは初心者やったな。それに、柏陵院さんもいつもと違う機体やし……今日と明日の午前中くらいは、各校で別れて慣らし練習するのがええかもな」
「ふむ……私としてはそれで構わないが」
夏姫はチラリと星也に視線を送る。
部長である彼に決断を委ねたのである。
星也はコクリと頷き、流れを承諾した。
「うん、ではそのように行動しよう。試合を楽しみにしているよ」
昴星学園のメンバーが固まり、移動していく。
蓮華は自分の狙い通りに事が運んだことに、満足げに笑顔を浮かべていた。
「あの……日神学園MBF部の部長は私ですのよ……」
「仕方ありませんよ、部長。我が校のエースのワガママは、今に始まった事じゃないでしょう……」
勝手に場を仕切られてうなだれる花子。
その肩に、女子部員が気の毒そうな表情を浮かべながら手を置いた。
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