016 十のカラクリ
白田の運転するワゴンは高速道路を走り、パーキングエリアで休憩を挟みつつ、午後一時を少し回った頃に目的地に到着した。
日神学園は昴星学園と同じく、有力者の子どもの受け入れに尽力した学校である。
東の有力者は子を昴星学園に通わせ、西の有力者は子を日神学園へ入学させる。
それが富裕層の一種のステータスとなっていた。
「お待ちしておりましたわ、昴星学園MBF部の皆様」
来賓用の駐車場に車を駐め、外に出ると一人の少女が一行を出迎えた。
長い巻き毛の髪、切れ長な瞳に整った顔立ち、美しい少女だった。
彼女はスカートの裾を摘まみ、優美なお辞儀をする。
「あ、花子姉様! こんにちは、今日からお世話になります!」
すばるが少女の元に駆け寄り、ペコリと頭を下げた。
花子は顔を顰め、すばるの両肩に手を置く。
「すーちゃん、名前を呼ぶのはおよしになって。私を呼ぶときはせめて――」
「はー姉様だよね、了解!」
すばるはピッと額に手を当てて、にこやかに笑う。
夏姫は彼女たちのやり取りを遠巻きで眺めつつ、星也に尋ねる。
「彼女は?」
「日神花子、俺とすばるの従姉妹で、日神学園MBF部の部長でもある」
「あぁ、星也様まで私の名前を!」
花子は夏姫たちの元に近寄り、胸に手を当てた。
「私はこの学園の理事長、日神地信の孫であり、MBF部の部長、日神ですわ。名前は覚えてもらわなくて結構です!」
妙なところで力説する花子に、夏姫は首を傾げる。
「何故名前を覚えなくていいんだ?」
夏姫に問われ、花子は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「嫌いなんですの。高貴な私の名前に相応しくありませんわ、花子なんて古臭い名前」
「ん? 子は一から了りまでを表す。芽生え、花開き、美を飾り、そして名残惜しまれつつ散る。普遍的だが、美しい人の一生を例えた良い名前だと思うが」
夏姫が率直な感想を述べる。
志島秋生が生きた時代、花や花子といった名前の女性が多く居た。
志島の通った小等学校や中等学校のクラスにも、必ず一人はその名の少女が在籍していたものだ。
だから、それを恥に思う感覚が今の夏姫には理解できなかった。
「あ……ありがとうございます。私、生まれて初めて人に名前を褒められましたわ」
花子は頬を薄紅色に染め、俯いた。
それから、上目づかいで尋ねる。
「えーと、お名前をお聞きしても?」
「柏陵院夏姫だ、よろしく頼む」
「ああ、貴女が蓮華さんの仰っていた全戦全勝中の……改めて、よろしくお願いします」
花子が手を差し出し、夏姫は握手でそれに応えた。
「さて、それでは皆様。MBF部の格納庫にご案内致します。着いてきてくださいませ」
花子が背を向け、一行を先導する。
日神学園の敷地は昴星学園と同等に広く、第二グラウンド傍の格納庫に辿り着くまで10分弱の時間を要した。
格納庫の戸を抜けると、ずらりと並んだカラクリが一行を出迎えた。
「うおーっ、さすがにこの巨体が並んでると迫力あんなぁ!」
「壮観ですねぇ」
光一郎が目を輝かせて驚嘆し、すばるは頬に手を当てて見惚れるようにカラクリを見回した。
花子がパンパンと手を打ち鳴らす。
「全員、集合! お客様が見えられましたわよ!」
彼女の号令に、各自の乗るカラクリの前に散っていた日神学園の生徒達が集まってきた。
男女比は半々程だろうか。
男女の肉体的優劣の格差がなく、己の魔力と機体操作が物を言うMBFは、他のスポーツと比べ男女比の偏りが少ない。
集まった日神学園の部員の前で、昴星学園の面々は軽い自己紹介を行った。
立ち位置的に一番最後になった夏姫の自己紹介の後、一人の少女が部員の中から一歩進み出た。
「おー、アンタが柏陵院さんかぁ。うち、上條蓮華や。よろしゅうに」
ショートの髪、色黒の肌の活発そうな雰囲気の少女――蓮華は笑顔を作り、右手を差し出した。
夏姫はその手を握り、軽く振る。
「個人戦ランキング5位、上條さん。話は聞いているよ、試合を楽しみにしてる」
「うちも楽しみや。全戦全勝ちゅうことは、未だにその実力は未知数ってことやろ? ワクワクすんなぁ」
ニヒヒ、と心底楽しそうに笑い、蓮華は離れていった。
両者の挨拶を見届けた後、花子が昴星学園のメンバーの前に立った。
「これから皆様には、今合宿中に乗るマージギアを選んでいただきたいと思います。我が校は近距離が得意な機体、遠距離に特化した機体、オールラウンダーな機体と様々なタイプのマージギアを揃えていますわ。我が校の10の機体の中から、好きにお選びください」
花子は右腕を広げ、後ろへ下がる。
すばるや光一郎がキョロキョロと視線を彷徨わせる中、星也はすっと指を立てた。
「俺の乗る機体は決まっているよ。山王だ」
ピッとお馴染みの山王に向けて指を差す星也。
花子は口元に手を当て、顔を綻ばせた。
「フフフ、星也様はやはり山王一筋なのですね。山王はとても使いやすい機体、我が校でも、もちろん導入させていただいておりますわ」
機体を選び終えた星也の横で、夏姫は改めて立ち並ぶマージギアを確認した。
「烈火は……ないか」
「烈火? 烈火というと、近距離戦に特化した機体ですわね。意外ですわ、山王で連戦連勝を挙げている柏陵院さんが近距離戦型の機体を探すなんて」
夏姫の一人言に、花子が反応した。
ウンと頷き、夏姫は事も無げ言う。
「私は元々近距離戦が得意なんだ。山王に乗っていたのは、部にあの機体しかなかったからに過ぎないよ」
「まぁ……それでは、100%の力を発揮せずに、今まで全勝してこられましたの! 素晴らしいですわ。マージギアには相性もありますし、不利な組み合わせなら格下相手でも苦戦しますのに……」
感嘆したように花子は吐息を漏らす。
そして、「それなら」と一機のカラクリの方へ足を進めた。
「柏陵院さん、こちらのマージギアはいかがでしょう。近距離戦特化型の機体でございますわ」
「エイリスの『ファイター』か……」
夏姫の視線の先には、フルフェイスのヘルメットを被ったようなヘッドパーツが特徴的な、軽装甲のカラクリが立っていた。
エイリスの第三世代機『ファイター』。
特に機動力に優れ、相手との間合いを一気に詰められるカラクリである。
夏姫はファイターに向けて手のひらを向けた。
そこから感じ取れる微量の魔力の圧を確かめるようにひらひらと手を揺らし、口の端を上げる。
「うん、決めた。私はコイツに乗る」
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