014 連休の予定
「おめでとうございます!」
山王のコクピットから降りてきた夏姫に対し、すばるがにこやかに祝いの言葉を口にした。
夏姫は首を傾げる。
「どうかしたのか、すばる?」
「先ほどの試合の勝利で、烈火を導入する為のポイントが貯まり終わりましたよ!」
「25万ポイント、ついに貯まったのか」
夏姫の顔に自然と笑みが浮かぶ。
タブレットを操作しながら、星也が彼女の元に寄って来た。
「柏陵院さんは入部の日から、試合が行える平日は毎日試合を行い、ずっと勝利を重ねてきたからね。個人戦ランキングでは既に200位内に入り、勝利で得られるポイントは一回で9000を上回るようになった。目覚ましい躍進だ」
星也がタブレットを夏姫に手渡す。
液晶画面には、柏陵院夏姫の名前が184位に刻まれたランキング表が映し出されていた。
「ちなみに、お兄様は247位に居ますよ。ホラ、ここです」
すばるが夏姫の傍に寄り、隣りからタブレットを指で操作した。
ランキング表が下にスライドされ、銀城星也の名前が表示される。
「お兄様はランキング戦に参加してから、二度敗北したのでこの順位です。とても惜しい試合でした」
「機動力に特化したマージギアに、魔術や魔力放射装置のレーザーを掻い潜られてしまうと成す術が無くなってしまう。山王のような遠距離型のマージギアは、元々集団戦でこそ輝く機体だから――というのは、言い訳だろうね」
言って、星也は夏姫の方を見る。
すばるは兄の視線の意味を理解し、頬に手を当てた。
「夏姫先輩はどんなマージギア相手であろうと、魔術で翻弄し、一撃必殺の魔導レーザーで勝負を決めちゃいますからねぇ。あんなに魔術を巧みに使う高校生、先輩くらいしか思いつきませんよ」
「ああ、正直同年代とは思えない魔術の使い手だ……」
星也はフムと何事かを考えた後、夏姫に尋ねた。
「柏陵院さん、一つ聞きたいんだが、君は誰にその魔術を習ったんだい?」
「誰に……か」
夏姫は後ろ髪を掻き上げ、視線を虚空に彷徨わせた。
本当の事を言う訳にもいくまい。
だが、完全な嘘をつくのも気が引けた。
「あー……呑界大戦に参加した老人に、少しな」
夏姫は言いにくそうに言葉を濁したが、すばるはその内容に食い付いた。
「大戦期のご老人! じゃあ、先輩が使っている魔術は旧ヤマ軍の使用していた魔術なんですか!?」
「まぁ、そういう事だ」
「それは凄い。そういえば、柏陵院さんは一式だとか二式だとか、魔術を使い分けていたね。その辺り、レクチャーして貰いたいな」
星也が腕を差し伸ばし、続きを促す。
すばるは期待に満ちた目で夏姫を見ていた。
ふぅと小さく息を吐き、夏姫は観念したように小さく頭を振った。
「それじゃあまずは……火術一式『焔』」
夏姫が顔の高さ辺りにまで上げた手のひらの上に、炎が生まれる。
ゴウゴウと燃え盛る炎は、徐々に大きくなっていく。
「一式は基礎中の基礎だ。手のひらの上に炎を生み出し、魔力を込めて強大にする。術式は一式から始まり、そこから派生する。大きく育った炎を二式『火炎流』でそのまま撒き散したり、三式『火炎弾』で火球にして放ったりな」
夏姫は右手をぎゅっと握りしめ、炎を掻き消した。
すばるは関心したように両手を合わせる。
「魔術を派生させてパターンを変えていくんですかぁ。確か、四式の『爆熱炎』で火炎弾を爆発させた事もありましたよね。一度放った魔術に更に魔力を込めて違う術式を発動させる……やっぱり、凄いですねぇ先輩は」
「ふむ……一式で強化し、二式でそのまま撒き散らすか、三式で固めて放つ。そして四式で爆発させるか。俺の風にも応用できるか……?」
星也は夏姫の話を聞き、顎先に手を当てて考え込み始めた。
すばるはそんな兄の姿を見て、半眼になる。
「あちゃー……お兄様、思考モードに入っちゃった。夏姫先輩、こうなるとお兄様、動かなくなっちゃうので部室に行きましょうか」
「ん? ああ、分かった」
夏姫はすばるに連れられ、ドックの隅に建築されたプレハブ小屋に入った。
部屋の中には、光一郎と白田の姿がある。
光一郎はパイプ椅子に座り、魔導試験箱を手に乗せて集中していた。
白田の方はパソコンで何かの書類を作っているようだった。
「……だぁああああ! クソッ、出来ねぇっ!」
光一郎が机に突っ伏す。
その手に持った魔導試験箱は、未だに白いままだった。
「光一郎先輩、まだ魔力を感じられないんですか? 結構ぶきっちょなんですねぇ……」
「うるせぇよ、すばる! 魔力なんて言われても分かるかッ!? 丹田に意識を集中させろだの、エネルギーが体内を巡ってるだの、抽象的な事ばかり言いやがって! もう三日、この箱持って唸ってるだけだぞ、俺!」
苛立ち、荒れている光一郎。
白田はキーボードを叩いていた指を止め、キャスター付きの椅子をずらして夏姫たちの方へ身体を向けた。
「清田さんは魔力自体はかなり高いポテンシャルを持っているようなのですが、それを感じ取るのが苦手なようです。こういった事例は少ないのですが、過去に記録されてはいますね。その事例の人物は、魔力的な強い衝撃を受けた後、魔導に覚醒したとあります」
「つまり、魔術でぶっ飛ばせば光一郎先輩覚醒! ってことですか?」
両手をわきわきと動かし、光一郎ににじり寄るすばる。
光一郎は壁際までパイプ椅子を引いて後退した。
「バカヤロー、記憶喪失のショック療法じゃねぇんだぞ! ぶっ飛ばされてたまるか!」
「冗談ですよー、冗談」
ニヘヘヘと悪い笑みを漏らした後、すばるは白田に向き直った。
「白田さん。先ほどの夏姫先輩の試合での勝利で、烈火導入分のポイントが貯まりました。手続きをよろしくお願いします」
「ああ、おめでとうございます。導入準備をしておきますね。」
白田はパソコンを操作し、事務手続きを進めていく。
そして、壁に掛けてあるカレンダーの方を見た。
「三日後から五月の大型連休に入りますね。機体の搬入は連休明けになるでしょう」
「そういや、もうすぐ連休かぁ」
机に突っ伏すように上半身を預けて試験箱を弄っていた光一郎が、ピクリと耳を動かして反応する。
「連休って、部活どうするんだ? 試合は平日の放課後しか出来ないから、シミュレータで訓練でもするのか?」
「いや、大型連休には予定を入れてある」
光一郎の問いに、部屋のドアを開けて現れた星也が答えた。
「連休は関西地方にある日神学園との共同合宿をする! 各自、旅行の準備をしておくように!」
こうして、夏姫の連休の予定が自動的に埋まった。
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