011 魔術の使い方
澄み渡る青い空の下、夏姫の乗る深紅の山王が一面見渡す限りの草原の中に佇んでいた。
風が吹いており、時折緑のカーペットに波状模様を生み出していく。
(今日の試合のステージは、草原地帯か)
草原には遮蔽物となるようなものは何一つとしてなかった。
夏姫はすぐに敵機を捕捉する。
フルフェイスのヘルメットを被ったようなヘッドパーツ、コクピットがある胸部以外の装甲が薄くデザインされたカラクリ――エイリスのマージギア第三世代機、『ファイター』だ。
フルアーマーの騎士を彷彿とさせる重装甲のカラクリ、『ナイト』の兄弟機に当たり、軽装甲故の高い運動力を有し、相手との距離を詰めたインファイトを得意としていた。
黄土色の装甲を纏ったファイターは、ジャイアントソードを両手で構え、山王に向けて駆けだした。
風のように軽やかな疾走である。
(セオリー通り、接近戦を仕掛けてくるか)
夏姫は山王の左手を前に出し、右手を腰だめに構えさせた。
魔導炉に魔力を送り込み、魔力放射装置にエネルギーを充填させる。
(山王の運動性能では、ファイターの機動力に対抗できない……だが、遠距離から闇雲にレーザーを放ったところで、軽く回避されるのがオチだ)
夏姫は下半身の重心を下ろし、相手の接近を待つ。
両者の距離が50メートルほどにまで縮まったところで、山王の前に突き出された左手に魔力が込められた。
「火術一式、『焔』」
手のひらの上に、燃え盛る炎が生み出される。
ゴウゴウとうねるように燃える炎は、段々と巨大化していく。
ファイターが山王の生み出した炎に警戒して足を止めた。
その停止した瞬間を見逃さず、夏姫は更なる魔術を行使する。
「三式、『火炎弾』!」
山王の左手の炎が渦を巻き、一つの大きな炎の塊となって、ファイターに向かって放たれた。
ファイターはその巨大な火球を横に跳んで素早く回避する。
「四式、『爆熱炎』!」
手のひらをギュッと握りしめ、夏姫は魔力を放った火球に送り込んだ。
3メートルはあろうかという火の塊がファイターの横を通り過ぎようとしたその瞬間、大爆発を起こす。
軽装甲のファイターが爆炎に飲み込まれ、衝撃で体勢を崩した。
「今ッ!!」
予め山王の右手に蓄えられていた膨大な魔力が、一条の光として放出される。
そのレーザーは地面に片膝を着いていたファイターの胸部を一瞬にして貫いた。
敵機の装甲から色が失われ、巨体が地面に突っ伏す。
《WINNER 柏陵院夏姫》
抑揚のないナレーションが、夏姫の勝利を宣言した。
※ ※ ※
「お疲れ様です、先輩」
「見事だったよ、柏陵院さん」
コクピットから降りてきた夏姫を、拍手と笑顔で迎える銀城兄妹。
夏姫は微笑を浮かべ、コクリと頷いた。
「ああ、ありがとう」
「すばるから昨日の戦い振りは聞いていたが、実際目にすると素晴らしいね。右手の魔力放射装置に魔力を溜めつつ、左手で他の魔術を行使する。マルチマジックが出来るなんて、プロのMBF選手並みの技量だ」
「ですよね、お兄様! やっぱり夏姫先輩は凄いです!」
兄の言葉に、すばるは興奮したように両手を握りしめて上下に振った。
そんな妹の頭をポンポンと叩き、「落ち着きなさい」と星也は嗜める。
それから、山王の方に向き直った。
「さて、次は俺が行くよ」
星也は移動階段を上り、コクピットに乗り込んだ。
魔導炉に魔力を注ぎ込んで起動させると、山王の纏う装甲が緑と黄色に染まる。
「ほぉ、銀城君の魔力属性も、風と土の相が強いようだな。すばると一緒か」
「親族の魔力は似る事が多いですからね。ただ、お兄様の魔力は私なんかよりよっぽど高いですけど」
「準備出来たよ。マッチングを開始してくれ」
山王の左手にアサルトライフルを持たせ、星也がタブレットに通信を飛ばしてきた。
すばるはポンポンと液晶をタップし、マッチングを開始する。
「山王は元々お兄様の為に初期配備して貰った機体なんです。お兄様は幼い頃から山王に乗って、遊んでいましたから」
「幼い頃から……?」
「シミュレータですけどね。『銀城重工』は大戦期、マージギアを製造していたんですよ。山王もウチが作っていた機体の一つです。お兄様は数ある機体の中でも、特に山王を気に入ってまして。時間が空いたらシュミレータで遊んでいました」
すばるが過去を懐かしむように語っているうちに、対戦相手が見つかった。
カウントダウンが始まり、タブレットに映像が映し出される。
山王は切り立った岩肌の崖の上に立っていた。
そこから距離を300メートルほど開けた地点に、敵機が佇んでいる。
「フロッグマンか?」
タブレットでは詳細なシルエットまで確認できず、夏姫は独り言を漏らすように推測した。
すばるがその言葉に首を振って否定する。
「いえ……こいつはフロッグマンGですね。メダリカの第三世代機で、旧型のフロッグマンの両手に魔力放射装置を仕込んだアップグレード機です」
言われて見てみると、肥大した胸部装甲、細長い手足の他に、頭に角が生えていることが夏姫にも確認できた。
一世代前のフロッグマンにはなかった特徴的なシンボルである。
「よし、行くぞ!」
試合開始後、先に動いたのは星也の駆る山王だった。
左手のアサルトライフルを連射し、フロッグマンGに向かって突っ込んでいく。
フロッグマンGは山王に対して平行になるように、蟹走りで横に移動した。
山王の銃弾を避けつつ、自身の持つアサルトライフルで撃ち返す。
両者の銃口が連続で火を噴き、岩肌のステージに轟音を撒き散らした。
「ウオオオオオッ!!」
ある程度までフロッグマンGとの距離を詰めると、星也は敵機の周囲を回るように移動し始めた。
アサルトライフルを撃つ事を止めないまま、右手に魔力を込める。
「『空圧波』ッ!」
山王が右手を前へ突き出すと、圧縮された空気が弾丸のように放たれた。
フロッグマンGが突風に煽られ、上半身が後ろに逸れる。
アサルトライフルの銃口が空へ向けられ、弾が有らぬ方向へ飛んで行った。
「風の魔術か」
「ええ、兄の十八番なんです」
すばるがタブレットの映像を眺めながら、ニコリと笑みを浮かべる。
山王は相手に出来た隙を見逃さず、アサルトライフルの斉射を止めないまま、右手の放射装置に魔力を込め始めた。
魔導炉を通して送られた強力な魔力が、山王の右手を発光させる。
「食らえ!」
山王が右手から光線を放たれる。
フロッグマンGはそれを回避しようと試みるが、右膝がガクリと崩れて地についてしまった。
山王の放った銃弾は、敵機の膝の部位破壊に狙いを絞って撃たれていたのである。
身動きが出来なくなったフロッグマンGは、その厚い胸部装甲を容易く光線に貫通され、地面に仰向けに倒れた。
《WINNER 銀城星也》
タブレットの液晶に、勝者の名前が映し出された。
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