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ヘテロチャイルド  作者: 半藤一夜
第一章 施設にて、とある一日
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002 愛が死んだ日

 僕はどうしてだかあまりよく覚えていないのだけど……


 五年前のある日、世界中でとても多くの人間が死んだ。

 殺害された。

 何の前触れもなく、あり得ないような方法で。

 被害者はすべて大人で、そして加害者はすべて子供だった。

 子供が、大人に反旗を翻した日。

 大人が、子供を畏怖と忌避の目で見るようになった日。

 有史以来最悪の傷を人類に与えたその災厄は、海外メディアが報じたフレーズが日本にも伝わり、こんな名称で呼ばれるようになった。


 『愛の命日』。


 その真相について詳しいことは知られていない。情報統制がかけられ、この事件に関する一切の取材や報道が徹底的に規制されたためだ。

 とにかく、「大人とは子供を無条件に愛するものである」という社会通念上の道義的常識が覆された、その日以降のことだった。


 十代前半の子供たちの中から、〝奇妙な脳を持つ者〟が次々と現れた。


 大脳皮質から大脳辺縁系にかけての、いわゆる人間が人間らしくあるための部分に、明らかな変異が見られたのだ。

 どんな高度な検査機器を備えた医療機関をもってしても、「異常である」ということがわかっただけで、その原因も意味もわからなかったが、そんなことよりも彼らには、ずっとわかりやすい共通項があった。


 たとえば――ある子どもは、クラスメートに投げつけられた消しゴムを、指一本触れずに止めた。消しゴムはニュートン力学をまるで無視して宙に静止していたという。

 別の子どもは、毎日続いていた両親の諍いをついに根絶することに成功した。仲裁したわけではない。その子が自宅にいる間、両親は魔法にかけられたように一言も口を利けなくなってしまったのだ。


 周囲の人間に異常な影響を与える。

 周囲の物質に異常な現象を引き起こす。

 周囲の情報を異常なまでに知覚する。


 それらはいずれも、いかなる科学理論をもってしても説明のつかない超常現象であり、それまではオカルトとして一笑に付されていたような特異現象であったが、『愛の命日』を経験した大人たちにしてみれば、子供たちの異変は恐怖の対象であり、拒絶の対象であった。

 それは新種の奇病と認定された。


 『逸脱症候群』。


 正式な病名は『背理性大脳変異症』だが、メディアや世間の大人たちは、僕たちの病気をそういう名前で呼んだ。

 僕たちの存在はそれまで人間が積み重ねてきたものを否定するものであって、決して”進化”ではなく”突然変異”で、”超越”ではなく”逸脱”なのだった。

 僕たちは、ある日突然、人間を失格してしまった。


 そして、異形の脳を持った僕たちにはこんな称号(レッテル)が与えられた。

 ――逸脱児童(ヘテロ・チャイルド)

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