月明かりに照らさられて
大陸で一番大きな国のお城でパーティーが行われていた。
そんな最中、一人の女性が月明かりに照らされるテラスへと足を運ぶ。
それを見た青年が気安く声をかける。
「世界を救った俺たちを祝うパーティーなのに、こんなところでポツンとどうしたんだ?」
「別に、月を見てただけ」
月を見上げたまま女性は不愛想に返事をするが、青年は気にせず続ける。
「本日の主役がどうしたよ?みんな待ってるぜ?」
「それをいうならあんたもでしょ。王子なんだから私よりみんなあんたと話したいでしょ」
「いやいや、異世界の聖女様の方が注目度高いって」
「それやめてよ、ガラじゃないっての」
「だよな。俺が王子ってぐらい似合ってない」
その言葉に女性は、青年の姿を上から下までじっくりと眺める。
その姿は乱暴な言葉遣いとは反対に、王子様然としていた。
いつもはぼさぼさのくすんだ金髪が、丁寧に磨かれ艶のある状態でオールバックでセットされているし、仕立て屋がオーダーメイドで礼服も似合っている。空色の瞳だけはいつもと変わらないが、誰がどうみても王子である。
「いや、言葉遣いはともかく、あんたはその無駄にいい外見は王子っぽいよ」
「この面のせいで散々苦労したがな」
「というか、王子ってなによ。あんた最初、しがない傭兵だとかいってたじゃない」
女性の疑問に少し、気まずそうに眼を逸らしながら青年は答える。
「あー、別に嘘じゃねぇよ。王位継承権は最下位だし、ほぼ絶縁状態だったから、王家の支援とかなんもないから自力で稼いでたし」
「だから、初対面の時装備がぼろかったのね」
「うるせぇよ」
「しかも、その無駄にいい顔のせいで、パーティー組むと必ず内輪揉めが発生するとかバカみたいな理由で強制ソロとかほんと笑える」
「笑い事じゃねぇよ。女はともかく男もやってくんだぞ?」
当時のことを思い出しているのか、青年はガタガタ震えている。
「あっはっはっは」
「笑ってんじゃねぇよ!」
女性は、思う存分笑ったあと、ぽつりとこぼすように呟いた。
「初対面かぁ・・・・ずいぶん遠くまで来たもんだ」
「あー、そうだな。てか、初対面は結構ひどい出逢いだったよな」
「いや、ごめんて。転移初日だったからさぁ、割とテンパってたんよ」
「分からんでもないが、森で見つけたら保護しようと声かけたら、初手金的だぞ?あやうく、子孫繁栄の道が閉ざされることろだった」
これまた当時のことを思い出したのか、青年は冷や汗を垂らした。
「私の世界では、怪しい男を見たらとりあえず金的入れて、逃げるもんなの」
「なんて怖い世界だ」
「・・・いろいろあったねぇ。いや、まじでいろいろあったわ」
この世界に来てからの日々を思い出してでた言葉は、女性が思っているより重たいものだった。
「だいたいお前のせいだろ」
「私は悪くない!厄介ごとが向こうからやってくるんだ」
「はいはい」
女性のいつもの主張を青年はいつも通りかるく流す。
「そのおかげで、仲間も増えたからいいじゃない」
「それはそうだな。まさかパーティーを組めるとは思わなかった」
「まぁ、パーティーバランスは最悪だったけど」
「傭兵、聖女、行商人、手品師」
意味不明である。
「いや、どう考えても世界とか救えないだろ、これ」
「救えちゃったんだよなぁ、これが」
「いま考えても頭おかしい。このパーティー構成がこの世界でのスタンダードなの?」
今更ながら、これがこの世界の常識かと女性は確認を取る。
「んなわけない」
「戦闘職があんた一人ってどういうことよ。なんで生きてんの?死ぬの?」
「死なねぇよ。死にかけたけど」
「これが世界の標準になったらどうしよ」
実は、その傾向が出始めているが、それは今は関係ない。
「しらんがな・・・・・そういえば、旅の間も月を眺めることが多かったよな。思い入れでもあんのか?」
「そんな見てた?」
女性にとってその行為は無意識によるものだった
「見てた見てた」
「あー、私の名前さ、月が美しいって意味なのよ」
「ほーん」
どうでもよさげな返事が返ってきた
「興味もてや」
「あるある、めっちゃ興味ある。名前に関係してるから見てたん?」
青年の態度に対する不満を溜息一つで流し、女性は話し始めた。
「はぁ、えーと。なにから話すかな。・・・・・・私の両親は、本が好きで、特にある作家の熱烈なファンだったの。で、その作家が、愛してるを月が綺麗ですねって言い換えたって話があんの」
「なんで言い換えたんだ?」
そこに触れてはいけない
「細かいところにつっこむな。・・・・まぁ、つまり、私の名前には両親の愛が詰まってるって話よ」
旅の最中、女性が自分のことを話すことはめったになかった。仲間もあえて触れることはなかった。
帰れない故郷の話など、どう触れたらよいか分からなかった。
「あー、その・・・」
「いいよ、今更気を使わなくても。まぁ、我ながら女々しいとは思うけどね。帰れもしない世界の思い出に浸ってるとかさ」
突如として天涯孤独にってしまった人間の心境なんて分からない。
分からないけど、それは違うと青年は思う。
「いいじゃねぇか」
「?」
「普通だろ、そんなん。故郷を思って何が悪い。家族を思い出して何が悪い」
寂しそうなに言った女性の横顔をみて、青年は思わず声を出していた。
二度と出会うことのない人々を、二度と送ることのできない日常を。
それでも切り捨てなくていいと、青年は無責任に言った。
切り捨てて、零から始めるのだって一つの道だ。
でも、焦がれることさえ、慈しむことさえ、否定することは
そんなことは寂しいじゃないか。
「・・・・ありがとね」
「別に礼をいわれることじゃねぇよ」
「ねぇ」
「んだよ」
この不器用で優しい青年がかけてくれた言葉が嬉しくて、女性は普段はあまり口にしない本音をポロリとこぼしてしまった。
「私さ、この世界も結構好きだよ。うまく言えないけどさ、今、割と幸せだって思う。だから、大丈夫だよ」
女性は、言った瞬間、ガラじゃないと思ったが、目の前の青年の顔がほころんだのでヨシとすることにした。
「そーかい」
「そーなのですよ。と、我がパーティーのオカン担当が呼んでる。ほら、いこ」
国のお偉いさんに囲まれて泡を吹きそうになっている我がパーティーのオカン担当である小市民行商人が必死にアイコンタクトで助けを求めている。
ちなみに、手品師は手品を披露して小銭を稼いでいる。なにあれ凄い。新ネタだ。
手品師の方へ足が向きそうになるのを堪えている女性に、青年が改まって声をかける。
「なぁ、ツキミ」
「んー?どしたの、サン?」
「月が綺麗だな」
「あんた、それ・・・・あー、そうね、私もそう思う」
月明かりの照らす先で、二人は幸せそうに笑いながら仲間の元へ足を向けた。




