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スマホゲーのサービスが終わって途方に暮れている人間が一晩で書き綴ったもの

作者: ロジー

「『』に関する大切なお知らせ。


 いつも『』をお楽しみいただき誠にありがとうございます。


『』は、20XX年YY月ZZ日(○)15:00で、残念ながらサービスを終了させて頂くことになりました。


 サービス開始からたくさんのお客様にご利用いただく中、皆様からの暖かいご意見を頂き、改善に努めてまいりましたが、

 今後のサービス続行に関しまして、慎重に検討を重ねた結果、皆様によりご満足いただけるサービスの提供が困難であるという判断に至りました。


 実に3年半もの長きに渡って運営できましたのは、ひとえにお客様からのご支援の賜物です。

 スタッフ一同厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。」



 これはそんな終わりを迎えたとあるスマホゲームの(いち)ユーザーの物語。



 数年前はよく「スマホゲーなんてどれも一緒。札束で殴り合うだけだし、サービスが終われば全部パアだからやるだけ無駄だ」なんて言われた。


 当然のように気にせずやっていると、僕と同じような人間が増えたのか、周囲が諫めるのを諦めたのか分からないがその声は小さくなりますます歯止めが利かなくなった。

  最近ではエレクトロニック・スポーツもといe-Sportsとしても認められたくらいには社会権を得た業界であるし何一つ恥じることではなくなったのだ。そう、たとえ注ぎ込んだ額が車を買ってもなお余りあるくらいに達したとしても。。


  そんな自他共に認める廃人プレイをしていたのは現在もサービスが拡大している某進化アンちゃんが可愛いタワーディフェンスなのだが、今回はそれではなく、いやそれでもいいんだが。進化アンちゃんの素晴らしさについて10万字くらい書けと言われれば書ける自信はある。


  閑話休題。


 ひじょーに残念ながら、この話はそんな神ゲーではなくもっとマイナーな、言ってしまえばクソゲーの部類に入るゲームをインストールしてからサービスが終わるまでのプレイ日記だ。


 ・0日目から一年半

 これは『僕』としてやっていなかった他人に言っていない期間である。僕は操作キャラを男にするのが嫌いなタイプの人間で、このゲームも最初は女キャラで始めた。

  めっちゃ可愛いので課金もしてのめりこんでいたのだが、何となく変な違和感を感じ(誤字じゃない)冷静になってみるとどうやら周りからは女キャラを操作している男ではなく「アバターもリアルも女」だと思われているらしかった。ゲーム慣れしてない人が多いユーザー層なのと僕があんまり喋らなかったせいだと思われる。

  ここで訂正しておけばいいものを生来の面倒くさがりな僕は訂正せずそのままネカマをやることにした。ついでに万が一にもバレないようにと言う名目で職業や年齢すら偽ることを決めしまった。幸いにもと言うべきかは今となっては分からないが、ネカマの才能はあったようでしっかりした『私』が出来上がっていった。

  僕のMMO経験はネトゲしか無く、女キャラなんてどうせおっさんだろが常識だと思って気軽に決めてしまったのだがなんとこのゲーム、ネカマがほとんど居なかったのだ。これに気づいた時には盛大に焦った。焦った末に嘘を塗り固める方向へ進んでしまった。これは今でも少し後悔している。

  おかげで貴重な経験は出来たのだが、出会った人全員に嘘をついている罪悪感に苛まれ続け、素晴らしいギルドに恵まれながらも1年半で一度辞めてしまった。


  ただ、この1年半でどうしようもないくらい残念なこのゲームをどこまでも愛してしまったのだった。


 ・別ワールドでの1日目。(嘘)

「メ○スト卒業したし新しくなんかやろうかなー、なんかないかなー」

 そう、ついにあのブラック企業の如く連続勤務(※ギルバトを仕事と呼んでました。実話)し続けた神ゲーを断腸の思いで引退したのだ、隠居だからね!と未練がましく言って来たあたりほんとに断捨離出来たかは怪しいが。

  そんな感じでアプリストアを漁っていると「お、これ綺麗じゃん。箱庭MMOかー、やったことないジャンルだしやってみるかな。ぽちー。」あ、これ面白いな。

 ――という設定を思いつき以降今まで僕はこれで通しているしバレてないと思う。実際、全然初見じゃなくネカマしていた別ワールド内ではそれなりに名が通るくらいにはやりこんだ。


 ・別ワールドでの1日目。(真実)

 先ほど書いたように別ワールドでネカマしていたのだが、そこで出会った人たちがあまりにいい人達すぎてネカマで職業も偽っている罪悪感に耐えられなくなり辞めた僕は別ワールドに新規キャラを今度は男で嘘や隠し事をせずにプレイすることを決めた。それ以外に『初心者を助ける』『頑張らない』というどちらも自身では初の試みをする決意を胸に再び愛するゲームに降り立ったのだった。

 そしたらいきなりのチャンス。初心者装備の人が目の前に!チュートリアルなんてスキップして、まずは初心者装備してるだけの熟練者じゃないかレベル確認。1レベだ。うろうろしてるし誰かのサブ垢って訳でも無さそう。よし、


「こんばんは。初めまして」

 数秒後。


「こんばんわ」



 ・2日目

 昨日はあの後、その初心者さんにチュートリアルでは教えてくれないあれやこれやをレクチャーしフレンド登録も済ませ、グラフィックを抜けて裏のセカイに行く方法なんかを伝授し別れた。

 

  彼女は今日も同じ時間にインすると言っていたので僕もそれに合わせてインすることにした。そしてフレンドリストを確認するとどうやら既にログインしているようだ。人と話すのは苦手でMMOも苦手と言っていたしまた一人でうろうろしているのではと心配になり会いに行った。

  杞憂、とはならかった。近寄っていき、向こうがこちらを見つけた途端目の前まで走ってきて個人チャットへ「あ、こんばんわ!昨日はありがとうございました!」……なんという犬感。そんな失礼な感想はもちろんしまわず「飼い主見つけた犬っぽいwこんばんは~」と返した。

  言い忘れたが僕は他人を弄り倒すのが趣味だ。天然っぽいとなお良し。その点では、今日一緒にクエストや雑談をした感じだとイイ線いっていた。



 ・その後の半年間

 毎日のように彼女とゲームで会い、一緒にクエストをし、何時間も話した半年間だった。時折彼女や僕のフレンドさんも混じっていたが殆ど2人きりの活動をしていた。そしてリアルでも数回会い各地を観光もした。


 そしてある日、彼女が『彼女』になりかけた。まさかネット恋愛を自分が体験するとは思ってもみなかったので非常に驚いた。ネカマしてた頃は出会い厨を警戒して意識していたが、このワールドで、特に彼女の前では素の自分まるだしで接していたリアル童貞野郎からしたら驚きしかないのを分かって欲しい。そんな僕がいきなりネット恋愛とはハードルが高い。


  ……なんて逃げるほど真剣に話してくれる彼女に対して冷たくはなれなかったし僕も彼女との関係は大事にしたかったので、僕が実は今リアルのごたごたで女性不信になっている事も含めしっかり話し合って、結果、お友達でいる。というまあ良くある感じに落ち着いた。その後もよくある感じでゲームから彼女は去っていった。いざ体験すると、どうしようもなく、やるせない。



 ・その後の2ヶ月

 断った側が傷心なのは失礼すぎるかもしれないが、そう簡単に切り替えられるほど幸せな頭でなかった。

 彼女との時間は僕にとってかけがえのないものだった。なんでもいいからこの開いた穴を埋めたい、そう願ってしまった僕は彼女の代わりになるような人を探した。いるわけがないのに。

 そんな折に、彼女と親しかったフレンドさんから恋愛相談を受けた。僕達の関係は他に漏らしていなかったので全くの偶然だとは思う。婚約者と別れたいから隠れ蓑になってという中々に凄い内容だった。開いた穴に彼女はハマるのだろうか。そんなどうしようもなく屑な考えで年上の女性と擬似的なお付きあいをしてしまった。だがそんな雑な交際で合うことの方が稀だろう。そう時間をかけず関係は崩れまた一人になった。



 ・その後の1ヶ月

 ログインをやめた。



 ・その後の一週間

 ログインを再開し、思い切ってギルドを作った。深い関係にならず、気の合う人とゲームが出来る環境が欲しかったのだ。当初の目標でもある初心者を助ける、というのもモチベーションになるだろうとも。

 夏休みの土曜日の深夜にゲーム内掲示板に書き込み、日曜日に掲示板のトップに載るように工作した成果もあり初日からそれなりに人数が集まった。

  ターゲットにしたのは「ギルドには入りたいけど人と話すのは苦手な人」だ。このゲームにはギルドに入ることで発生するメリットは無い。それなのに入りたい、だけどコミュ障。そんな隙間需要を拾うことにした。入ったのは思い描いた通り全員が全員、変なヤツだった。



 ・その後の1年間

 コミュ障を集めてもコミュニケーションは発生しないという発見があったり、ギルメンは減ったり増えたりしながら常にほぼ満員状態で安定しており、ギルドとしては大成功と中々に充実したギルマスライフを楽しんでいた。

 またギルメン以外にフレンドも出来、健全なゲーム生活に戻れていたのだ。誰か一人ではなくみんなで仲良くプレイするゲームはネカマしていたワールド以上に楽しくなっていた。


  だが、ここで目を逸らしていたクソゲー要素が猛威を振るう。

  何とこのスマホゲーム『ストーリーが2年以上更新されない』のだ。新しい敵もゼロ。装備やステージは変化があったが、それだけでは当然のように飽きる。てか存続しているのが奇跡だとみんな思ってた。続いてきた理由はひとえにユーザーの愛だと言えるだろう。

  運営がクソでも辞めず、運営がイベントをしないならと自分達で企画をし盛り上がり、何が変わるとも思えなかったが課金もし、そうやって繋いできたのだ。愛で溢れたゲームだった。グラフィックは他の追随を許さないくらい美しく個性的でユーザー間の距離も田舎の小学校のクラスメイトのような近さで素晴らしい一面もあったのだが、それ以外はクソゲーだった。


 クソゲーは続かない。

 どれだけ愛があっても、人が増えないし人が増えてもサーバーが強化出来ないためにメンテ地獄となり人が減る。商売として終わっている。


 なので当然、このゲームも終わるのだ。



 ・それが告知された日から1ヶ月間

 飽きてインがまばらになっていた人たちも連日ログインするようになり、終わるのが嘘かのように賑わっていた。ただ時にはそこから逆に終わりを感じることもあった。実感はついぞ訪れなかった。



 ・最後の日

 様々なギルドやコミュニティが固まって話す中、僕は最終的に残った一番親しいギルメンとちらっと話し、それぞれ好きな場所へと歩き出した。終わりは一人で迎えることにした。人恋しさはいつのまにか無くなっていたのだと、その時に気づいた。


  色々あったが、月並みで申し訳ないが、掛け替えのない経験で、忘れることの出来ない時間だった。――――大好きなゲームでした。ありがとう。



 そうして、ひとつのスマホゲームのサービスが終わった。



 ・その後

 ギルドを作った時からツイッターを始め、様々な人と交流を続けたおかげでサービス終了後も繋がりは維持することは出来た。親しかった数人のギルメンやフレンドとはグループ通話やリアルでも合う仲だ。なぜか女性ばかりだが、女性であることよりもゲームのあの人、と思えるから女性不信が治らない今でも大丈夫だし、全員変なヤツなので色恋沙汰にもたぶんならないし、平和なものだ。だから次はみんなで移住先を探せばいい。


 はずだった。


 ――冒頭、スマホゲームが社会権を得たとは言ったが、まあぶっちゃけパクリゲーのオンパレードだし、大多数のスマホゲーは札束の殴り合いにすぎないのも間違いではないし、据え置きゲーム機のソフトに比べればサービスが終わった時に残る物が皆無に近いのも事実である。ただ供給量がハンパないおかげで時間をかけて探せば自分にあったタイトルの一つや二つは見つかるという利点もある。


 そしてそのサービスが終わっても、似たような次を探しに行けるのだ。


 探しに行けるはずなのだ。



 星の数ほどあって無限湧きもするんだからいつかは、見つかるはずだ。



 ――だが、結局見つからなかった。

 ・そもそもみんな好みが違う

 ・変なゲームすぎて替えが利かない

 ・モチベーションが下がってしまった


 などなど、理由は考えればまだ出てくるだろう。ただ見つからなかった結果がここにはある。


 あれほど好きだったゲームそのものすら好きなのか分からなくなるほどの喪失感。


 皆さんは味わったことはあるだろうか。立ち直り方を知っているのだろうか。


 どうか教えて欲しい。そう願わずにはいられないほど、


 僕は今、途方に暮れている。





彼女よりも好きなゲームを一緒にする友達が欲しかったみたい。ゲーマーの悲しいサガ。

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