第二話
「ち、痴漢ですっ...!」
彼女の可愛らしい声によって運ばれたその言葉は、一瞬で車内全体に響き渡る。
途端に車内には「痴漢...?」「痴漢だって!」などとどよめきが起こる。
マズい、非常にマズい。次の駅に着いたら絶対捕まる、ヤバいどうしよう
暑いわけじゃないのに背中に汗が!
ヤバッめっちゃ見られてる。やめて、前のお姉さんそんな睨まないで!!
次の駅に着いた。
隣にいたサラリーマンに腕をがしっとつかまれ、ホームに引っ張り出される。続いて降りてくるのはあの女の子。
自分のもとに駅員さんが3人が来た。
「ちょっと、事務所の方まできてくださいね」
と眼鏡をかけた30代くらいの駅員さん。
「あの、自分これから学校の入学式があるんスけど...」
という言葉に耳を傾けてもらえるはずもなく事務所へ連行。因みに俺を捕まえたサラリーマンは「一仕事を終えた感」を漂わせて電車に乗っていったとさ。
「んで、どうしたんだい?」
と、低身長で小太りの中年駅員が聞いてくる。
「あ、あの、この人が急に私の腕を掴んできて...」
「なるほどねぇ。で、君はどうなんだい?」
そう言って俺の方に聞いてくる。
「えと、確かに彼女の腕を掴んだのは事実ですが、それは彼女が満員電車の中で苦しそうにしていたので助けてあげようと思いまして」
「で、ですが、私の腕を執拗に触ってきていました!」
あ、やべ、超久しぶりる女の子の体だったから無意識のうちに指が動いてたわー。
でもね、めっちゃすべすべで、柔らかい君の体が悪いんだよ。うん。そうだ。君がすべて悪いんだ。
「すいやせんでしたあああああああああ!」
俺は、彼女に向けて精一杯の土下座で謝罪。頭を地面にねじりこませるように。何度も何度も。
チラッと彼女の顔を見る。
うわ、めっちゃ引いてる。めっちゃ引いてる顔しとるわー。めっちゃ引いてる...けど俺には謝罪する方法がこれしかない。よし、続行。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ほんとにごめんなさいいいいいい!」
「あ、あのもういいですから!わかりましたから!顔を上げてください!」
ホッ...なんとか最悪のシナリオは回避されたようだ。
「一応この方が大丈夫って言ってくれてるからこの件は終わりにするけど、もう誤解されるようなことはするんじゃないよ」
「はい。以後気を付けます」
こうして痴漢冤罪(?)事件は幕を閉じたのであった。
因みに事務所から解放された後、もちろん学校に向かうのだが、出来る限り彼女を避けて登校するのはなかなか大変だった。
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「ほう、で、学校登校初日に遅刻したと?」
午前10時34分。俺の前に構えるのは一匹のトラ。災難は災難を呼び。また災難を呼ぶ。やはり人一人ではこの循環を止めることは難しいらしい。
なぜ駅員さんはあのサラリーマンを一緒に事務所に呼ばなかったのか。呼んだら当時の状況とか説明してくれる証人になっていたはずなのに。不思議でたまらない。