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幼馴染の手

先輩もすぐデレます。ノンストレス展開です。

「下校時間です。校内に残っている生徒は早く帰宅しましょう……」


校内放送が響き渡る。窓の外は夕焼けのオレンジ色に染まっていた。最近は日が暮れるのが遅くなったなぁ。


「そろそろ図書室を閉めましょう。早く帰らないと暗くなって危ないですよ」


「……」


「先輩!聞こえていますか?」


「えっ!は、はい。どうかしました?」


みなみが去ってから先輩はずっと心ここにあらず、という感じだ。本を逆さまに持っているし、話しかけてもこんな感じで生返事ばかり。いつも一挙一動完璧な先輩がこんな姿を晒すなんて……。お世話になっている後輩の立場としては見過ごせないな。


「もしかして具合が悪いんですか? 保健室に行きましょう」


「いえ、体調は大丈夫です。実は悩み事があって。もしよかったら相談に乗って欲しいんですけど……」


「はい、俺でよければ」


「その、なんというか……わたくし今好きな人がいるんです」


俺は思わず吹き出しそうになった。いきなりハードル高いのが来ちゃったよ!


「俺は役に立てないと思います。実は俺、恋愛経験がほとんどないんですよ」


「そんなことはありませんわ。わたくしは優太君に聞いて欲しいんです」


先輩は真っ直ぐ俺を見つめる。その黒目がちな大きな瞳には強い決意の光が宿っている。先輩はきっとその人のことが本気で好きなんだろう。役に立てるとは思えないが、いつもお世話になっている先輩のためにできることはするべきだよな。俺が頷くと、先輩は静かに語り出した。


「その人はかなり鈍感なんです。色々アピールしてみたのですが、全く気付いて貰えないんです」


「具体的にはどんなことをしたんですか?」


「彼女の有無を聞いたり、さりげないボディータッチもしましたわ。あと周りの人に協力してもらって、2人きりになる時間をつくりました」


「えっ、そこまでして気がつかないんですか?ちょっと脳の障害を疑うレベルの鈍さですね。その人、大丈夫なんですか?」


「そ、そんなことはありませんよ!わたくしは本気で好きなんですから!……すみません、つい」


先輩は声を荒げた後、恥ずかしそうに顔を赤らめる。いつもの神々しさは消え失せ、完全に恋する乙女モード。か、可愛い……。これがあの先輩なのか?俺は大きな衝撃を受けた。それと同時に先輩が惚れ込む相手のことが気になった。きっと先輩同様に完璧な男子なんだろうな。

 そんな完璧男子を想像してみる。イケメンで、頭もよくて、性格も紳士で、もちろんお金持ちのボンボンで、おまけに先輩とは昔からの幼馴染み……。

 クソッ、羨ましい! 世の中にはそんなに恵まれた人間が存在しているのか!一度その顔を拝んでみたいぜ。好奇心に負けた俺は、先輩にこう聞いてしまった。


「先輩の好きな人ってどんな人なんですか?」


「知りたいですか?」


「あ、いや、言いたくないなら別にいいですよ」


「……いえ、教えます。優太君には知ってて欲しいんです」


先輩は大きく息を吸うと、一気に言葉を吐き出す。


「わ、わたくしが好きな人は……。その人は……今私の目の前にいます!」


えっ!?なん……だと?



俺は後ろを振り向く。しかしそこには本棚があるだけで、誰もいない。そりゃあそうだ、この図書室には俺たちは2人しかいないのだから。それなら先輩の好きな人は一体どこに?

つまりあれか、文字通り現世には存在しない人物ってことか。幽霊とか精霊とかイマジナリーフレンドとかの類かな。流石、先輩です。恋する相手も別世界なんですね。


「すいません、やっぱり俺は力になれないみたいです」


「や、やめて下さい! そんな哀れむような目で見ないで下さい! 違いますから、わたくしは危ない人じゃありませんから」


「えっ、それじゃあ先輩の好きな人はどこにいるんですか?」


「ここまで鈍いとは。やはりはっきり言わないとダメなようですわね」


先輩の顔は真剣そのもの。長い艶やかな黒髪は窓から射す夕焼けの光を反射し、キラキラと輝く。ギャルゲーのイベントシーンみたいだ。俺は目の前の出来事をまるで別世界のように感じていた。先輩の次の言葉を聞くまではーー。


「わたくしが好きな人は、結城優太さん、あなたです」



……


……


……


……俺の名前が聞こえた気がしたが。はは、そんな訳ないよな。多分聞き間違いだろう。


「えっ、なんだって?」


「……全く仕方ない人ですね。ではこちらをご覧下さい」


先輩はセーラー服の胸元から小さく折り畳まれた紙を取り出すと、俺の目の前で広げた。そこには毛筆でこう書かれていた。


「私は結城優太さんが好きです。付き合って下さい」


署名に拇印まで押されているぞ。いつの間に用意したんだろう。


「どうぞ、優太君。これ差し上げます」


「あっ、ありがとうございます」


先輩から紙を受け取り、改めてそこに書かれた文を読む。先輩の体温のせいか、紙はほんのりと温かい。


「私は結城優太さんが好きです。付き合って下さい」


……何度も何度も読み直す。しかし書いてある内容は変わらない。


「私は結城優太さんが好きです。付き合って下さい」


角度を変えたり、裏返してみたり、透かしてみたりする。しかし書いてある内容は変わらない。


「ライターかマッチは持ってないですか?」


「あぶり出しはありませんわ」


どうやらこの紙にはなんの仕掛けもないようだ。


最後にもう一度読み直す。


「私は結城優太さんが好きです。付き合って下さい」


……うむ、つまり、そういうことか。



「もしかして、先輩は俺のことが好きなんですか」


「はい」


「ええええええええええええっ!」


「あんなにアピールしていたのに、本当に気が付いていなかったんですね……」


はい、全く、これっぽっちも気が付きませんでした。先輩が優しいのはボランティア精神のせいじゃなくて、俺のことが好きだったからなのか……。


「もしかして、わたくしのこと嫌いですか?」


「いや、嫌いではないですよ。でも……」


「よかったですわ!それならわたくしを優太君の彼女にして下さい」


「!?」


すると先輩はいきなり抱きついてきた。胸に実った大きな果実が、俺の体に押し付けられる。や、柔らかい!そして適度な弾力!これが女体!それにすごくいい匂いがするぞ。フローラルでいて爽やかなこの香りはシャンプーだろうか?

 いかん、なんだか頭がクラクラしてきたぞ……。まともに思考することができない……。


すると、悪魔が耳元でこう囁いた。このまま抱きしめてしまえ!そうすれば先輩はお前のモノ、つまりこのオッパイも思いのままだぞ!

 ああ、そうだよな。このオッパイを手放すなんて男じゃない! 俺は悪魔に言われるがまま、先輩を抱きしめるーー。


しかしその時、手のひらにある感触が蘇った。


それはほんのりと温かく柔らかくて。ああそうか、これは幼馴染みの手の感触だ。昔はよく手を繋いで遊んでいたなぁ。周りから冷やかされたけど、全然気にしなかったんだっけ……。確かに先輩の体も温かくて柔らかい。だけど俺が好きな感触とは少し違う気がした。


「優太君?」


気がつくと、俺は先輩の身体を引き剥がしていた。先輩は悲しそうな表情をしたが、すぐにいつも通りの天使に戻った。


「急にこんなことを言われて、驚かれましたよね。ごめんなさい」


「……えっと、はい」


「考える時間も必要ですよね。よい返事をお待ちしていますわ」


先輩は優雅にお辞儀をすると、足早に図書室を去っていった。


ブクマ本当にありがとうございます。嬉しいです。マジ頑張ります。

あと、そっとプロローグを追加しました。よかったら見てください。

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