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俺たちはただの幼馴染みです

もう一人のヒロインが登場します。あとタイトルとあらすじ変えました。

  それから俺は当番であったことを思い出し、律儀に図書室へ向かった。こんな時くらいサボってもいいんじゃないかとも思うが、逆に何か作業をしていたい気分だった。しかしかなりの遅刻だ。たしかもう一人の当番は北村先輩。神経質な性格だから、きっとたっぷり文句を言われるだろうな。

 俺はため息をひとつ吐くと、図書室の引き戸に手を掛けた。建て付けが悪いため、ガタガタと大きな音が鳴る。扉を開けると、ほこりと紙の匂いが俺の鼻をくすぐった。やっぱりこの場所はすごく落ち着く。


「遅れてすみません。って、アレ?」


 貸し出しカウンターに座っていたのは、眼鏡を掛けた北村先輩……ではなく、長い黒髪が特徴的な女子生徒だった。


  本を読む手をとめると、ゆっくり顔をあげる。艶やかな黒髪がさらりと流れ、白い顔が露わになる。高い鼻に黒目がちな瞳、朱を引いたように薄紅色の唇。神様がわざわざオーダーメイドしたんじゃないかと思うほど、その美貌は完璧で神々しい。きっと『天使』が実在していたら、こんな見た目に違いないーー。


「な、なぜ天使がこんな薄汚い図書室にいるんだ! 」


「もう、何言っているんですか?わたくしですよ」


「なんだ。先輩でしたか」


「優太君たら相変わらず面白いですわね。うふふ」


 先輩は一点の穢れを感じさせないような微笑浮かべている。彼女の名前は貴音小百合たかねさゆり、俺のひと学年上でこの図書委員会の委員長だ。

 やたら高貴そうな名前と口調で分かると思うが、彼女は血統書付きのお嬢様だ。黒塗りの車で登下校は当たり前、いかにも強キャラっぽい初老の執事を従えているのを見かけたこともある。

 しかも頭脳明晰で運動神経も抜群、というお嬢様キャラのお約束をきちんと守っている。美貌も相まって学園中の男子の憧れの的だ。普通を煮詰めた一般生徒の俺にとっては雲の上の存在、まさに「天使」と言っても過言ではない。

 なんでこんな普通の公立の学校に通っているのだろう、という疑問はスルーしてくれ。ちなみに俺もその理由は知らない。

 まあそんな話は置いておいて、なぜこの場に貴音先輩がいるんだろう?


「今日の当番は確か北村先輩じゃ……」


「北村君は急用です。わたくしが当番を交代しました」


「えっ!前回も当番交代していましたよね。みんな先輩に甘えすぎですよ。今度の委員会の時、俺抗議します! 」


「あまりみんなを責めないで下さい。わたくしはどうせ暇ですから、ね? 」


  な、なんて優しい人なんだ。普通お嬢様って高飛車な性格をイメージするんだけど、貴音先輩は間逆だな。背中に羽が生えていても、俺は驚かないぞ!


「そうだ、遅刻してきたお詫びとして残りの仕事は俺がしますよ」


「それなら心配ご無用です。もう仕事は全部終わりましたわ」


「あの多量の貸出カードの整理もう終わったんですか?」


「はい。残りの時間は一緒に本を読んで過ごしましょう」


 ま、眩しい。後光が差して見える!なんだか拝みたくなってきたぞ。


  それから俺は促されるまま、先輩の隣に座り本を開いた。読書家の先輩が読む本がドストエフスキーなのに対して、俺は長文タイトルのラノベだ。恥ずかしくないの?という声が聞こえる気がするが、先輩はオタクに対する偏見がない天使なので何の問題ない。

 しかもラッキーなことに今日の図書室は利用者がゼロだ。まあ期末テストが終わったこの時期に、わざわざ足を運ぶ物好きな生徒はあまりいないか。

 おかげで、大好きなラノベを堪能できる!さて、ゆっくり読むか。そう思った俺だったが、雑念のせいで内容が頭に入らず、遅々としてページが進まない。

 そりゃあそうもなるさ。俺はあの山田さんに告白されちゃったんだからな。それにみなみのこともなぜか気になるし……。2人のことばかり悶々と考えてしまう。ああ、俺は一体どうすればいいんだ!


「なんだか元気がありませんね。何かありましたか?」


 先輩の大きな瞳が俺のことを心配そうに見つめている。どうやらかなり深刻な顔をしていたようだ。ただ同じ図書委員というだけなのに、ここまで俺のことを心配してくれるなんて……。先輩はなんていい人なんだろう。マジ天使!

 しかし顔が近いな!あと数センチ近付いただけでキスできちゃいそうだぞ。それにしても先輩の唇、潤っていて実に柔らかそう。あ、あれ?なんかドキドキしてきたぞ。


「な、なんでもないですよ。早く離れて下さい」


「……嘘です。いつも貴方のことを見ているから分かります。わたくしができることがあったら仰って下さい」


 しかし先輩は離れるどころか、ますます密着。お、俺の腕になにか柔らかいモノが当たっているんですけど。先輩って着痩せするタイプだったんだな……って違う。なんだこの状況は。普通男子に対してこんなことするか?

 ま、まさか、先輩は俺のことを……


 ……


 異性として認識してないのか!


 スペックも生きる世界も違うから仕方ないとはいえ、これは傷付くな。慈悲を与える対象のウジ虫にも性別があることを理解して欲しい。

 その時、ガタガタというやかましい音と共に扉が開いた。先輩が俺から離れる。ふぅ、助かった。


「ゆうちゃんやっほー!それに貴音先輩こんにちウォンバット! 」


 底抜けに明るい声に、ひまわりみたいな笑顔。そして無理矢理横入りしてくるウォンバット。図書室に入ってきたのは、幼馴染みのみなみだった。一難去ってまた一難とはこのことだ。俺の心臓がより一層激しく高鳴る。

 さらに困ったことに、みなみはテニス部のユニフォーム姿だった。半袖にミニスカート!白い太ももがやけに眩しくて、俺は思わず目を背ける。テニスのユニフォームってなんでこんなにエロいんだよ!

 お、落ち着け、普段通り振る舞うんだ。


「き、今日も部活か。大会はこの前終わったばかりだろ?」


「うん、でも夢のためには毎日頑張らなくちゃいけないんだよ」


「そうか、大変だな。あんまり無理するなよ」


「心配してくれてありがとう。ゆうちゃんは優しいね」


「当たり前だろ、俺たちは幼馴染なんだから。そんなことよりお前が図書室に来るなんてどういう風の吹き回しだよ」


「あ、そうだった。本の返却に来たんだよ」


「本を返しに来た……だと?みなみが本を読むなんて明日は大雪、いやみなみだからテニスボールが降ってきそうだな」


「なんだよぉ、私だって本位読むよ。ゆうちゃんとは違って、気持ち悪いタイトルの本じゃないし」


「気持ち悪いとか言うな!ラノベにだって素晴らしい作品は多く存在しているんだぞ」


「キモいもんはキモいもん!ほら、早く返却手続きしてよ」


 みなみが頰を膨らませながら差し出した本の題名は「猫でもできる英会話」。外国人の友達でもできたのだろうか?


「お二人は仲がいいですね。もしかしてみなみさんとお付き合いされてるんですか?」


 みなみが図書室に来てから先輩が初めて口を開いた。しかもその内容は、今一番聞かれたくない質問だ。今日はやけに多いな。俺は内心ドキマギしていたが、平静を装ってあの呪文を唱えた。


「いや、俺たちはただの幼馴染みです」


「そうなんですか。それでは他にお付き合いしている女性はいますか?」


 あれ?普通なら話はここで終わりのはずなんだが、先輩はやけに喰いつくな。また顔が近いし。


「お、俺に彼女はいませんよ」


「……つまり優太君は今フリーなんですね」


 一瞬、先輩の顔が邪悪に歪む。えっ!と思い、目をこする。再び目を開けると、そこにいたのはいつもの天使な先輩だった。むしろニコニコ満面の笑みでとても機嫌がよさそうだ。何かいいことでもあったのかな?


「奇偶ですね!実は私もお付き合いしている男性がいないんですよ!」


「は、はぁ?」


「でもやはりわたくしも女子高生ですし、彼氏が欲しいと思っているんですよ。どこかに素敵な男性いないですかね〜?」


 先輩は俺の顔をチラチラと見る。なるほど、そういうことか。


「すみません。俺に先輩に紹介できるような友達はいません」


「えっ……あの、そうですか……」


 先輩はしゅんとして下を向いてしまった。ああ、悪いことをしてしまったなぁ。今度リョウにも聞いてみるか。類は友を呼ぶってことわざもあるくらいだから、きっとアイツにはイケメンの友達の10人や20人はいるだろう。

 すると、みなみが先輩の肩を叩いた。


「貴音先輩、ゆうちゃんは壊滅的に察しが悪いんですよ」


「は?神岸さん、何を言ってるんですか?」


「つまり、思わせ振りな言動だけでは駄目だってことです」


「なっ…!」


  なぜか先輩の顔がさぁっと青くなる。一体どうしたんだろう?


「酷いですわ!何も目の前で言わなくてもいいではないですか!いくら優太君でもこれでは……」


「大丈夫ですよ。ほら、ゆうちゃんを見て下さい」


「え?」


  先輩が俺の顔をジロジロと見る。


「あの、一体なんですか?俺の顔に何か付いてます?」


「い、いえ。あの……神岸さんとわたくしの今の会話、どう思いました?」

 

  今の会話?ああ、俺が壊滅的に察しが悪いとかいう話題か。


「うーん、確かにそうかもしれませんね。推理小説の犯人は最後まで分からないことが多いし。読み終わった後に、そういえば犯人のあの時の言動は怪しかったなぁ、と思うくらいですから」


「どうやら、神岸さんの言うことは正しいみたいですわね」


  先輩は安心したように胸を撫で下ろすと、みなみをキッと睨みつけた。


「敵に塩を送るなんてどういうおつもりですか?」


「やだなぁ、敵だなんて。私は貴音先輩の味方ですよ」


「それなら私は勝負に出ますよ。後から文句は言わないで下さいね」


   2人は何やら神妙な面持ちで話している。なんだ、この雰囲気は?空気がピリピリしていて、近くにいるだけなのになんだか肌が痛い。それに敵とか味方とか勝負とか、一体なんの話しをしているんだろう?

 あ、そうか!……2人は共通のゲームにハマっているんだな。今度俺も教えてもらおう。


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