真の幼馴染
親友リョウの視点です
みなみちゃんがオーストラリアに行ってから1ヶ月の時が流れていた。僕たちは高校2年生になったが、特にこれといった変化もない日々をぼんやりと過ごしていた。そして今日の放課後も、十条駅前のハンバーガーショップでオタク話に花を咲かせている。
「ほらほら、リョウ! 見てみろよ。やっぱり幼馴染エンドは最高だろ」
幼馴染のゆうは得意げに携帯ゲーム機の画面を見せてくる。画面の向こうの「陽子」は純白のウエディングドレスを身にまとい、それはそれは幸せそうに微笑んでいる。
「『俺の美少女ハーレムがこんなに残念なはずはない ぽーたぶる』……。原作があんなクソエンドだったから不安だったけど、まさかこんな神ゲーだったとは!やっぱり陽子ルートが正史なんだよ。原作者はヒロインの選択を間違えたよな」
「そうだね」
「陽子のこのセリフ、『もう幼馴染じゃ嫌なの!』を聞いたときには全身震えたね。感動のあまり、陽子ルートは10回も周回プレイしちゃったよ。あと1000回プレイしても飽きない自信があるぜ」
鼻息荒く、幼馴染みの魅力を早口で語るゆう。みなみちゃんとあんな別れ方をしたというのに、『幼馴染至上主義』は衰えるどころか勢いを増していた。みなみちゃんのことが好きだから、幼馴染も好きなのだと思っていたが、別にそういうわけではないらしい。
しかしーー。
「やっぱり、幼馴染は幸せが一番似合うよな」
ゆうが寂しそうに笑う。その瞳はどこか遠くを見つめていて。みなみちゃんがいなくなって以来、時折ゆうはこんな表情を見せるようになった。普段は僕に心配かけさせまいと強がっているが、きっと心の中は悲しみでいっぱいなんだろう。やはりみなみちゃんが空けた穴は大きい。
「ゴメン、ちょっとトイレ行ってくるわ」
ゆうは席を立った。
「なに、ウンコか?」
「ちげーよ!小学生かよ」
「あはは、だってゆうはお腹すぐ壊すからさ」
「小の方だよ!速攻戻ってくるから」
ゆうがトイレに入るのを見届けると、僕は大きなため息を吐いた。なんとかしてあげたいけど、僕は何もできない。ただの幼馴染の僕ではーー。
「あのー、すいません」
3人組の女子校生に声をかけられた。彼女たちはなんだかモジモジしていて、顔も少し赤い。ああ、またこれか。心底うんざりしていたが、相手に悟られないように笑顔を貼り付ける。
「はい、なんですか?」
「さっきからすごいカッコイイなぁと思ってまして……。その……ほら、ここからはカオリが言ってよぉ」
「えっ、私! え、ええと、そのよかったらラインのIDとか教えてくれませんか?キャー、言っちゃった」
「ナイス、カオリ!まじ見直した」
黄色い声で盛り上がる3人に対して、僕の心は氷点下まで冷え込んでいた。ハッキリ言って、僕は女の子に興味がない。でも無碍にするのも悪いし、早くしないとゆうも戻ってきてしまう。やはりいつものあの手を使うしかないか。
「すいません。実は僕、違うんです」
僕は財布から切り札を取り出し3人に見せた。その瞬間、彼女達の顔が赤から青に変化した。
「え、ええ〜!嘘!こんなにカッコイイのに……ってすいません。ホラ、カオリも謝れ」
「う、うん。本当にすいませんでした」
「本当にすいませんでした。カオリには私がよく言っておきますから!」
「ええ〜、全部私のせいなの〜?」
3人組はすごすごと去っていった。ああ、切り札が効く相手でよかった。たまに効果のない人間がいるからな……。
「おう、リョウ!また逆ナンされたのか」
「わっ!」
ゆうに突然声をかけられ、僕は慌てて切り札を体の後ろに隠した。女子高生に気を取られていて、ゆうが戻って来たことに全く気が付かなかった。もしかして、バレた?
「あれ、今なんか隠した?」
「な、なにも隠してないよ。今の、どこから見てた?」
「ん? 女子高生が頭を下げていたところからだけど。それより、どうやって断ったか教えろよ! その方法を知っていれば俺はあんなに苦労しなかったんだぞ」
「だから、アレは僕にしかできないんだってば」
よかった。どうやら気づいていないようだ。僕はゆうから目線を逸らし、切り札をぎゅうと強く握りしめる。 これだけは見られてはいけない。もし見られたら、いくら鈍いゆうでも僕の正体に気付いてしまうだろう。
だってこの切り札、学生証には、僕の本名『涼風涼子』と書かれているのだからーー。




