表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/39

優先すべきは幼馴染

「それじゃあ、春休みだからってハメを外すなよーー。はい、お終い」


 担任のこの一言で、『高校1年生』はあっけなく幕を閉じた。しかし過ぎ去った年月を懐かしむ時間は今はない。みなみが教室を出る前に話しかけるぞ!と、その前にーー。俺はチラリと後ろの席を盗み見た。エレナは通信簿と睨めっこ中だ。どうやら結果が思わしくなかったようだな。この様子なら今度は邪魔されないだろう。


 再び視線を前に戻す。みなみの席は、廊下側前から二番目。よかった、まだ帰り支度をしているな。俺はみなみの元へ歩み寄る。ああ、これでようやく告白できるぜ。しかしーー。


「優太君!」


 目の前にひとりの人物が立ちはだかる。輝くような黒髪に、天使のような温和な笑みを浮かべた少女。

 クラスメイト達は彼女の美貌に目を奪われ、教室がしん、と静まりかえった。


 ーー『お邪魔キャラその2』の出現である。


「た、貴音先輩ィ? な、なんで?」


「うふふ、優太君を驚かせたくて。びっくりしました?」


 先輩は、大きな瞳をパチパチしながら上目遣いでこちらを見つめている。通常ならば実に胸キュンなセリフにシチュエーションである。だが全く別の意味で俺の心臓はドキドキしていた。確か俺にフラれたはずだよね。なぜこの人はいつもと同じように笑っていられるんだ? 背筋が急に冷たくなってきた。


「な、なにかご用ですか?」


「ああ、そうでしたわ。これを渡しに来たんです」


 先輩は紙袋を差し出した。ん、なんだこれは?


「これ、優太君のパンツです」


 ブーーッ!思わず吹き出してしまった。ラブホで脱ぎ捨ててきたのをすっかり忘れていたよ!


「優太君ったら、あのまま帰ってしまったんですもの。慌てん坊さんですわね」


「あ、ああ……」


「シワになったら困るので、わたくしが手洗いしておきました。ふふふ……」


 先輩はいかにも楽しそうに笑っている。でもその笑顔には影があって……。背筋がゾワッとした。あっ、これあんまり関わらない方が良さそうなパーティンだ。先輩の肩越しに、みなみの姿を盗み見る。するとみなみは席から立ちあがりそのまま教室から出て行ってしまった。マズイ、早く追いかけないと!


「わ、わざわざありがとうございます。それじゃあ俺は急ぎますので」


 俺は紙袋をひったくるように受け取ると、先輩の横をすり抜ける。


「結城、ちょっと待てよ」


 今度はクラスメイト達が俺の前に立ちはだかる。えっ、何事?


「もしかして2人って付き合っているんですか?」


「パンツを洗濯してもらうなんて。まさか2人はもう……ってキャー!」


「嘘ですよね!憧れの貴音先輩がこんな冴えない奴となんか付き合いませんよね」


「世界はなぜ僕を追い詰めるのか」


 興味、羨望、悲しみ、嫉妬……あらゆる眼差しが俺たちに向けられている。そうか!今までの会話を聞いて、俺と貴音先輩が付き合っていると誤解しているんだな。早く誤解を解かないと。


「み、みんな、落ち着いてくれ。俺と先輩は付き合ってはいないぞ。そうですよね、先輩?」


「ええ、優太君の言う通りですわ」


 よかった。先輩自ら説明してくれるなら安心だ。


「優太君とはラブホテルに一緒に行っただけです」


 ……


 教室は静寂に包まれた。しかし先輩の投下した爆弾は時間差で大爆発。そのわずか数秒後、教室は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌した。


「最低ー!」


「憧れの先輩になんてことを!実に羨ま、じゃなくて許せん!」


「こんな思いをするのなら草や花に生まれたかった……」


「おい、結城!何とか言えよ」


 クラスメイト達は怖い顔で、俺に詰め寄る。


「ち、違う!俺と先輩はそんな関係じゃない。先輩も紛らわしい言い方はやめて下さい!」


「ご、ごめんなさい優太君。みなさん落ち着いて下さい!」


「そうそうみんな落ち着いて」


「わたくしと優太君は…お、お付き合い……ウッ……していません」


  先輩の大きな瞳から一筋の涙が流れる。もうその後は先輩の独壇場だった。


「ゆ、優太君はグスッ……何も、わ、悪くありません……ウゥ。わ、わたくしが、か、勘違いしただけ……で。か、彼女に……な、なれるとお、思った……グスッ……のに……。ううぅ……」


 嗚咽を漏らしながら泣くその姿は実に可哀想で、真実を知っているはずの俺でさえ胸が苦しくなるほどだった。ハイ、終わりました。どう見ても俺が最低クソギルティ野郎です、ありがとうございました。


「イヤー!最低!」


「お前、先輩になんてことを!」


「俺に死ねと言っているのかよ!」


 クラスメイト達は口々に俺を罵り始めた。ああ、なんでこんなことに……。ふと、皆の背後にいる先輩と目が合う。さっきの泣き顔はどこへやら、俺にあっかんべーをした。クッ、やはり今までのは演技だったのか。


「あ、あれは嘘泣きだ!ほら、後ろを見てくれ。皆騙されるな」


「えっ?」


 クラスメイト達は一斉に後ろを振り向いた。しかし先輩は瞬時に泣き顔にチェンジ。アカデミー賞受賞女優さながらのすすり泣きを始めた。なにこれ、昭和のコント?


「貴音先輩泣かないで下さい!」


「これのどこが嘘泣きなんだよ。貴音先輩に謝れよ」


「そうだ! 謝れ」


「あーやまれ! あーやまれ!」


「今後誰かが同じ過ちをしない為にも、ここは徹底的に叩くのが正解 」


 クラスメイト達からシュプレヒコールが始まった。誰も俺の言い分を聞いてくれない。それもそうか。一般生徒の俺とみんなの憧れの貴音先輩、信じるなら絶対後者だ。俺がみんなの立場でもきっとそうなる。それにしても集団心理は恐ろしい。ああ、痴漢とかで冤罪になった人もこんな気持ちだろうなぁ……。


 ひどい孤独感と絶望感の中、俺はひとり思い悩む。


 謝ったほうがいいのだろうか?でも謝ったら俺が悪いと全面的に認めることになるわけで。そうなると先輩の思う壺のような。だけど謝らないとこの場は収まらず、俺はみなみに告白できない。

 先すべきは幼馴染み。ならば自分のつまらない自尊心など捨て、とりあえず謝っておこう。そう思い口を開いた瞬間、救世主が降臨した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ