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やっぱり君は最高の幼馴染みだよ

  先輩が視界入る寸前、大音量の音楽が流れた。ハッと我に返り、慌てて視線を前に戻す。


「チッ、なんですの?雰囲気ぶち壊しですわ!」


「こ、この曲はーー」


  女性ボーカルの甘くしっとりとしたバラード。そして幼馴染みへの甘く切ない思いをこれでもか、と詰め込んだ歌詞。聞いているだけで幼馴染みと過ごした日々が蘇ってくるではないか! そうか、この曲は『俺ハー』陽子のキャラソンだ。でも、なんで? 俺は辺りをキョロキョロ見回す。ベッドの隅に置いてある俺のスマートフォン、どうやらここから音楽が流れているようだ。気に入ったから着信音に設定したんだっけ。

 そして音楽は30秒ほど流れ、消えた。そうだ、忘れていた。俺はーー。


「もう、優太君。携帯の電源は切らなくちゃ駄目ですよ。さ、続きをしましょう」


「……幼馴染み」


「はい?今なんて言いました?」


「俺は幼馴染みエンドしか認めねーーッツ!!」


  俺は大声でそう叫ぶと、くるりと後ろを振り向いた。


「いいですわ、優太君の好きなようにして下さい……。な、目を瞑っている……ですって!」


  そう、俺は固く目を閉じていた。そしてそのまま、手探り状態でバスタオルを先輩の体に巻きつけたのだ。


「キャッ!ど、どういうつもりですか?」


「先輩、こんなことはもうやめましょう」


  目を開けると、そこにはバスタオルを身体に巻きこちらを睨みつける貴音先輩。布一枚如きでは隠せない程の豊満ボディ。バスタオルから溢れそうな白い双丘が眩しい。流石Fカップ。

 だが、もう俺の心は乱されない。

  ありがとう、陽子。俺に本当の気持ちを思い出させてくれて。やっぱり君は最高の幼馴染みだよ。


「俺はやっぱりみなみが好きなんです」


「う、うう……」


「先輩がこんなに追い詰められているとは思いませんでした。気がつかなくてすみません。だから……」


「うるさい!うるさい!この×××野郎が!」


「えっ?」


   突如、先輩の口から信じらない位下品な言葉が飛び出した。そして先輩は俺を押し倒すと、そのまま腹の上に馬乗りになった。


「うっ、苦しい。先輩、や、やめて下さい」


「ここまできて、やっぱりやらないってどういうことですか!この××××!貴方はそれでも男なんですか! 」


「痛え!」


  先輩は髪を振り乱しながら、俺の頰を殴ぐった。しかもグーで。 その形相は凄まじく、目は釣り上がり、歯もむき出しだ。まるで鬼。俺が天使と崇めていた先輩はどこにもいなかった。さっきの妖艶な先輩とも違う。どれが本当の先輩なんだろう?


  「パーフェクト美少女の私がここまでしてあげているのに!なんで貴方は私の思い通りにならないんですか!」


「せ、先輩」


「私のどこが駄目なんですか……。どこが気に入らないんですか。神岸さんより、私の方が絶対可愛いいのに」


  先輩は両手で顔を覆い、下を向いてしまった。もしかして泣いているのか? そう心配しはじめた時、先輩は顔を上げた。いつもの優しい笑顔、だがその目付きは虚ろで。 ……なんだかすごく嫌な予感がする。


「……いいことを考えました!そうですよね、ウフフ、挿れてしまえばこっちのものですわね」


「えっ……」


「優太君、その童貞頂きます!」


「うわあああ、や、やめ、やめろーー」


  先輩はペロリと舌なめずりすると、俺に覆い被さってきた。その目付きはまるで猛禽類のようにギラギラしている。


  喰われるーー。その時の俺の心境はフクロウに狙われるネズミに近かっただろう。命の危険まで感じるレベルだった。俺は必死で抵抗する。しかし先輩の細い腕は予想以上に力強く、全く振りほどけない。俺たちはそのままもみ合いになった。


「往生際が悪いですわよ、優太君!ほら、何が不満なんですか?こんな可愛い女の子で童貞を捨てられるんですよ。しかも私は処女です!すごいスティタスではないですか!来世でも自慢できますわよ」


「い、嫌だ。俺は好きな人とじゃないとこういうことはしたくない!」


「全てが終わったら……、そう最後までヤレば、きっと私のことが一番好きになりますわよ」


  先輩のセリフを聞き、俺はようやく確信した。


  「……やっぱり俺はみなみが好きです。例え先輩とみなみ、2人と同時期に会っていたとしても、俺はみなみを選ぶ!」


「何を馬鹿なことを!私がみなみさんに劣る部分なんてひとつもーー」


「みなみ一択です!だって俺は自分を大切にできない女の子なんて大嫌いですから!」


「……えっ」


  一瞬先輩の力が弱くなったのを、俺は見逃さなかった。先輩を突き飛ばすと、スマートフォンをつかんで立ち上がった。そしてそのまま、出口に向かって全速力で走り出す。


「行かないで……」


  扉を閉める瞬間、消えそうな程弱々しい先輩の声が聞こえた。


「ごめんなさい、先輩」


  そういい残すと、一度も振り返ることなくラブホの廊下を走り抜けた。





  外はすっかり雨が止み、夕焼け空になっていた。ああ、世界はなんと美しいのだろう。生きているって素晴らしい!ーーと、手に持っていたスマートフォンが再び鳴りはじめた。俺は迷わず通話ボタンを押す。


「もしもし」


『あっ、ゆう?なんでさっき電話に出なかったんだよ』


「リョウか……」


  聞き慣れた親友の声を聞き、ようやく全身の力が抜けた。ああ、本当に怖かった。


「さっきの電話してくれたのはお前だったのか」


『うん、そうだけど。なに?電話しちゃ駄目だったの?』


「いや、むしろ逆だよ。ナイスタイミング!ありがとう」


『なんだか話が見えないんだけど』


「詳しくは後で話すよ。それより、何か用か?」


『いや、用ってわけではないんだけど。今日、貴音先輩の告白を断るって言ってたじゃん。どうなったかなーって心配だったからさ』


「リョウ……。お前って奴は……」


  目頭が熱くなる。こんなに思いやりのある親友を持って俺は幸せだな、と心から思った。ああ、涙だけじゃなく鼻水まで出てきたぜ……。


「はっくしゅん!! 」


『どうしたの?大丈夫』


「ああ、だ、大丈夫だ」


  さ、寒い!そういえば俺バスローブ一枚じゃねーか。足も裸足だし。そうだ、濡れた服はラブホに置いてきたんだった。通行人もこちらをジロジロ見てくる。そうだよな、ラブホ前でバスローブ一枚でうろついてる男子なんていかにも怪しい。俺はこそこそと物陰に隠れる。

 今更洋服を取りに行くことなんてできないし、このまま歩いて家にも帰れない。そうなると残された方法はただひとつ。気は進まないが、背に腹は代えられないか。


「あの、リョウさん。大至急持って来て欲しいものがあるのですが、よろしいでしょうか」


『うん、いいけど。なんで敬語?』


「上着にズボンに靴、あとできたらパンツも……」


『はぁ?なんだよそれ! 』


「頼む!後で全部説明するから!場所は自然公園近くの……ラ、ラブホ前」


『ラ、ラブホって……。ゆうゥ!』


「ヒィッ!な、なにもやましいことはしてないよ。あっ、ちょっとはしているかもだけど、セーフというか」


『すぐ行く……。ちゃんと全部説明してもらうからね』


  電話は切られ、ツーツーという電子音だけが無常に流れてくる。ああ、これは面倒なことになりそうだなぁ。俺は夕焼け空を見上げ、1人呟いた。


「とほほ、もうラブホはこりごりだよ〜。は、くしょん! 」


  ちゃんちゃん。

先輩ルートは次で完結です

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