すごいですね、幼馴染みって
貴音先輩を振ることができた優太。しかし物語は続きます。
「あの優太君、ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です」
「……はい」
それからしばらくして、先輩は俺から離れた。涙はすでに止まっていたが、目が真っ赤だ。なんだかすごく痛々しい。
「優太君、そんな顔しないで下さい。わたくしはもう大丈夫ですから」
「なんか、本当にすみません」
俺は再び大きく頭を下げる。すると先輩の綺麗に揃えられた眉が、怒ったように釣り上がった。
「あっ、また謝りましたね!もう謝るのは禁止ですよ。もうこれは終わったことなんですから」
「で、でも」
「これからも、わたくしとは今まで通り付き合って下さい。こんなことで気まずくなるなんて嫌なんです。だってわたくしにとって、優太君は大切な後輩であることには変わりないんですから」
「俺もそう思っていました。先輩が許してくれるなら……これからもどうかよろしくお願いします」
「よかったですわ! もう湿っぽいのはおしまいですね。ほらほら、お菓子はまだありますよ。どんどん食べて下さい」
「は、はい。いただきます」
先輩はいつもと寸分も違わない天使の微笑を浮かべている。ああ、なんて強い人なんだろう。自分を振った相手に、こんなに気遣いができるなんて。
こんな素敵な先輩なら、すぐに俺なんかよりイイ男に巡り会えるだろう。そして先輩には幸せになって欲しい。俺はそんなことを一人願いながら、手作りのカップケーキにかぶり付く。うん、やっぱり美味いな!
「……それで、ひとつだけ教えて欲しいことがあるんですけど」
「ふぁい、なんでひょう」
「優太君は、神岸さんのどんなところが好きなんですか? 」
俺は思わず吹き出した。
「ああっ、優太君大丈夫ですか?」
「……だ、大丈夫です。それよりなんでそんなことを」
「はい。やっぱり自分の好きな人、いえ、好きだった人がどんな人を好きになったか知りたいんです」
「え、えーと」
「教えて下さい! 聞いたら辛くなるのはわかっています。でも私、どうしても知りたいんです」
うーん、そんなものなのか? 俺だったら絶対聞きたくないけど……。でも先輩は真剣な顔をしているし。うん、先輩が望むなら答えるべきだよな。
「わかりました」
「ありがとうございます。それで、みなみさんのどんなところが一番好きなんですか?」
「え、えーと、みなみの一番好きなところは」
うーん、改めて聞かれるとなんだか困るな。みなみの一番好きなところか……。
やっぱり『幼馴染み』であるところ? いや、それは大きな要因のひとつだか決定打ではない。元気なところ? いや、お節介世話焼きなところも捨てがたい。あ、笑顔がかわいいところも好きだな。うーん、いくらでも出てくるけど、どれもしっくりこないような。
あっ、そうか!俺がみなみの一番好きなところはーー。
「頑張り屋さんのところですかね」
「頑張り屋さん、ですか? 」
先輩は意外ですわ、という顔をしている。
「はい、みなみはとっても頑張り屋さんなんです。みなみが一年生にしてテニス部のエースのことは知ってますよね」
「はい。そういえば、この前全校集会で表彰されてましたね」
「関東大会でベスト4位ですよ! でもそれは努力の結果なんです。みなみは昔から、それこそ俺と出会う前からテニスが大好きで、誰よりも練習を頑張っていたんです。部活はもちろん、朝夕の自主トレ、休日は有名なコーチのいるスクールへ通って……」
「すごいですね」
「はい! ひとつのことにここまで一生懸命になれるってすごいことだと思うんですよ。俺なんてなんでも中途半端で。だからみなみのそんなところが好き、いや尊敬しています。そうそう、小さい頃はこの公園で一緒にソフトテニスをしたんですよ。俺は全然打ち返せなくて、すごく馬鹿にされたっけなぁ」
昔の記憶がよみがえる。テニスをしているみなみは、特別キラキラしていたっけ。
「そんな俺だから、みなみにしてあげられることなんて何もないけど……せめてアイツの夢を応援していきたいと思っています」
「……」
「あ、あの先輩?」
先輩は急に黙って下を向いてしまった。小刻みに揺れているし、まさかまた泣いているんじゃ……。
「だ、大丈夫ですか」
「す、すみません。つい可笑しくて。ププッ」
どうやら杞憂だったようだ。先輩はいかにも楽しそうに笑っていた。うん、何故だ? 今の話に笑うポイントはなかったはずだぞ。
「えーと」
「真面目な話をしていたのに、ごめんなさい。私が笑ったのは、話の内容ではなく、優太君の表情です」
「は、はぁ?」
「自分では気が付いてませんでした?みなみさんの話をしている優太君は、とっても笑顔で嬉しそうで」
「あっ、ソ、ソウデシタカ」
顔がカーッと熱くなる。やべえ、滅茶苦茶恥ずかしいんですけど。
「あーあ、私といるときはそんな表情したことなかったのに」
その時、先輩の顔が悲しく歪む。でもそれはほんの一瞬で、すぐに元の天使に戻った。
「完敗です。いや、最初から私が入り込む隙なんてなかったんですね。優太君とみなみさんの間には強い強い絆があるんですから」
「……はい。俺とみなみは幼馴染みですから」
「すごいですね、幼馴染みって。でもおかげで、私吹っ切れました」
そう言う先輩の顔は、本当に晴れやかで。まるで今日の青空みたいだった。




