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俺はみなみが好きなんです

「はい、優太君。到着しましたよ〜」


 先輩のオッパイから解放され、正気に戻った俺の目に最初に飛び込んできたは、抜けるような青空だった。空の下には豊かな芝生が広がり、子供達が楽しそうに駆け回る。少し遠くに見えるのは赤レンガの建物ーーあれは図書館だな。そうか、ここは近所の中央公園だ。小さい時はみなみとリョウの3人でよく遊んだなぁ。


「えっ、なんで公園なんですか?」


「はい、今日はピクニック日和ですから」


 先輩は持っていた大きなボストンバックからレジャーシートを取り出すと、その場に広げ始めた。レジャーシートはせいぜい2人座れる程度の大きさだ。先輩はそこに座ると、空いたもう一人分の空間をポンポンと叩く。


「ほらほら、優太君も座って下さい」


「あっ、ハイ。お言葉に甘えて」


「実はですね、他にもいいものを持ってきたんですよ」


 すると先輩はバックからランチボックスを取り出した。ぱかりと蓋を開けると、そこには美味しそうなカップケーキが6つ。あたりに甘いいい匂いが広がる。も、もしや、これって……。


「ガトーショコラです。私が今朝焼いたんです。よかったらどうぞ。優太君のお口に合えばいいんですけど」


 先輩は恥ずかしそうにケーキを差し出した。うおおおおお!やっぱりそうか!せ、先輩の手作りケーキだと!ヤバい、テンション上がってきた!


「い、いいですか?それじゃあ遠慮なく、いただきます」


「ハイ、どうぞ召し上がれ」


  俺はカップケーキに噛り付いた。口の中にチョコレートの優しい甘さが広がる。

 

 「おお、外はサクサク、中はしっとり。チョコも主張しすぎずちょうどいい甘さ。まるで主人公の傍らで優しく微笑えむ幼馴染みのようだ」


「えっ、幼馴染み? それってどう言う意味ですか?」


「あっ、すみません。その、最高に美味しいって意味です」


「うふふ、よかった。気に入って貰えたみたいですね。まだありますから、たくさん食べて下さい」


「ふぁい、それじゃあ遠慮なく……。うっ、ゴホゴホッ」


「あら大変! 紅茶もありますから、飲んでください」


 盛大にむせ込む俺に、先輩はコップを渡してくれた。うん、この紅茶も温かくて美味しい。それにしても先輩は水筒まで持って来たのか。女子力高いぜ……!それにしてもあのボストンバック、何でも入っているんだな。


 「ふぅ、やっと落ち着きました」


「もう優太君ったら、お菓子は逃げないから落ち着いて下さいよ。ウフフ」


「いや〜本当に恥ずかしいです」


 遠くから子供のはしゃぐ声が聞こえ、大きな雲がゆっくり流れていく。俺の隣には、天使の微笑を浮かべた貴音先輩。そして大きなオッパイ。ああ、俺はこれ以上望むモノなんてあるのだろうか?いや、これ以上の幸せなんてきっとない。この時間が永遠に続けばいいのに……。

 






 ーーじゃねーよ!


 何マッタリしているんだ、俺は!


 告白を断るために、わざわざ先輩を呼び出したんだろ! 先輩って意外と家庭的なんだなぁ、結婚したらいい奥さんになりそうだなぁ。なーんて考えてる場合じゃないだろ。結婚生活にまで思いを馳せるな!


 またいいように流されて、これじゃあエレナの二の舞じゃないか! よく考えろ、俺が本当に一緒にいたい相手は誰なんだ。……浮かんでくるのは、やっぱりみなみの笑顔だった。

 うん、やっぱり俺にはみなみしかあり得ない。それなら男らしく覚悟を決めるんだ! 胡座から正座に座り直し、背筋をピンと伸ばす。


「先輩、大切なお話があります。今日呼び出したのは、この前の告白の返事をするためです」


「はい」


「先輩は俺にとって大切な存在です。いつも親切にしてくれて、とても尊敬しています。……でも」


 そこで俺は言葉を切った。先輩の黒目がちな大きな瞳が、じっと俺を見つめている。

 

 ああ、この先は言いたくない。


 沈黙はわずか数秒だっただろう。でもなんだか俺にはすごく長く感じて。きっと先輩はもっと長く感じているだろう。だから、やっぱり、俺はここで先輩にきちんと伝えなくちゃいけないんだ。

 俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「俺はみなみが好きなんです。付き合うなら彼女以外は考えられないくらいに。だから……先輩には本当に申し訳ないんですが、お断りさせてもらいます」


 俺は地に手を付き、そのまま頭を下げた。ああ、土下座ごときで許されるのだろうか。


「……どうか、頭を上げて下さい。優太君の気持ちはよく分かりました」


 エレナみたいに罰ゲームならいいのに、そんなつまらない期待を抱きながら顔を上げた。しかし、そんな虫の良い話はそう何度も続くはずはなく。

 待ち受けていたのは、大粒の涙をポロポロと流す先輩の姿だった。俺は先輩の笑顔が大好きだった。それなのに彼女から笑顔を奪ってしまったんだ……。ズキリと胸が痛くなる。でもこれが、俺の選択の結果なんだ。目を逸らしてはいけない。


「せ、先輩……」


「気にしないでください……。グスッ、人の気持ちばかりはどうにもならない、そんなことは分かっていますわ。……だけど、最後にひとつだけ、私のお願いを聞いて下さい」


 先輩はいきなり抱きついてきた。

 

「ちょっ、せ、先輩」


「グスッ、お願いです……。今だけ、ここで泣かせで下さい……。そうすれば私、もう何もかも諦めますから……」


 俺の胸に顔を埋めると、先輩は声を殺して泣き出した。嗚咽がたまに漏れ聞こえ、綺麗な黒髪がサラサラと流れる。きっとこういう場面では、先輩を抱きしめてあげるのが正解なんだろう。

 でも何もできなかった。そんな無責任な行為はただ先輩を傷付けるだけだ。だって俺は先輩の彼氏にはなれないんだから……。両の手をぎゅっと握りしめて、ただ先輩が泣き止むのを待つことしかできない。


 


 ああ空はこんなに青いのに、どうして俺の心は土砂降りなんだ?

ゆうちゃんも成長しましたね

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