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エレナside:私って本当に馬鹿だ

エレナ視点です。

 私は1人夜の街を走り抜ける。この街はそうじゃなくても人が多いのに、夜になったらより一層増えたみたい。道には人があふれていて、まっすぐ走れない。何度も人にぶつかった。

息も苦しくて、心臓もバクバクしている。足もなんだか痛くなってきた。でも、止まらない。


ーー私はあの日の事をことを思い出していた。



  あれは確か、高校に入学して一ヶ月経った位だったと思う。学校が終わり、私は帰宅するために1人電車に乗っていた。

 車内の座席は空いてなくて、ちらほら人が立っていた。あんまり人付き合いとか好きじゃないから、私はすごく疲れていて。ツイてないなと思いながら、扉に寄りかかった。その時に車窓からみえる新緑がやけに眩しかったのを今でも覚えている。

 車内は静かで、しかも暖房が効いてて暖かいから、私は少しウトウトしてしまった。瞼がすごく重くて、とても目を開けてなんていられなかった。


突然の怒鳴り声で、私は我に返った。


声をした方を見ると、いかにもヤクザみたいな怖い顔したオッサンが、2人の子供に絡んでいた。子供の方は小学3年生くらいの男女で、男の子の方が女の子をかばうように立っていた。女の子は泣いていて、男の子は歯を食いしばって耐えている。でも目は涙で潤んでいたし、足はガクガク震えていた。


そりゃあそうだよね、こんな怖いオッサンに絡まれたら怖いに決まっている。でもオッサンは、子どもだからって全然容赦しなくて、ずっと馬鹿みたいに怒鳴ってた。足を踏んだのが許せないんだって。くだらない。

 明らかにオッサンはやりすぎだった。誰かが止めなくちゃいけないんだけど、他の客はみんな見てみぬフリをしていた。

 私は舌打ちした。やっぱりこの世の中にはヒーローなんていないんだ。ヒーローはアメコミかスクリーンの向こうにしか存在しないのか、と思うとなんだか悲しい気持ちになった。

 そうだ、私が止めればいいじゃん。ヒーローに憧れて空手を習い初めて、努力の甲斐もあり今は黒帯だ。きっと襲われてもなんとかなる。もしかしたら、カッコよくあのオッサンを叩きのめせるかもしれない。そうすれば、私がヒーローになれる!

 でも、私の足は動かなかった。いや、動けなかった。情けないことに、恐怖で足がすくんでしまった。私もここにいる奴らと同じでただの傍観者なんだ。私はヒーローにはなれない。悔しくて、唇を噛んだ。その時だった、ヒーローが現れたのはーー。


「や、やめろよ。謝っているじゃないか」


1人の男子がオッサンを制止した。あれは、ウチの制服?よく見ると、見覚えのある顔だった。たしかあれは同じクラスの……駄目だ名前は思い出せない。教室の隅の方でこそこそとゲームをしているような、まぁいわゆるオタクって奴だ。クラスでも陰キャのアイツがなんで?


それから先は一方的だった。次の駅で引きずり降ろされたアイツは、オッサンにボコボコに殴られた。私はやっぱり怖くて、コッソリ駅員を呼びにいくことしかできなかった。

駅員にオッサンが連行された後、私はアイツに声をかけた。


「アンタ馬鹿でしょ」


私って全然可愛くない。本当は褒めてあげたかったのに、変なプライドが邪魔して意地悪なことを言っちゃった。アイツの顔は殴られたせいで赤く腫れて、いかにも痛そうで。なのに、アイツは私に笑って見せた。


「あ、恥ずかしいところ見られちゃったな」


「なんでアンタはあの2人を助けようと思ったの? 弱いくせに」


「なんて言えばいいのかな。気がついたら足が動いていたんだよ」


「どういうこと? 」


「あの絡まれていた2人、会話から察するとどうやら幼馴染みらしいんだ」


「ハァ?幼馴染みがなんで関係あるのよ!」


「俺はさ、全ての幼馴染みには幸せになって欲しいんだ。だから困っている幼馴染みを見捨てることなんてできなかった……それが俺の答えだよ」


はっきり言って意味が分からなかった。でも照れ笑いをするアイツはスゴく格好よくて。

 自分の正義を信じて実行する。それはやろうとしても、なかなかできることじゃない。でもアイツは迷わずやってのけた。他の奴とは全然チガウ……。正真正銘のヒーローだ、と私は思った。


その後から私は気がつくとアイツの姿を目で追うようになった。アイツを見るとなんだか胸がドキドキして、その感情が恋だと気付くのにあまり時間はかからなった。


でもやっぱり私は弱いから、自分の気持ちに正直になれなくて、アイツ嫌なことばかり言ってしまった。


本当は仲良くなりたかった。でもそんなキッカケもなくて。あの日みなみに、素直にならないと気持ちは伝わらないと言われて、私はアイツに告白する決意をしたんだ。


ーーでも、駄目だった。


振られることはなんとなく分かっていた。アイツがいつもみなみのことを見ていたのを、私は知っていたから。私は自分を変えたくて、素直になりたくて、強くなりたくて告白をしたんだ。結果なんてどうでもいいと思ってたのに。


やっぱり私はアイツのことを諦められなくて。


やっぱり私は自分が可愛いくて。


最後の最後でひどい嘘をついてしまった。罰ゲームなんて大嘘だ。私はアイツに振られたことを認めたくなかったんだ。でもアイツは私のことを一言も責めなくて、むしろ心配してくれた。やっぱり私は優太のことをーー。



 その時、私は躓いて派手に転んだ。硬いアスファルトに身体が叩きつけられて、さっき買ったばかりの漫画が散らばった。せっかく優太が選んでくれたのに。

 拾ってくれる優しい人なんていなかった。みんな無関心で通り過ぎていき、中には容赦なく踏んずける奴もいた。私は1人漫画を拾い集める。表紙に描かれたヒーローだけは私にカッコよく笑いかけてくれる。

 ヒーローの顔に水滴がポタリと垂れた。おかしいな、雨なんて降っていないのに。でもポタリ、ポタリととめどなく水滴は垂れてくる。ああ、そうか。これは私の涙か。


視界がぼやける。街のネオンの光も喧騒も、なんだか遠い別世界のように感じた。


 ああ、私って本当に馬鹿だ……。

これでエレナルートは終了です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。次回からは貴音先輩ルートになります。

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