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でも、俺はみなみが好きだ

 俺たちは、店のすぐ目の前にある公園で話をすることにした。陽はいつの間にやら落ち、辺りはすっかり真っ暗になっていた。そのせいか園内には俺たち以外の人間は見当たらず、ひどく静かだ。なんだか、世界に俺たちふたりきりしかいないように錯覚してしまう。


「それで優太、話って何?」


「えっと、その……」


 言葉が全く出てこない。自分の気持ちを伝えるぞ、と息巻いたはいいがどう話したらいいのか。やばい、頭の中が真っ白だ。


「何もないなら、早く帰るわよ。ここ寒いし」


 エレナはくるりとこちらに背中を向け、そのままスタスタと歩き出してしまった。彼女がどんどん遠くなる。

 ああ、またこのパターンか。自分の気持ちを伝えられず、俺はただ背中を見ているだけ。挙句の果てに、エレナで妥協しようと思ってしまった。俺は本当に最低だ。こんなクズ野郎は幼馴染みーーみなみには相応しくない。


 だから、俺は変わるんだ!幼馴染みエンドを迎えるに相応しい主人公に!


「待ってくれ、エレナ!俺はあの日の返事をしたいんだ! 」


 エレナはその歩みを止めた。ああ、ついに言ってしまった。あとはもうどうにでもなれ!だ。


「あのさ、今までエレナのこと誤解していたよ。なんだか冷たくて、怖い女の子だと思っていたんだ。でもそれは間違いだと分かったんだ」


「……」


 エレナはこちらを振り向かず、ただ黙って俺の話を聞いている。今彼女はどんな表情をしているんだろうか?


「ニコニコ笑うエレナはすごく可愛くてさ、俺ドキドキしっぱなしだったよ。エレナとヒーロー漫画の話をできて楽しかったし。この1日でエレナのことをたくさん知ることができてよかったよ」


「それなら私と付き合ってくれるの?」


「えっと……その……」


「答えてよ……優太」


 エレナがこちらを振り向いた。その表情は不安で歪み、潤んだ青い瞳は縋るように俺を見ている。

 心がズキリと痛んだ。本当の気持ちを伝えたら、きっとエレナは傷付くだろう。せっかく勇気を持って俺に告白してくれたのに。誰かを選ぶということは、誰かを切り捨てなければいけない。理解していたつもりだったが、こんなに残酷なことなんだな。でも、俺はもう決めたんだーー。

 大きく息を吸い込むと、こう叫んだ。


「でも、俺はみなみが好きだ!」


 公園に俺の声が響く。口の中はカラカラで声は掠れ、心臓は激しく早鐘を打っている。ああ、ついに言ってしまった。

 

「だから、俺はエレナとは付き合えない。せっかく告白してくれたのに、ごめん」


 それから俺は頭を大きく下げた。申し訳なさすぎて、顔を上げるのが怖い。このまま残りの人生、地面を見ながら生活したいくらいだ。

 しかしーー。


「馬鹿じゃないの」


 エレナの口から飛び出したのは、予想外の言葉だった。頭を上げると、そこには氷の妖精がいた。


「あ、あのエレナ?」


「『アンタ』のことなんて好きなわけないじゃん。本当に馬鹿ね」


「えっ?」


 エレナの表情はいつものようにマイナス40℃。いかにも不機嫌そうに舌打ちをした。それにいつのまにかアンタ呼びに戻っているぞ。エレナの発する冷気に、背筋がゾクゾクする。


「罰ゲームでアンタに告白しただけよ」


「え、ええ? ば、罰ゲーム」


「そうよ。罰ゲーム。私がアンタみたいなキモオタを好きになるわけないじゃん。ちょっと考えたら分かるでしょ。それなのに勝手に一人で盛り上がって、見ていて滑稽だったわよ。あーやっと終わった。演技するのも大変だったわ」


 ようやく謎が溶けたぞ。エレナが俺のどこに惚れたのか、それが最大の疑問だったんだ。だって俺、エレナに好かれる要素ないもんな。イケメンでもないし、運動神経はゼロだし、学力は中の上だし、幼馴染みでもない。おまけにオタク。クラスでも席が近い位で、あまり関わることもなかったなぁ。


 なるほど、罰ゲームか。うん、これで納得がいくな。……もうやめて、もう俺のライフはとっくのゼロよ!しかし、不思議なことに怒りの感情は全く湧いてこない。


「何よ、なんか言いたいことがあるの? 文句のひとつくらいは聞いてあげるわよ」


「いや、よかったよ」


「は、はあ? なにそれ、意味分かんない」


「だってエレナはこれで傷付かないだろ」


「なに強がってるのよ! 本当につまんない! もう私帰るからね、バイバイ」


 エレナは背を向けると、そのまま走り出した。一度もこちらを振り向くことなく、人混みの中に紛れ見えなくなった。


 再び公園に静寂が訪れる。取り残された俺は、ただ呆然と立ちすくむ。


 ああ、やっぱりリアルの女の子って怖い! 今までのデレっぷりがまさか演技だったなんて。すっかり騙されたぜ。やっぱり普段から優しい幼馴染みが一番だな。みなみが恋しいぜ……。


 でも。


 俺はエレナの笑顔を思い出す。無邪気で春の桜みたいなあの笑顔は、本当に演技だったんだろうか?

 そんな疑問がふっと湧いてきた。それはまるで小さな棘のように心に突き刺さり、しばらくの間は気になって仕方がなかった。

次回でエレナルートは終了です。

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